表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか魔王と勇者になる、その日まで。   作者: 彩白 莱灯
1-4 欲

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/40

第8話

 後ろに手をついて、腰を逸らした。

 天井を見上げても格子状の木目しかなく、行き止まりを悟るだけ。

 世界は残酷だと誰かが言った。

 努力をしたところで大して変わらない。

 物事には損得が関わるからだ。

 もし変わるとしたら、それは意思が関わったからだ。

 不確定なものならば、未来は如何様にも変わる。



「『愛』」



 天井から視線を戻せば、魅狐はまた、一枚のカードを捲っていた。

 安っぽいカードだと素直に思う。

 ありがちで、見つけにくい。

 軽くも重くもあって、求めるものは多いが、手に入りにくいもの。



「『道』」



 また一枚。

 法則があるのかないのか、バラバラに散らばったカードを、適当に見据えて選んでいるよう。



「『試練』」



 伸びていた手が膝元へ収まった。

 瞳孔は俺を見つめ、小さな唇が音を奏でる。



「旅をされているのでありんすね」

「ああ」

「大事な人と」

「……まあ、そうだ」

「険しい道のりでありんす」

「知ってる」

「その人がお好きでありんすか?」



 皿になった。目が。

 何かがポロッと落ちそうなほど開いた。

 瞼が裂けるか吊るかと思った。



 何言ってんだと、文句を言いかけて、辞めた。

 月のようなエルフ特有の金色の目が、俺を射抜く。

 嘘も誤魔化しも効かないと言っている。

 ……多少の照れくささはどうしようもない。



「俺、優柔不断なんだよ」

「そうでありんすか」

「確信がないと動けない。確信があるまで、ずっとずっと調べてる。いつまでも。故郷の島を出る時も、ここよりも危険だったら、って思ったら出れなくて、十年以上足踏みしてた」

「それは……随分忍耐力のありんすね」

「よく言えばな。だが、今思うのは、毎日死にそうな思いをしてる環境なら、さっさと逃げればよかったなってこと。動いた先で死んだら「やっぱダメだったか」だが、動かずに死ねば「動けばよかった」ってなるだろうから。結果論でしかないが、俺は思い切りがない。自分だけのこととなると、永遠に悩んでる。迷惑被るのが俺だけだから、悩みたいだけ悩むんだ」



 後悔の仕方論争はよくある。

 やらない後悔は、やってみた結果を知らないことから生まれる。

 どうせやらなければ死ぬならやって死ね、と、昔の自分に言ってやりたい。

 結果生きてるぞとは教えてやらない。

 結果を知って動くのはまた違うから。

 限りなく確定に近い推測が丁度いい。

 俺が責任をもって、道を選べるから。



「アイツに関して、好きも嫌いも、普通も気にしたことはは無い。ただ思うのは、俺は優柔不断だが、裏を返せば慎重だ。いざ悩んだ時、それを長所で持っていたい。だから好きは作らない。そこに損得や利害を作りたくないから。感情で動きたくないから。俺は俺らしく、その時の最善のために動けるように。結果的に俺のために、選択できるようにいたい。……まあでも、多少の縛りがないと、逆に迷うんだよな。だから、シュウがハッキリした性格で、シュウがそう言うから、俺もそうする努力をする、っていうのはあるかもな。優柔不断にはちょうどいい単純さだよ」



 アホみたいな笑顔を思い出して、頬が緩んだ。

 単純すぎてもう少し考えろとおもう。

 だがその単純さのおかげで、俺は沢山のことを知ろうと思う。



「楽しいやつだよ。アイツは。だから失いたくない。たくさん、一緒に旅をしたい」



 そう言うと、ミコは貼りつけていた眉を解いた。

 目尻が下がって、心做しか肩も少し下りた。




 ―― ♦︎




「角とった!」

「はっは! ユウは強いなぁ」



 同じ建物の別室にて、シュウは女装姿で好々爺と盤上遊戯に勤しんでいた。

 傍らには手土産の菓子と酒。

 シュウは白と黒のコマをひっくり返し、その度に小袋から取り出した歌詞を口に放り込んでいた。

 好々爺の後ろの酒は開けられる様子はなく、寂しそうにゲームを見つめている。



「そやけどほれ、ここを見落としたな」

「あっ、いや、気付いてたし!」

「ほれほれほれ」

「ああああぁぁぁぁあ……」



 白と黒の枚数が入れ替わる。

 空いた枠はあと三つ。

 どんな置き方をしても、シュウが取れるのは精々数枚。

 好々爺は二桁近くとれそうだ。

 つまり、勝敗は明らかになりつつある。



「ぬ……、くっ」

「ほれ、はよぅ置かんかい」

「ぃ……やだぁ」

「負けず嫌い。往生際悪いのう。そやけどそれもよし」

「悔しいいいいいい」



 見た目よりも幼く、シュウは胡座のまま体を左右に揺らす。

 それを見て飄々と笑う。

 自身でついだ酒を運ぶ。

 これにて酒瓶三本を開けきった。

 だが、好々爺の顔はまるでそうとは思わせず、たたらほんの少しだけ、耳の先端を赤らめている。



「新人にしては度胸据わってるな。ほんまに新人か?」

「うん。お仕事は色々したけど、こうして遊ぶのは初めてだよ」

「ほっほ、遊ぶか。金を捲りあげてるいうのに。正直すぎるのも考えものぞ」

「僕はただ楽しく遊んでるだけだからね。お金なんて欲しいって言ってないし。そっちが勝手に詰んだんでしょ」

「憎たらしい。そやけど――」

「それがいい、でしょ?」

「ほっほっほっ」



 事実、シュウが相手をした男たちは、いい思いはしていない。

 そもそも、数日の間は一線を超えた営業というのはなしという契約。

 それは抽選の時点で知らされていた。

 だがそれでも、いい思いをしようと強行しようとした輩はいた。

 最初の二日間、天井に潜んだキョウカが、毒を塗った細い枝を曲に投げていた。

 その毒は即効性の毒で、すぐに気を失っては数十分しか効果を持たない。

 しかしそれで、契約の時間は終わってしまう。

 輩はほとんど記憶のないまま退出することになる。

 寝ていた、覚えていないと主張したところで、酒を飲んでいたのだろうと片付けられる。

 また、輩もまさか「一線を越えようとした」などと言えるはずもなく。

 また数十日後の予約を取るか、もとの客に戻るかしかない。

 その様を見ていたシュウは学んだ。

 覆いかぶさろうとして来る輩の意識を一瞬で奪い、その間は歌詞を貪り食っていた。



 だから、時間いっぱいまでゆっくり遊ぶ客は、このエルフの好々爺が初めてだった。



「おじいちゃん、本当にこれでいいの?」

「なんや? 何気になる?」

「遊んだだけだしー。他の人みたいに襲ってこないから。ていうかおじいちゃん」



 ―― 抽選会場にいなかったでしょ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ