芝居③
「どういう意味でしょう?」永田が尋ねると、茂木は「今のままでは、例え犯人の目星がついたとしても、証拠不十分で検挙することが難しいかもしれません。決定的な証拠が欲しいのです。
東城誠一こと、西城俊一氏は映画監督ですから、監督を頼みたいと言って、脚本を持って行けば、きっと目を通すでしょう。そして、脚本を読んで、(自分が犯人だと思われない為に、古市卓巳を犯人にする為に、古市結子の遺体が必要だ)と思ってくれれば、しめたものです。もし、もし、ですよ、彼が遺体を掘り起こしている現場を取り押さえることが出来れば、この事件は過去の事件や動機まで含めて、一気に解決することが出来るのです」
茂木の言わんとしていることが、理解できた。
先ずは、俊一に自分が疑われていることを認識させる。そして、警察の疑いを晴らす為には、嫌疑を種市巧に向けさせる必要がある。そして、その為には、種市結衣の遺体が必要だと言うことを、俊一の脳裏に刷り込まなければならない――そう言っているのだ。
種市結衣は既に殺害されていて、遺体は何処かに埋められている。そして、種市結衣を殺害したのは、俊一だ――と茂木は推理しているのだ。
話を聞いて、永田は興奮した。
「ぜ、是非、やらせて下さい。捜査に協力させて下さい!」
内に相談すると、「それは面白い!」ともろ手を挙げて賛成してくれた。
どういう結末になろうと、その結末に基づいて脚本を修正すれば、永田が準備した結末より、数倍、面白いものになるだろう。映画は大ヒット間違いなしだ。
永田は自分と内を作品に登場させ、舞台裏で誰が犯人なのかを話し合わせた。それは、楽しい作業だった。僅か一日で脚本の修正を終えた。
後は内の仕事だ。
永田が脚本を書き終えると、「是非、監督してもらいたい作品がある」と言って、西城俊一に連絡を取った。売れない映画監督である俊一は直ぐに餌に食いついた。
映画会社の応接間に俊一に招き入れると、「この場で脚本を読んで、監督するかどうか決めてもらいたい」と言って脚本を渡した。
こうして、悪知恵は働くが、深い洞察は苦手な俊一の脳裏に、種市結衣の遺体が必要だということを刷り込ませることに成功した。
後は俊一が動き出すのを待つだけだ。
俊一は映画の監督をやりたかった。その為に、種市巧には、とっとと犯人として逮捕されてもらいたかった。
こうして、うまうまと西城誠一は茂木の策略に引っ掛かった。罠に嵌ったのだ。茂木に導かれるように遺体を掘り起こしに行き、その場で逮捕された。
白骨遺体を掘り起こしていたところを逮捕された俊一は、言い逃れが出来ないはずだった。ところが、俊一は「春禰の依頼で種市結衣を殺害し、遺体を山に埋めた」と主張した。
罪を亡き西城春禰に押し付けようとしたのだ。
「春禰は八木正大との関係を種市結衣に捕まれ、記事にすると強請られていました。一度、金を払いましたが、暫くするとまた金を要求して来ました。『あの女を始末して――』と春禰に頼まれて、仕方なく殺害したのです。悪いのは春禰です」と罪を春禰になすりつけ、「どうです?これで、春禰を殺したのは種市巧だと言うことがはっきりしたでしょう。やつは奥さんを殺され、その復讐の為に春禰を殺害したのです」と春禰殺しの罪を種市になすりつけようとした。
これには柊も呆れて、「じゃあ、種市巧はどうやって奥さんが殺されたことを知ったんだ!?お前がやつに教えたってことか?」と吐き捨てた。
「それは・・・そうだ!春禰が、春禰が彼に言ったんだ」
「ほ、ほう~じゃあ、何故、西城春禰は種市にわざわざ妻の結衣を殺害して山に埋めたことを教えたんだ?彼女に一体、何の得がある?」
「し、知らないよ。そんなこと。とにかく、春禰を殺したのは種市だ。そうに違いない。だって、奥さんの遺体が見つかっただろう?」
西城俊一は罪を認めようとはしなかった。
西城春禰の殺害に関して、新たな事実が浮かび上がって来た。俊一の逮捕を受けて、八木親子が「実は――」と警察に出頭して来たのだ。
事件の夜、八木親子は別荘に向かった。春禰に会いに行ったのだが、玄関でいくら呼び鈴を鳴らしても、誰も出てこなかったと証言している。
八木美里は言う。「あの夜、別荘の前で俊一さんに会いました。それも玄関ではなく、庭の方から回って来ました。玄関先にいる私どもを見て、大層、驚いた様子でした」
「何故、そのことを今まで黙っていたのですか?」という捜査員の問いかけに、「俊一さんから誰にも言わないで欲しいと頼まれましたもので――」と美里は答えたが、どうやら俊一から「黙っていてくれれば一千万円払う」と言われたらしかった。
「俊一さん、警察に捕まって、お約束のお金を頂けるかどうか分からなくなってしまったものですから、娘や息子と相談しまして、これは警察に行って、打ち明けた方が良いのではないかということになりました。それで、こちらにまかり越しました」と美里がぬけぬけと言った。
口止め料がもらえなくなったので、俊一を売ったと言うことだ。八木親子を買収したことから、俊一が春禰を殺害したことは疑いようが無かった。
あの夜、俊一は春禰を殺害し、寝室のドアに鍵をかけて、窓から壁を伝って外に出た。そして、居酒屋に向かおうとして、玄関先で八木親子と鉢合わせしてしまったのだ。
俊一は、「馬鹿な。玄関から外に出たら、庭で物音がしたので、確認に回っただけですよ」と主張した。「じゃあ、何故、八木さん親子を買収しようとしたのだ!?」という尋問には、「余計な疑いを持たれたく無かっただけです。金で解決できるなら、それで良いと思ったから、そう言っただけです」と開き直った。
取調が続いたが、俊一は無実を主張し続けていた。
だが、白骨遺体から驚天動地の事実が浮かび上がってきた。




