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そして、俺は扉を開けた 〜赤い部屋の契約者は怪異をもって怪異を狩る〜  作者: 御上ナモ


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エピローグ

本日は3話連続投稿となっているので注意して下さい

こちらは3話目です

「……朝か」

 随分と、昔の夢を見ていた。

 当時の激情の名残が、背筋に滲んでいる。

 高校2年のときに引っ越してからずっと住んでいる、いつも通りの自室は青っぽい朝の光に満たされていた。

 今日は祝日で、大学は休み。

 枕元の時計はまだ、6時半だった。

 隣に据えられたベッドが空になっている。

 その奥のハンガーラックには多種多様のマフラーが引っかかっていた。

 サキのものだ。

 大学に入ると同時に、俺とサキは同居を始めた。

 初めは、あまりにも生活力がないサキを餌付けしたのが始まりだった。

 そして何やかんやあって今はサキとは恋人……なんだろうか。

 サキはアズサと異なり、あまり言葉数が多い方ではない。

 ただ、まあ、多分そういうことなのだろう。

「ふわぁーあ」

 我ながら間抜けなあくびの音に苦笑する。

 部屋の端に置かれたギターラックは今は空。

 サキは今日の夜のために早々と家を出て行ったようだ。

 あれからサキはハードメタルのバンドを始めた。

 口裂け女モードに変化したサキの顔がロックなのが人気に火をつけたとか。

 それから、あれよあれよというまにメジャーに出るというので驚けばいいのか感心すればいいのか分からない。

 実際にサキのライブを見たことがなければ、担がれているのだと思っていただろう。

 そして今晩は彼女のバンドの初めての単独ライブ。

 すごいものだ。

 ゴロリと逆に寝転がった俺は、開けっぱなしになっている部屋の扉を見る。

 扉は普通に開けられるようになった。でも、なるべくなら開けたいものでもない。

 食べれるけど別に積極的に食べたくない、みたいなもの。

「……起きるか」

 このままここでゴロゴロ過ごしていたらすぐにでも1日が過ぎてしまう。

 ぬっと起き上がった俺は適当に身支度をして居間へ。

 冷蔵庫から作り置きしておいた朝食を取り出し、電子レンジにかける。

 流しには軽くすすがれた食器が一揃い、置かれていた。

 サキも最初の頃は、食べたら食べっぱなしだった。

 俺が散々言ったから、最近ではちゃんと食器を片してくれるようになったのだ。

 今でもたまにサボるが。

 ふっと笑った俺はさっさと飯を食べる。

 うん、我ながら悪くない出来ばえだ。

 そして清々しい気持ちで目を上げた先に見えるのは乱雑な居間。

 サキのドラムセットやCD、機材だのなんだのが、あちらこちらに散乱している。

「あいつ……」

 イラッとしつつも、居間の奥の巨影。自分の趣味の料理本によって築かれた2メートル近い山が視界に入った。

 ついつい面白そうなのを見つけるたびに買ってしまうのだ。

「まあ、お互い様だな」

 俺は立ち上がって、サキのCDの山と俺の料理本の山が崩れて、混ざりあっているところを片付ける。

 サキのCDを取ってサキのCDの山へ。

 俺の料理本を取って俺の料理本の山へ。

 今夜のサキのライブ。

 もちろんそれも大事なのだが、それと同じくらいに大事な予定があった。

 それはアズサの三回忌。

 今日でちょうど3年目。

 アズサの墓参りに行った後、帰りにサキへの差し入れを買わないといけない。

 黒炎事件が結局世間でどのように取り沙汰されたのかは見ていなかった。

 ただ、あの後白宇根先生は教職を辞して統制局へと戻った。

 彼女は最初っからアズサに目をつけてたのかもしれないな。

 でも、別にそれは今の俺たちには関係のない話。

 玄関で靴を履いた俺は立ち上がる。

 不意に懐かしい匂いがした。

 何かの気配を感じた気がした俺は、後ろを振り返る。

 なんだか、アズサの輝く紫紺の瞳がどこかに見えた気がしたが、きっとそれは居間の白いカーテンと、青い空を見間違えただけ。

 俺は少しだけ緊張をほぐすように。

 でも、ごく自然に。ありふれた動きで。

 いつも通りに扉に手をかけた。

 そして。




 ——そして、俺は扉を開けた。

ここまでこの作品を読んでくださりありがとうございました。

要望があれば後日譚や本編になかったアズサ視点なども少し書くかもしれません

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