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いつか魔王と勇者になる、その日まで。   作者: 彩白 莱灯


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第4話

 俺が降りて、シュウが降りて、王様が降りた。

 足元から視線を上にずらせば、森の方を向いている兵隊たち。

 均一に並び、もう既に、戦闘態勢と言っても良いのではないだろうか。



 一人の兵隊が、王様に駆け寄ってきた。



「オーガの痕跡を発見しました!」

「さっそくか」



 王様は、後方から持ってこられた兜やマントを羽織る。

 馬が寄ってきて、兵隊の手を使いながら優雅に飛び乗った。

 流れるような仕草だ。



「キョーカー」

「ん?」

「僕あっち行きたい」



 シュウが指を指すのは、兵隊が警戒しているのとは違う方向。



「何か感じるか?」



 シュウの本能かもしれない。

 狩猟本能。

 人間以上に鋭い嗅覚が、何かを察したのだろう。

 目を見開いて、瞬きをしない。

 顔も動かず、何かを見つけて逃すまいとしている。



「……6かな」



 少なくは無い数字。

 人間ではこんな反応はしないので、魔物は確定。

 オーガの可能性がある。

 他の可能性もある。



「王様」

「なんだ」

「あっちの索敵をしてきていいですか?」

「……許す」

「ありがとうございます」



 場を荒らすかもしれないので、場の監督者に確認を取る。

 許可が降りればこっちのものだ。

 今にもヨダレを垂らすんじゃないかと思わせる気迫のシュウの肩を掴む。



「俺もすぐに行く。なるべく静かに仕留めろ。……体は残しておけよ」

「……はぁーい」



 不満そうな返事の後、小さい風を起こして姿を消した。

 まるでそこに居なかったかのような痕跡のなさ。

 追いかけるようにして俺も駆け出した。



「キョウカ」



 と、呼び止められた。

 王様直々に。



「終えたら戻ってこい」



 ただただ、無表情に。

 なんの意図があってそんな言葉をかけてきたのかわからない。

 けれど立場上、無礼を働くとあとが面倒くさそうだ。

 身体を直し、深く頭を下げ、半回転して走り出す。



 シュウがいるであろう目線の先では鳥が2・3羽飛んで行った。

 地響きはなく、音もない。

 言われた通りにしているのだろう。

 待ちくたびれて変なもんでも食べ出されたらたまらないから、なるべく早く、けれど辛くない程度に一定のスピードで駆ける。



 と。



「キョ!」

「うわっ!?」



 突然目の前に降ってきた。



「6体だった!」



 頭から液体を被って肌色がほとんど見えない。

 そんなシュウは眩い笑顔で満足そうに言った。

 本当に目の前……目と鼻の先だったから、俺はシュウを抱きしめるような体勢になってしまった。



「……」

「あっいてててててて」

「けっ」



 俺の目線よりも低い頭を顎で潰す。

 理由は……なんとなく。むかついた。



 涙目どころか水滴を一筋流し、けれど拭いはしなかった。

 よく見れば、その両手は荷物で塞がれている。



「一応持ってきた」



 潤んだ目で、手元を見る。

 背中を向いた顔と、傷の無い胴体。

 体格は全員成体、つまりは大人の個体。

 一瞬で首を拗られたのだろう。声をあげる間もなかったか。

 血もほとんど出ておらず、鮮度はいい。



「オス2体、持って行こう」

「はーい」



 カバンの中からひょうたんを二つ取り出し、二つのオーガの遺体に口を向ける。

 口から細い触手が伸びてきて、一つのひょうたんに一体ずつが引きずられて行った。



「あとは?」

「観察。あと、適当に切断しといて。合計6体だって言えるように」

「ほいよー」



 三体をシュウに任せ、俺は寝かせた一体をしゃがんで眺める。

 拗られた首はともかく、体の形は人間と相違ない。

 筋肉質なのはオーガ故か。

 一番の特徴はなんと言っても額から生えた角だ。

 成長とともに大きくなる二本の角。

 かつて、大きいもので頭部の倍の大きさだか長さだかあったらしい。

 今回はせいぜい指程度の長さ。

 そこまでじゃあない。

 おそらく素材は骨と同じ。

 乳白色で、特段模様はない。



「本の内容と変わらんな」



 言葉と共に立ち上がる。

 用は済んだから、王様の言いつけ通りに戻るとしよう。



「シュウ」



 麻袋を投げた。

 小さい体の彼は、間延びした声と共に受け取って、バラけた体を詰めていく。

 観察していた体も入れた。

 慣れた手つき。

 いつもの作業。

 自分より大きいオーガを入れた袋は、口を閉めた瞬間に抱え持てる程に縮む。



【マジックアイテム:消化不良の胃袋】



 伸縮するが、中身は異常なく残り続ける便利道具。

 名前のセンスが酷いのが特徴。

 ちなみに再利用可能。

 ひょうたんも麻袋も、形が違うだけで機能は一緒。

 力仕事はシュウの担当なので、当然のようにシュウが抱えた。

 ……血だらけのまま。



水魔法(イズ)



 細やかな水分がシュウの体を撫でる。顔の血も、服の汚れも吸収する。汚れた水は森の方で撒いた。



「ありがと!」

「どういたしまして」



 にぱっと、今さっき、自分の倍ほどのガタイのある魔物を捻り殺したとは思えない笑顔。

 それこそいつものことだし、見慣れたもので、つられて頬が緩む。



 走ってきた道のりを、今度はゆっくり散歩でもするように歩く。

 道という道はないけれど、短い雑草が広がるほぼ野原。

 宿泊中であり、出発地点でもあった国がよく見える。

 そういえば、高く上げられた時に見えたのは何だったのだろうか。

 外から見ても、特別特徴のない塀だ。

 魔物からの侵入を防ぐためだろう、そんなに(やわ)ではなさそう。

 帰り道にでも聞いてみるか。



「ただいまー!」



 玄関を開けたように、シュウが無邪気に大声を上げる。

 それに驚いた数人が反射的に武器を構えたのが見えた。

 そして姿を見て、緊張の糸を緩めた。



「例の二人が帰還しました」



 兵が馬車の中に声をかける。

 十中八九王様で、降りてきたのはやはり王様だった。



 懐いたのかと思うぐらい、シュウはご機嫌に駆け寄っていく。



「6体いたよ」

「そうか。ご苦労」

「なんか食べ物ほしい!」



 ああ、そういうこと……。

 王様に堂々とおねだりとは、本当にこいつは怖いもの知らずで世間知らずで無礼者だ。

 周辺にピリつきを感じる。

 無礼を働いたものへ警戒するのは当然で、今まさに「6体倒してきた」と言ったようなものだった。

 それだけの力があるものが主君の近くにうろついていたら、まあそりゃあそうだろう。



 王様はシュウの訴えに耳を傾けてくれたようだ。

 ――が。



「シュウ、まだだめだ」

「えーーーっ!」



 こいつの食事を準備するのは俺の役割だ。

 シュウの耳にそっと近づいて。



「今日はハンバーグオムライスだぞ」

「オーサマ!!! やっぱり大丈夫です!!!」



 挙手とともに意見を一転させたシュウはやはりチョロい。

 勢いに押された様子の王様は、一瞬たじろきながら「ならば」と言い、手で招く。



「報告を」

「こちらには成体6体いました。シュウが暴れたおかげでバラバラですが、体はこちらに」

「シュウとやらは随分手練れのようだな」

「僕強いから! ふふーん」

「こちらはどうだったんですか?」

「幼体が多かった。成体はメスが多く、捕獲してある。まだ残党がいるかもしれないから、炙り出す」

「喋れる個体がいたんですか?」

「少しな。聞き出すのもそうだが、すでに臭いで追っている」

「なるほど」



 文献には成体の約半分程度が、人間の言葉を理解し、発するらしい。

 どういったわけなのかはわからない。

 そんなコミュニケーションをとることなかっただろうに。

 魔物とは不思議なものだ。



「――ところで、シュウ」



 王様が俺に背を向け、シュウに声をかける。

 近くの兵隊に麻袋の中身を渡したようで、空のそれを持っていた。



「腕が立つお前に、一つ頼みがあるのだが」

「なーに?」



 シュウの顔が、俺から見えなくなった。

 王様の背中で隠れたんだ。

 けど……視界が、霞む。



「私と共に来てほしい。――未来のために」



 ああ、これは、魔法だ。

 体が判断して、頭が理解した。

 けれど遅く、視界は真っ暗になった。

 王様のマントがシュウを飲み込んでいるのが、最後に見えた。

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