赤色☆サンタクロース
寒い、寒い。
どうして地球はこんなに寒いんだ!
ドアが見つからない。
早くどこかに入りたいのに。
あ、見つけた。
ちょっと小さいけど、まぁいっか。
なーんて呟きながら、
小さな僕はその穴に潜り込んだ。
* *
どすん、と大きくて鈍い音がした。
隣の部屋で、その音をいち早く聞き付けた少女が、音のした部屋のドアを開けた。
今は使われていない暖炉の中で、腰をさすりながらうずくまっている人がいる。
少女は少し驚いて、そうっと暖炉に近づく。
覗き込むとそこには、おじいさんのようにシワのよった顔に白い髭の茂った、少女と同じくらいの背格好の小人がいた。
こんな小さい人、見たことない!と少女は思った。
「あなた、だあれ?」
その声に上がった頭に、ずいっと少女は自分の顔を寄せた。近くで見るとますます、おかしかった。
僕もまた驚いた。そしてその質問の答えを必死に探した。
僕は宇宙人だった。
地球に入る前の手続きで、変装は完璧のはずだったのに、自分の体を、頭の先っぽから足の爪先までじろじろと見回す少女の目線に不安を隠しきれなくなる。
「もしかして、サンタクロース?」
いつまで経っても僕が答えないので、少女はまた尋ねた。
僕はきょとんとした。
『…さんたく、ろうす?』
(さんたくろうすってなんだろう)
いちおう一通り、生活に必要な地球の言葉は覚えたつもりでいたが、その言葉は聞いたことがなかった。
「それとも泥棒?」
『……どろぼう?い、いや違う!』
悪人を指す言葉だ。それはわかった。僕は震えあがった。
「じゃあサンタクロース?」
『……そうなのか?』
「こんな夜遅くに、煙突から落ちてくるのは、サンタクロースか泥棒しかいないわ」
『さんたくろうす………。』
「サンタクロースなの?」
少女はもう一度、聞いた。
僕は泥棒ではない。さんたくろうすが何かもわからない。
でも少女が言うには、僕はさんたくろうすらしい。
きっと僕が知らないだけで、さんたくろうすなのかもしれない。
なんだか訳がわからなくなって、僕は頷いた。
それを見て、少女はにっこり笑った。
そして勢いよく部屋から飛び出していった。
「ママ、ママー!サンタクロースだよ!」
少女が叫んだ。
少女に手をひかれて、部屋には彼女の母親がやってきた。
少女にそっくりな、まあるい目をしていた。
そして彼女は僕を見るなり微笑んだ。
「あらあらまあいらっしゃい。」
「ママ、この人、お洋服がないみたいなの」
「本当ねえ。何色がいいかしら。」
「赤!真っ赤がいいな」
「わかったわ、ちょっと待ってて」
そう言って部屋を出た彼女は、赤い洋服を持ってすぐに戻ってきた。
「おじいちゃんのお古なんだけど、どうかしら」
「似合う!カッコイイよ!」
そっと、彼女がその洋服を僕にあてた。
赤い布に、白い綿。
おなじようなぼうしも被せられて、そんな僕はなぜかしっくりきたようで。
(僕、さんたくろうすだったのかもしれない)
その日から、僕はサンタクロースになった。
(おしまい)