黄色☆サンタクロース
「今日からサンタの制服は赤じゃなくて黄色、ソリはソーラーカー、トナカイは全員解雇とする!」
そう言い放ったのは、今期からサンタ・カンパニーの社長に就任した、ちょっと小太りでぐりぐりの目玉を持った男性だった。
朝の7時、サンタ・カンパニーの講堂に集められたサンタクロース達は、その言葉を聞いて、ざわざわと騒ぎ始める。
社長は言い終わると満足気な表情を浮かべて、背中を少しそらせながらえらそうに講堂を後にした。
社長は大の風水好きで、金運上昇のために黄色に変えただとか、エコポイントが欲しくてソーラーカーを買わせただとか、色々な噂が飛び交っていた。
しかし寒空の下、ソリに乗るのはいくらサンタウェアが暖かい造りだからといって、寒くない訳ではなかった。
そのためサンタたちは誰も反対しなかった。
勿論、サンタたちは冬だけの短期アルバイトであるので、あまり大きな問題でもなかったようだ。
一方打撃を受けたのはトナカイ達だった。
全員解雇を告げられた日の昼頃に、僕たちはいい加減に山に放された。
今まで人間とともに暮らし、餌を与えられ家もあった僕たちが、突然こんなところで暮らしていける訳がなかった。
町ではもう既に、僕たちの噂は広まっていて、運ばれるトラックの中にいる僕たちを見る人々の目は同情と軽蔑の入り交じったもので、それはもう惨めだった。
餌を漁って、人間たちに復讐をするために町へ下りようと誰かが言った。
そんなことしたら、人間たちのトナカイに対するイメージは酷いものになって、もう二度と戻れなくなるからここは我慢しようと、誰かが静かになだめた。
一体そんな日がいつくるのかなんて、とうてい想像出来そうになかったけど、誰ももう何も言わなかった。
次の日僕たち数人は、復讐のためではなく、もしかしたら町を歩いてみたら、同情から食べ物を恵んでくれる人がいるかもしれない、あわよくば飼いたいと子供が親にねだってくれるかもしれない…という淡い期待を抱きながら、町へと下りた。
山の夜は寒くて、お腹も空いたから、とにかく何かしたかったのかもしれない。
「見てー、トナカイが歩いてるよママー」
「あらあら本当ねえ、可哀相に…」
だけどやっぱり、そんな期待は簡単に打ち砕かれて、ただ指をさして笑う子供達とすれ違うだけで、何かをしてくれる人には出会わなかった。
クリスマスに、サンタと一緒にソリに乗って現れれば、誰もが喜んでくれたのに。どうして。
びゅうびゅうと吹き付ける風が冷たい。
僕たちは公園で休むことにした。
ベンチの後ろには木陰があって、寒かったけど外からは隠れる場所でちょうどよかった。
どうせなら、奈良公園とか、宮島とかに放してくれれば良かったのに。
そうしたら、一風変わった鹿の仲間として、観光客や鹿たちに、受け入れてもらえたかもしれない。
それか地球のずっと北の方、ツンドラに住む野生トナカイ達に習って、狩りの仕方とかを教えてもらえたかもしれないのに。
それくらいの配慮があったって良かったんじゃないか。
しばらくして、他の二人が立ち上がった。隣町や、ずっと向こうまで、とにかく行ってみるという。
僕は座ったままで、此処に残ると言った。もう疲れてしまった。
サンタは、元気だろうか。
ここ最近、4年くらいのパートナーは、新人の男の人だった。
若いのに、落ち着いていて、ゆっくりとした口調で喋る人だった。
すごく優しかった。なんだか会いたくなってしまった。
最後のお別れだけでも、言いたかったな。
そんなことをぼんやりと考えていたら、公園に赤いサンタクロースが入って来るのが見えた。
僕のパートナーだったサンタに、そっくりだった。
僕は考えすぎて、夢か現実かわからなくなって、瞬きをした。
瞬きをしても世界は変わらない、現実なんだと判断した。
でも、どうして。
「……やっと、見つけた………っ」
座っている僕の目の前で、膝に手をあてて肩で息をするサンタが、言った。
どうして僕を探すの?
どうして赤い服を着ているの?皆黄色い服に変わったはずなのに。
「独立して、来たんだ」
変わらない笑顔で彼は続ける。
「……いつか、黄色いサンタやソーラーカーに飽きて、また赤いサンタやトナカイを、皆が喜んでくれる日が来るさ。だから、それまで、一緒に頑張らないか?」
僕は頷いた。そしてありがとうと言って立ち上がった。
すると、赤いサンタはどこからか黄色いサンタの帽子を取り出して、僕に被せた。
「勝手にひとつ、持って来ちゃったんだ。…内緒、だぞ?」
そう言って人差し指の先を口にあてて、僕を見て彼は微笑んだ。
「ああ、やっぱり似合う。君には黄色が似合うな。トナカイに、黄色い服を着せてあげれば良かったのにな。」
あなたも赤色が似合ってるよと言ったら、照れたように笑った。
頭に被せられた帽子は、とてもとても、温かかった。
(おしまい)