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茶色☆サンタクロース

「いらっしゃいませ!何かご用ですか?」


 厚化粧の若い女店員が、にこやかに尋ねる。



「サンタクロースを、注文したいんですけど…」


 ゆっくりと、私は答えた。





    *     *






 ことの始まりは3日前、小学一年生の息子、拓也の言葉からだった。



「ねえ、うちのサンタって何色なの?」




 突然の質問に、ただでさえこの季節、息子の口から“サンタクロース”の言葉を聞く度にドキリとしてしまう私は、すぐに言葉を返すことが出来なかった。


 なんでも、学校の冬休みの宿題に、【ぼく・わたしの家のサンタクロース】の絵を書いてくるというのが出されたらしい。


「タクちゃんちは青色、マヒロんちはピンク色のサンタが家来るんだって。おれ、いつも早く寝ちゃうから……、今年は、サンタが来るまで待ってるんだ。」



 さて、困ったことになった。



 クリスマスパーティーで仮装して現れるサンタクロースのようなことを、今の時代どこの家でも、父親が買って出てやってるのかしら。



 拓也には、父親がいない。

 どこにいるかも知らないし、今頃どこかで野垂れ死んでるかもしれないわね。

 連絡先を知っていたところで、あんな人に頼るなんてまっぴら御免だわ。





 翌日私は、同年代の子供を持つ友人に電話した。



『ああ、なんか今流行りらしいわよ。色の違うサンタ。ほら、ランドセルもカラフルな時代でしょ?』

「へえー…。」

『でもそれを、アンタが着る訳に行かないものね』

「…うん」

『あ、そうだ。サンタクロース注文すればいいじゃない』

「………注文?」

『頼んだら来てくれるのよ。受け付けはデパートの3階の――――』






 そして、今に至る。




「この中からお好きな色をお選び下さぁい」

「わあ、たくさん…」

「1番人気はブルーでぇ、今の流行はパープルですぅ」



 いちいち語尾を伸ばす店員が、タッチパネル式のディスプレイに映った12色のカラー達を指差す。



「あっ、でもちょっと待って下さいね。あーやっぱり!こんな時季なんでぇ、ほとんど在庫残ってなくてこの辺の微妙な色しかないんですけどぉ…どれがいいですかぁ?」



 店員がディスプレイを軽くタッチすると色たちは一瞬で消え、残ったのはブラックとホワイト、そしてブラウン。

 なんだか見たことがある組み合わせ。12色の中でいつも残るのは――――、






   ◇  ◇  ◇



  可愛いモノが大好きな

   ミカちゃんはピンク


  美形のタケル君は青


  ちょっとおませさんな

   チハルちゃんは紫


  元気いっぱいの

   ヒロキ君は赤……


  みんなでお絵かきしようとすれば、

   結局残るクレヨンの色はいっつも“茶色”だった。



  黒や白は、色塗りには適さない。



  だから、皆よりちょっとだけ

   とろくさい私はいつも


  “残りモノ”

   のクレヨンを手にとった



  だって平和主義だし


  クレヨンを取り合ったり

   なんてしたくなかったし…



  それに皆が選ばないような色を


  持ってる自分が誇らしく感じられて


  少しわくわくしたんだ



  自分は自分なんだってことを


  確認出来たみたいに



   ◇  ◇  ◇






 そんなことを思い出して、私は少し笑った。



「じゃあ、茶色で―――。」



 模様も選べますよぉという店員にチェック模様をお願いし、プレゼントを持ってクリスマスまでにまた来て下さぁいと言う変わらない口調の店員に会釈をして、私はデパートを後にした。







    *  *







 数日後、受け付けまでやってくると、先日の店員は別の客の応対をしていた。



「1番人気はブルーでぇ、今の流行は……」



 どこかで聞いたことのある台詞だった。

 当然といえば当然なのだけれど、少し寂しさを覚えた。




「ご注文ですか?」


 すぐに別の店員が、ぼうっと立っていた私に声をかける。

 背の高い、眼鏡をかけた真面目そうな男性だった。

 私は少し慌てて、ラッピングされたプレゼントとお菓子の入った赤い長靴を渡す。



「先日、注文した小崎です。コレを、お願いします」

「はい、小崎様ですね、お預かりします。」


 店員の腕におさまった赤い長靴を見て、どうせなら茶色にすればよかったかなって思ったけどもう遅かった。

 そもそも、茶色い長靴なんて売っているのかしら。



「では此処に、サインをお願いします」


 再び、紙切れとボールペンを持って現れた店員の手元には、プレゼントと長靴はもうなかった。







    *  *








 そしてイヴの日がやってきた。

 拓也はさっきから、まだかな、まだかなと呟きながら廊下とリビングを行ったり来たり。





 茶色なんて嫌だ!って、漏らされるかもしれないけれど、“きっと茶色を塗ってくる子なんて誰もいないよ?拓也だけだよ!”とでも、声を潜めて囁いてやれば、目立ちたがり屋の息子は、唇を尖らせながらも、内心得意げになることだろう。

 それとも知らない間に、私の茶色好きを受け継いでいることがわかるかもしれないわ。



 果たして、いったいどんな反応を見せてくれるのやら。



 注文の時間まであと10分程。

 期待と不安の入り交じった私のそわそわも、まだおさまりそうにはなかった。




(おしまい)




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