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Ep.91 猫を訪ねて何千里?




 『あれっ、そう言えば制服の帽子が無い!!』





「ブラーン!どこーっ?」


  兄弟学級の日の翌朝、私はいつもの時間より更に一時間早めに起きて校舎へと向かった。

  と、言うのも、結局夕べブランが帰ってこなかったから探すためなんだけど……ホントにどこ行っちゃったんだろ?


  いつもお世話に来る花壇、皆で集まる中庭、自分のクラスの教室に、図書室……。順々に周りながら探し続けているものの、言葉通りに猫の子一匹見当たらない。


「まさか、何かあったんじゃ……。」


  心当たりは全部探したし、あとは……。


「…………。」


  ふっと廊下の窓から見える、校舎の裏庭の池が目に入った。学園内はほぼ西洋風デザインで統一されてるけど、あの裏庭だけは日本庭園……もとい、アースランド庭園風になっている。そして、あの池にはたくさんの鯉が泳いでいるわけで……。


「……いや、それは流石にないよねぇ。」


「こんな朝早くから一人で登校して何をしてるんだ、お前は。」


「えっ!?」


  と、首を横に振って自分の馬鹿な考えを振り払ってたら、突然後ろから誰かに頭を叩かれた。


  嘘っ、人目につかないように早起きして探しに来たのに……!


「なっ、なんでもございませんわ!」


「はぁ!?……アホか、俺だよ。」


「ライト!あー、びっくりしたぁ……。」


  慌てて取り繕いながら振り返れば、そこに居たのは呆れたようにため息をつくライトだった。そしてその手には、さっき私の頭を叩くのに使ったらしいファイルが。


「驚いたのはこっちだ。何してるんだよ、花壇の世話にしてもまだ大分早いだろ?」


「あ、うん、ちょっと探し人と言うか、探し猫?を、探しに……。って言うか、ライトこそどうしたの?」


「早くねーよ、最近は毎日これくらいの時間には来てるんだ。放課後をあまり潰したくないと思ったら、朝を早くするしか無いからな。」


「そうだったの!?」


  ライト、見えないところでもそんなに働いてたんだ……。


  思いもしない形で知った事実に驚いて、ライトの顔をじっと見つめる。まだ子供なのに今からこんな働いてて大丈夫かな。色々と無理してるんじゃ……。


「……なんて顔してんだよ。で、探し猫って……もしかしてブランか?」


  ライトはそんな私の頭を小突いてから、声を潜めてそう言った。


「うん、そうなの。夏休み明けから帰りが遅い日はたまにあったんだけど、昨日はとうとう帰ってこなくて……。」


  私は門限のこともあって夜の間は探しに出させて貰えなかったから、ハイネや執事さん達に探しては貰ったけど朝まで見つからなかったんだと話すと、ライトは何かを考える様に片手をあごの下に当てて目を閉じた。


「……昨日のことじゃ無いんだが、そう言えば前にアイツが校舎裏の森の辺りに向かって飛んでくのを見たことあるぞ。」


「本当!?」


「あぁ。その時はてっきり森の中に友達でも居て会いに言ってるのかと思ったんだが……、それにしても帰ってこないってのは妙だな。」


  確かに、ブランは空が飛べるわけだから迷子になるわけは無いしね。

  それに、校舎裏の森って……


「……わかった、ありがとうライト。私ちょっと見に行ってみるね!」


「おい!もうそろそろ他の奴等登校して来るぞ!?」


「気を付けていくから大丈夫!ライトは生徒会のお仕事頑張って!!」


  『もし出来ることあったら手伝うから!』まで言い切って、一気に階段をかけ下りる。途中で一回足がもつれて転びかけたけど、そこは気合いと手すりの力で乗りきった。




「……ったく、遅刻すんなよ?」










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「校舎裏の森って、やっぱここだよねぇ……。」


  朝の日射しが木々の隙間から降り注ぐ爽やかな森を歩きながら、ブランの姿を探し回る。


  それにしても、ここに来るのも久しぶりだけど、なんか変な感じ……。ルビーとブランとここで遊んでた頃は、もっと動物達の声とかでざわついてたのに、妙に静かって言うか、なんと言うか。


「小鳥達の鳴き声すらしないや……、どうしたんだろう。……っ!」


  そんな事を呟きながら森の半ばまで来たとき、丁度椅子のように二つ並んだ切り株の片方に居る白い生き物に気付いた。

  慌てて駆け寄れば、そこには……


「ブラン!良かった……!」


「んー……?フローラ……??」


「もう、一晩ここで寝てたの?心配したんだよ。」


「うー……、ごめん……。」


  あらら、寝惚けててろくに聞いてないや……。


「とにかく、外じゃ風邪引いちゃうから行こう。おいで、ブラン。」


「はーい……。」


  ブランを抱き上げて立ち上がると、なんだかその体温がいつもより低いように感じる。ほら、外で寝たりするから体が冷えたんだよ……。


「……?あれ、誰か……じゃなかった。どなたかいらっしゃいますの?」


  と、その時、後ろの茂みがガサリと音を立てた気がして振り返った。


「……?」


  声をかけてみても返事は無いけど、やっぱり誰か居たような気がしてそこにゆっくり近づいてみる。


  そして、茂みの裏を覗こうとしたその時、耳に届く軽やかな鐘の音……。


「って、いけない!朝礼開始10分前のチャイムだ!戻らなきゃ……!!ブラン、ちょっと走るけど我慢してね!」


  出来るだけ振動が伝わらないようにブランを抱き抱えて、校舎を目指してひたすら走る。


  あーっ、こう言うときは髪が邪魔だなぁ。まとめてくれば良かったよ……。でも、なんかさっきまでよりちょっとだけ軽くなったような?







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  頑張った甲斐あって、何とか遅刻寸前で校舎に戻ることが出来た。

  ブランは魔物や魔導師の治療術の授業の先生が預かってくれると言うのでお願いしちゃったけど、大丈夫だったかなぁ……。


「フローラ様、おはようございます。」


「今朝は花壇にいらっしゃらなかったのですね。」


「ーっ!えぇ、おはようございます。今朝はちょっと私用があったものですから。」


  クォーツ、レイン、ルビーの三人には事情と謝罪のメッセージを書いたカードを用意してハイネに任せてきたけど、放課後にちゃんと謝りに行かなきゃ。良かった、今日が午前だけで講義終わりの日で。


「……アミーさん、ベリーさん、もう授業が始まりますから自分の席に戻ってください。」


「あら、ごめんなさい。」


「ではフローラ様、また後でお話しましょうね。」


「えぇ、そう致しましょう。」


  と、私の席に来て話してたアミーちゃんとベリーちゃんに、委員長が淡々とそう声をかけた。二人がそれに従って席に戻ってから、委員長は一瞬私を見てため息を溢す。


「……?」


「はい、授業が始まりますから席に戻ってくださーい。」


  何か言いたいことがあるのかと身構えたけど、そこで丁度先生が入ってきて委員長も席に戻っていった。


  何か、今日は朝からバタバタしてるなぁ……。




      ~Ep.91 猫を訪ねて何千里?~


    『あれっ、そう言えば制服の帽子が無い!!』



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