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心霊内科4 〜羅刹〜  作者: さいふぉん


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5/5

「昨日の夜そんな事があったんですか」

 晶湖は晃輔のガーゼ保護された顔を見ながら驚いた声をあげた。

 今朝、出勤してきた晃輔の左の頬に貼られたガーゼを見て晶湖が何があったのか聞いたところだった。

 真凜を車に乗せて壮亮のいる病院に運び込んだところ、晃輔の全身にある傷を壮亮に見咎められた。

 特に右大腿部に出来た傷は思いの外深いらしく、壮亮によって縫われる事になった。

 他にも顔や腕に出来た傷も処置をされ、怪我をしたことを散々壮亮に怒られた。

「まったく、いくら丈夫だからって限度があるからな。お前もいい年なんだから、いつまでも若いつもりで動くなよ」

 晃輔にも自分はオジサンだと言う自覚はある。が、動いてしまうものは仕方がない。

 そう言ったら倍怒られた。

 珍しく朔にまで飛び火してのだから本気で怒ったのだろう。

「朔さんまでついていてどういうことだ。(あるじ)を護るのが朔さんの務めじゃなかったのかい?」

「面目次第もございませぬ」

 朔は静かに頭を下げた。

 壮亮が怒る時は本気で心配したときなので、晃輔も平謝りするしかなかった。

 お陰で傷の処置もわざとかと思うほど乱暴で痛かったが、皮膚を縫う時はそんなわけもなく、今朝ガーゼを交換したときに、縫い目を見たが、流石と言うしかない美しい縫合であった。腕のいい形成外科は一年後の仕上がりを想定して行う。ただ細かく均等に縫うだけではなく、皮膚のその後の伸び具合まで計算して皮膚を寄せて縫うのだ。その点、壮亮はその腕の良い形成外科医の一人であった。晃輔の皮膚の状態にもよるが、何もなければ将来的には、言われなければわからないような白い線が一本残るだけになるだろう。

「晃輔先生、ガーゼ交換、私がお手伝いしますから必要なときは言ってください」

 晃輔が自分でガーゼを交換したと知って晶湖が申し出る。

「ありがとう、その時はお願いするよ」

 晃輔は着てきた濃紺のジャケットを脱いでドクターコートに着替えながらそう言った。

「それで、上村さんはどうなったのですか?」

 晶湖は診察室の机を拭きながら訪ねた。

 真凜はやはり足首と手首の靭帯が切れていた。他にも大腿部や下腿部の筋挫傷や右肩も腱板断裂しており、各所関節鏡視下手術を行う予定である。

「それじゃ、そのまま入院されたんですか」

 晶湖は机を拭き終わった後、椅子を元の位置に戻した。

「そうしてもらったよ」

 綺麗に整えられた診察室の机の椅子に晃輔は早速座った。

 頃合いを見計らって朔が珈琲を入れたカップを運んできた。

 珈琲のいい香りが診察室内に漂う。

「原因は何だって言ったんですか?」

「えーっと、…ヒドイ転び方をした…?的な?」

 晃輔は明後日の方向を向きながら、朔が机に置いたカップを早速持ち上げる。

「それで大丈夫だったんですか?」

 晶湖は少し晃輔を覗き込むようにしながら聞いた。

「えーと、そこは…朔さんが…?」

 晃輔は晶湖と目が合わないようにしながらカップを口に運び珈琲を啜った。

 晶湖は振り返って朔を見た。

「朔さん…お疲れ様です…」

「慣れておりますので」

 朔はトレーを脇に抱え、何でもない事のように頭を軽く下げた。

 晃輔は口笛でも拭いて誤魔化しそうな顔をして珈琲を啜っている。

 晶湖はそんな晃輔の仕草を見て、ふっと小さく笑った。

「何にしろ最悪の結果にならなくてよかったです」

 誰かが亡くなってしまったり、怪我の程度は酷いが真凜が鬼になってしまわなくてよかったと思う。

 そして晃輔の、傷は酷いけれど、命に関わるような怪我じゃなくて、そして食べられてしまうようなことにならなくて本当に良かったと晶湖は思った。

「でも、壮亮先生じゃないけれど、本当に気をつけてくださいね」

 そこで、晶湖は一旦区切ると、続きは冗談めかして

「私が路頭に迷うようなことがないように」

 そう続けた。

「はい、そうならないように気をつけます」

 晃輔は態とらしく神妙な顔をしてそう答えた。

「あー、ちっちゃい朔さん見たかったなー」

──君ならそう言うと思ったよ。

 晃輔はそう思いながらふっと笑った。

「いつか機会があったら朔さんに見せてもらうといいよ」

「そうですね。何かの拍子に」

 晶湖も特に急ぎはしなかった。急がずとも朔さんはいつか見せてくれる、そう信じていた。



 病室のベッドで横になっている真凜は微睡みの中で夢をみた。

 先生が鬼になった自分を人間に戻そうと奮闘してくれて、錯乱して先生を襲う私を取り押さえて、怪我をさせちゃったけど、でも最終的に私を取り押さえてくれて。鬼になってしまった時は、怖くて怖くて泣きたくなったけれど、でも先生は私を人間に戻してくれた。

 その後、動けない私をずっと抱っこして支えてくれて、運んでくれた。ミルクティーも飲ませてくれた。

 あの美味しいミルクティー。

 ああ、夢から冷めちゃう。ずっと夢の中にいたい。でもそうはいかない。きっともうすぐ目覚めてしまうだろう。

 ああ、だからお願い。この夢をせめて覚えていて。この素敵な夢を忘れたくない。

 でもきっと忘れてしまうだろう。そんな気がする。だって先生が言っていたもの。全部忘れてしまう、と。だからお願い、もう少し。この微睡みの中で過ごさせて。朝がくるのが少しでも遅くなりますように。

 真凜は願った。閉じられた両方のまぶたからは涙が一雫、流れ落ちた。




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