↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪い谷に降る雪は赤い  作者: 西季幽司
第一幕「阿房宮」
PR
5/57

容疑者一・東城誠一②

「いいえ、奥様がお休みになる時は何時も、枕元にお水をおいておきますの。就寝前にお水を飲むと、寝つきがよくなるそうです。まあ、お忙しい方でしたから、頭を使うことが多いのでしょうね。眠れないと、よくおっしゃっていました。それに、頭が痛いとおっしゃることが多かったですね。

 あの夜は私がお暇を頂いてから、旦那様に頭が痛いと告げられて、薬を飲んで寝たそうです。きっと旦那様は嬉々として飲みに行ったのでしょうね。でも、帰ってみると、寝室には鍵がかかっていて、閉め出されてしまったようです。

 お加減の悪い奥様を放って飲みに行った罰です。まあ、お部屋はたくさんございます。空いている部屋でお休みになられたようです」遠まわしに誠一のことを批判していた。

 誠一のことを、好ましく思っていないのだろう。

「ほ、ほう~そうですか。私も頭を使うことが多い仕事ですが、頭が痛くなったことは、ほとんどありませんがね」柊の言葉に、「奥様は繊細な方でしたから」と飯塚は軽く反論した。

「翌朝、東城社長の遺体を発見したのは、あなたですね?」

「ええ、もうびっくりしました。旦那様に奥様が起きてこないと言われて、合鍵を持って二階に上がりました。ええ、お部屋には鍵がちゃんとかかっていました。

 お部屋に入ると、ベッドの上に奥様が横になっていらっしゃるのが見えました。寝相の良い方ですのに、布団が乱れていて、変だなと思ったのです。近づいてみると、手足が変な具合に広がっていて、(お加減が悪いのでは――?)と思いました。その時、きらりと奥様の目が光ったような気がしました。(目が開いている? 何か変だ!)と頭の中で声がしました。ベッドに駆け寄って、『奥様!』と声をおかけしましたが、瞬きひとつしません。(もしかして、死んでいるのでは――!?)と、その時、思いました。私が悲鳴を上げたのを聞きつけたのでしょう。直ぐに旦那様がかけつけて来て下さいました」

 飯塚は寝室で冷たくなった秋香を発見した。寝室には鍵がかかっていた。合鍵を使って入ったので間違いない。窓も全て施錠されていた。

 部屋は完全に密室状態だった。

 玄関の鍵は秋香、誠一、それに飯島がひとつずつ所有している。だが、部屋の鍵は全て応接間にあるキーボックスに仕舞ってあった。室内から鍵をかけることはあっても、外から鍵を掛ける必要がなかったからだ。キーボックスの鍵は飯島しか持っておらず、飯島以外、外から寝室の鍵を開け閉めすることが出来る者はいなかったことになる。

 寝室の鍵は、室内から秋香自身が施錠したに違いない。

 部屋の様子を見て、茂木は違和感を覚えた。だが、それが何なのか、分からなかった。(何かが変だ!)と刑事としての直感が物語っていた。

「合鍵を仕舞ってあるキーボックスを見せてもらえますか?」

 柊と茂木は応接間にあるキーボックスを見せてもらった。異常はなさそうだった。飯島は寝室の鍵を持ち出した後に、ちゃんと鍵をかけていた。

 三人は席に戻り、柊の尋問が続く。「東城社長が死んでいたことが、よく分かりましたね?」

「えっ!?」と飯島が驚いた顔をした。

「いえね。家で人が倒れていると、普通は救急車を呼ぶものです。ところが、あなたは百十番に電話をしている。まるで、東城社長が殺されたことを、知っていたみたいだ」

 多少、変わったところがあるが、柊は優秀な刑事だ。

「あら、そうでしたか? 警察に電話を・・・どうしてかしら? 百十番と百十九番を間違えたのかしら・・・旦那様に、『早く電話を?』と急かされて、焦って間違えたのです。きっと。でも、百十番に電話しても、ちゃんと救急に繋がるのではなかったでしたっけ?」

「ええ、まあ。警察と消防は連携していますので、怪我人がいれば、ちゃんと救急車を呼んでくれます。まあ、それでなくても、百十九番と間違えて、百十番を回す人がいますがね」

「すいません」

「別に謝って頂かなくて結構です。それで、あなたが東城社長の遺体を発見して、東城誠一氏を呼んだのですか?」

「いえ、私の悲鳴を聞いて、旦那様が駆けつけてくれました。いきなり、後ろから声をかけられて、びっくりしました。直ぐに、奥様の異常な様子に気がつかれたようで、旦那様は『秋香!』と叫んで、私を押しのけて奥様に駆け寄られました。

 そして、奥様を抱き起こしながら、『早く電話を――!』とおっしゃった――と思います。すいません。私、気が動転していたのか、あまり、はっきりと覚えていないのです」

「年齢と共に記憶力は衰えるものです。それから、どうしました?」一言多い。

「私、慌てて階段を駆け下りました。途中、階段から転げ落ちそうになりました。何とか踏みとどまりました。私まで救急車で運ばれるところでした。ああ、すいません。一階の電話から電話をかけました。電話をかけた先が警察だったのですね。ごめんなさい」

 最後に、柊は飯島のアリバイを確かめた。

 飯島は屋敷を後にした後、自宅に戻った。秋香の死亡推定時刻には、家族の証言だがアリバイがあった。しかも帰り道、村にただ一軒あるスーパーに駆け込んで買い物をしている。閉店間際だったので、店員が覚えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。