表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか魔王と勇者になる、その日まで。   作者: 彩白 莱灯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/22

第6話

 シュウの紫色の目は輝いていた。

 多彩な光源を放ちながら、異色であることを表明する。


 いつ見ても綺麗で、この姿を見た際はついつい魅入ってしまう。



「もっと食べてもいい?」



 指をさす。

 その先には、王様と護衛の兵士たち。

 街の住民は全員どこかへ行ったのか。



「……ダメだ」

「なぁんでぇ」

「食べていいのは、一人だけ」

「……誰でもいい?」

「王様は良いもん食ってるだろうから、一番うまいんじゃないか?」

「じゃあそうするぅ♪」



 屈んで、飛び上る。

 足を天に向けて、虚空を蹴った。

 闘技場は砂埃で見えなくなり、けれど赤い血が砂を巻き込みながら飛散する。



 年寄り風の掛け声とともにその場で座り込んで、見えない闘技を観戦する。

 あちこちで不規則に動く煙。

 絶え間なく聞こえる悲鳴。

 心の中で奏でる、鎮魂歌。



 ――シュウに魔物(エサ)を与えるから、こうなるんだ。



 人間ならまだ、こうはならなかっただろう。

 魔物は人間に比べ、魔力総量が多い。

 その代わり知能が低い場合が多く、人間は優位な知能を駆使して渡り合ってきた。



 シュウは、比較的知能が高い魔物のような(・・・)存在だ。



 人間でいえばまだ子ども程度だが、魔物の中では特出している。

 そんなシュウの弱点は、魔力を自己で回復できないこと。

 人間も魔物も、魔力は自然回復する。

 シュウは苦手なのか、できないのか、回復が著しく遅い。

 効率よく回復する方法が、『魔力を持った生き物を食す』。

 オーガを食ったシュウは、今や高い知能を持った魔物と同等。

 統率を欠いた人間が勝つなんて、早々無理な話だ。



 落ち着きかけても暴れ続ける魔物のせいで、全く晴れなかった砂埃。

 頭の中で説教しているうちに、ようやく人影が見えてきた。



 少し前に浮かんだ映像、そのもの。



 王様の首を鷲掴み、足先がギリギリ着く高さに浮かせている。

 シュウは舌でなめずりながら、血走った眼球で見ていることだろう。

 ……と思ったら、俺の方を見てきた。

 これは許可待ちということだろう。



風魔法(ナル)



 アイツのおこすものとは大きく違う、優しい包み込む風。

 一気に闘技場の広場まで下りれば、見るからにご機嫌なシュウが見つめてくる。

 逆に苦しそうで、助けを求めている視線を向けてくる王様。

 余すことなく食べるつもりだろう。

 傷はあれど、欠損はしていない。



「イイ?」



 期待と、懇願。

 二つの瞳が俺を見つめる。

 冷めた感情は、瞼とともに閉じる。



「――いいぞ」



 何かが風を切った。

 飛び散った何かが、俺の顔を湿らせる。

 シュウががっついたのだろう。

 そう思ってゆっくりと瞼を開いた。



「カハッ……はっ、はぁ」

「……?」



 へたり込む王様と、呆然と自分の左腕を見つめるシュウ。

 その腕は、肘から指先までがなく、噴水の様に血が噴き出している。

 噴水は俺に向いている。

 俺の顔を湿らせているのは、シュウの血だった。

 なぜ、そうなった。



「アイツ、キョウカを狙った」



 そう言う、シュウの目線の先。

 どこか既視感のある男だった。

 震える体で、欠けた剣を両手で持ち、構えている。



「へ、陛下……! こ、こ、コイツらを倒したら、境界へは……!」

「っ、やれ! さっさとやるんだ!!」



 ああ、討伐に行く前に境界へ送られそうになってた奴か。

 そして、理解した。

 この国の奴の中には、王を慕っている奴もいるんだろうが、境界へ送られたくない故に慕っているフリをしている奴もいる。

『境界』なんて制度ができているのは、王様に取り入っていれば安全が確保されるからだ。


 雄叫びと剣を振り上げながら、軟弱な兵士は走り寄る。



 ――食べてくれと言っているようだ。



 シュウは足を振り上げた。砂が舞い、不用心な兵士はそれを浴びた。

 怯む兵士。

 シュウは左手(・・)で兵士の顔を鷲掴む。



「イタダキマス」



 赤い血が吹き上がる。

 骨の折れる音と、筋肉が引きちぎられる音。

 最初こそ聞こえていた声は消え、絶命を察することとなった。

 歯の鳴る音がする。

 王様は腰を抜かしてしまったようだ。

 人が食べられる場面なんて、今まで見てきたんじゃないのか?



「う、うで……」

「……ああ、そっちか」



 再生したことへの、驚愕。

 確かにこの王様ならば、そっちの方が注意をひくか。



「その、力は」

「これはあまり知られていないんだ。その人がその力を持っていたと知れたら、死ぬよりも辛く、連れ去られた上で拷問されるなんてこともあるだろうから」

「なんだ……なんなんだ……!」

「勇者が『予言』の力を持つように、聖女は『再生』の力を持つんだよ。それをなぜ、シュウがもっていると思う?」

「…………っ、は、いや、そんな……」



 頭を抱え、掻き毟り、狼狽える。

 崇拝していた聖女を感じ取ったか。

 けれど、恐らく、王様の想像は現実よりも甘い。



「聖女は死んでない」

「へ……」



 あまり大きな声では言えないので、地べたに座り込む王様の耳に、囁く。



 ――聖女は生きている。シュウの腹の中で。



 だからこその回復力。

 聖女を取り込んだ、証。



 喚き散らす力さえも出ないのか、王様は放心状態。

 立ち上がり、シュウを見れば、兵士の身体を貪っている最中だ。



「勇者を自称するアンタには、あいつのあの姿は視えてなかったんだな」



 声をかけても、頭が少し動くだけで、何も言わない。

 否定も反発も、気力もないようだ。



「俺には視えてたけどな」



 頭と、首と、視線が、俺を見上げる。

 絶望に揺れる瞳が、俺を捕らえた。

 王様が俺に何を求めようと、俺は王様に何もする気はない。

 たとえ俺が勇者の力を持っていたとしても、俺はまだ(・・)勇者ではない。



「シュウ」

「んぉ?」

「こいつの口と足も、今のうちに潰してくれ」

「はぁーい」

「ま、待て!! シュウ! 私は貴様の欲しいものをなんでもくれてやるぞ! こ、コイツよりもいいものを!」

「僕、キョウカのハンバーグオムライスが大好き」

「ハン……」

「キョウカがいればご飯が食べれる。キョウカがいれば、お腹が空いても大丈夫。キョウカがいれば、大丈夫」



 熱烈な愛にも似た言葉を囁いて、熱烈な目線を受けて、何とも言えないむずがゆさを覚えた。

 王様は俺を見つめ、シュウの口が頭にかじりつく寸前まで、微動だにしなかった。

 最期には俺の姿が焼き付いていただろうか。

 それとも、現実を受け入れられなくて、欲望が産んだ幻でも見ていたのだろうか。

 人道から外れた奴の思考ほど、わからないものはない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ