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呪い谷に降る雪は赤い  作者: 西季幽司
第二幕「上杉湯」
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容疑者十二・飯塚茉莉①

「知ってるも何も!飯塚茉莉でしょう」と佐藤が胸を張る。

「ほう。どなたです?」

「そうだ、彼女だ。刑事さん、彼女の仕業だ。彼女の仕業に違いありません。社長を殺したのは、きっと彼女です!」

「その彼女がどういう人物なのかを、お聞きしています」柊が冷静に尋ねる。

「飯塚茉莉はエステティック・サロン、コマチを経営していた飯塚勉(いいづかつとむ)の娘です。うちの競争相手の会社の社長令嬢でした。我が東城グループとコマチは、それはもう熾烈な争いを繰り広げました。同じ都内を地盤としていたので、客の奪い合いでしたね。そして、最後は、やっぱり社長の経営者としての実力がものを言ったのでしょうね。うちが勝利しました。

 コマチは借金を抱えて、倒産しました。

 社長はね。うちみたいな買収相手には優しかったんですけど、自分に牙を剥いてくる相手には容赦ありませんでした。こまちの社長、飯塚勉は多額の負債を抱えて、首を吊って自殺しました。気の毒ではあったのですが、勝敗は時の運。うちが負けていれば、職を失っていたのは我々だった訳ですから、同情はできません。社長のことです。コマチが倒産してから、あそこで働いていた従業員を随分、雇い入れました。まあ、それでも飯塚家の人間からは恨みを買ってしまいました」

「ほ、ほう~それは面白い。そんな人物がいたのですか」

「刑事さん、面白いって、不謹慎な。飯塚社長には二人の息子さんと娘さんがいたんですけどね。二人の息子は、お世辞にも出来が良いとは言えませんでした。会社が倒産して親父さんが首を吊ったというのに、買ったばかりの高級外車のローンを心配しているような出来損ないでしたからね。

 娘さんの方は男勝りでね。社長室に怒鳴り込んで来ましたよ。『このままでは済まさない。きっと父の恨みは晴らしてやる!』ってね」

「ほ、ほう~それは面白い。東城社長を脅した訳ですね」

 それは面白い――は柊の口癖だ。不謹慎だと言われても、止められない。

 佐藤は顔をしかめて言った。「我々が知らないだけで、彼女がここにいるのかもしれませんね。刑事さん、彼女を探してみてはいかがです?狭い村です。隠れる場所なんて、そんなに無いでしょう」

「無論、確かめてみます。しかし、これだけ自分に恨みを持つ人間を呼び集めているというのに、その飯塚茉莉という女性は招かなかったのですか?」

「さあ、社長のことですから、招いたことは招いたんじゃないですか?あちらさんが、招きに応じなかっただけでしょう。気の強い女性でしたから」

「今回、東城社長が誰を招こうとしたのか、ご存知ですか?あなたが手配されたのでしょう?」

「ええ、まあ。この旅館を予約したり、やって来る人たちの交通手段を確保したりなんかは、私の仕事でした。ですが、誰を呼ぶかを決めたのは社長ご自身です。ああ、誠一さんなら、知っているかもしれません」

「東城誠一氏が?」

「ええ。今回、招待客リストは、誠一さんからもらいました」

「いつも誠一さんからもらうのですか?」

「いいえ。そういえば、今回が初めてですね。社長から預かったと言って、誠一さんからリストをもらいました」

「ほ、ほう~で、何時もと違った点はありませんでしたか?」

「さあ。何時も似たり寄ったりの人たちですが、今回は初めての人がちょっと多いなと言う感じでした。まあ、毎年、初めての方はいますけどね」

「ほ、ほう~で、誰が今回、始めて招かれた人間なのですか?」

「ええっと・・・関口夫婦とか・・・ああ、そうだ。金井って言う人、高校時代の社長の恩師だとか。なんでまた急に――?と思いました」

「ほ、ほう~それは面白い」

「ああ、そうか。初めて招かれた人間の中に社長を殺した犯人がいる訳ですね」

「何故、そう思うのです?」

「えっ!? 違うのですか? だって、そう考えるのが普通じゃありません?」

「分かりませんよ。今まで、ずっと東城社長を殺害するチャンスを伺っていて、今回、ついに目的を達成したのかもしれません。ねえ、佐藤さん。違いますか?」柊がにやりと笑う。

「嫌だなあ~刑事さん。何度も申し上げているはずです。私が社長を殺す訳ないじゃありませんか!」

「残念ながら、現時点であなたを容疑の対象から外すことはできませんね」

 佐藤は「まったく・・・」渋い表情を浮かべた。そして、「そう言えば刑事さん。ここにいない人間で良ければ、他にも怪しい人物がいますよ」と言った。

「ほ、ほう~それは面白い。東城社長を恨んでいた人間が他にもいたということですね?」

「社長はね、目配りの出来る人でして、ちょっと顔色が優れないだけで、直ぐに気がついてくれるような方でした。『いつも、あんなに周りに気を配っていて大丈夫だろうか?』と端で見ていて心配になりました。きっとね、神経をすり減らしていたんじゃないかと思います。

 それでも、知らない人間から見ると、会社の拡張に余念がない、貪欲な人間に見えたことでしょう。若くて美人で、成功して金もある。社長のことを妬んでいる人間は大勢いたことでしょう。中には嫉妬に狂って、変な手紙を送りつけてくるやつがいるものです」

「脅迫状が届いていたのですか?」柊は察しが良い。

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