表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただいま異世界巡回中!  作者: Riviy
五周目 本当のゲームの終わり
98/116

第八十六ゲーム ・箱庭に縛られた一人の、箱庭に盲目した一人の、


星屑が広がる美しき、待ち望んだ空間で不意に思い出した思い出(過去)に虫酸が走った。


裏切られた。


そんな言葉で片付けられるほど、単純ではなかったのだろう。自分よりも真実を優先して、手を伸ばした人物がいた。その手がのちに、真っ赤に染まる事も知らないで。


最初から、要らなかったのかもしれない。


真実に全てが眩む。そういう人間を騙しては、目的達成のために利用して来た。いつも見ていた。真実を前にすると、それがどんなに大切なものであろうともコロリと手の平を返す者達を。それがどんなに愚かな代償を伴うかも知らないで。どんなに絶望するかも知らない…いや、知ろうともしないで。嘘にまみれた真実があると云う事も知らずに目先の真実を追い求めて。絶望、という言葉しか、当てはまらなかった。


「この世界は君の大好きなゲームの世界だ」と云えば、喜んでのめり込んだ奴が、真実を教えた途端にそれまで寄り添って来たキャラクターを押し退けた。その顔は、絶望していた。キャラクターも絶望していた。けれど、その奴と同じ事に絶望しているわけではなかった。拒絶された事に絶望していた。ほら、君の大好きなキャラクターの絶望した顔、ご覧よ。そう言っても、もう誰も見ない。だって、絶望は『大切』を大きく変えた。所詮、『大切』なんてそんなものだったんでしょう?手の平を返すほどの価値でしかなかったんでしょう?『大切』を奪われて、どんな気分?そう問いかけても、もう誰もなにも言わない。……目から流れ出る水の意味さえも知らない。


『大切』なんて、詭弁だったんだろう。だから、嫌いだった。それが、原動力となったのかは分からない。既に、狂っていることは知っていたから。同情なんて要らなかった。これが、真実だから。


だから、全てを支配しようと思った。壊そうと思った。

『大切』とのたまうその口から、体から、手から、心から、魂から、全てを支配して奪ってやる。偽善者を抹殺したいと願った。『大切』なものを教えて欲しいと願った。怒りを覚えた。愛されたいと云う願望を持った。そして、裏切りを知った……絶望を知った。全てを支配して、神から造り直して、全てから感情を奪ってしまえ。『大切』なものに裏切られ絶望するくらいなら、最初からなにもかも要らない。自分だけが絶望しない世界を作ってしまえ。そうすれば、この()()()()さえしなくなるんだ。


心の底から『大切』と思っているならば、真実をどう受け止める?勇者となる?聖女となる?……ただ、一言。真実を知っても「『大切』だ」と言って欲しかっただけなのに。隣にいたかっただけなのに。真実を手にした代償は、きっと大きすぎた。『大切』な、世界を壊したい。そう願うのは、絶望じゃなかった。


利用した奴らの中にも『大切』を、真実を知ってもなお貫く者もいた。絶望しても立ち上がる者もいた。けれど、既に狂っていた自分にはなにも響かなかった。だから殺した。虫を潰すようにプチッと。要らないものを排除して、自分だけの理想郷を作っていた。全てに絶望した、支配して壊したいと願ったのはそれらを奪った()()()への復讐、なのかもしれない。いや、違うか。

そして、ようやっと目的は達成された。自分だけが『大切』で真実なんだ。そうすれば、絶望なんてしないし()()()なんてもしない。干渉を禁止した神々は、既にいなくなった神々は、こうなることを予測していなかった。条件は一つ、「解決すること」。いつも、いつもあと少しと云うところで終わってしまっていた。何が駄目だったのだろう?嗚呼でも、それさえ、どうでも良い。早く此処で、心からの錬金をしよう。そしてもう一度産み出すんだ。『神の石』と呼ばれる最強兵器を。『異空間の神世界』で、この箱庭で。世界を。


…*…


「そうよね。錬金術師がどういう目的で湊ちゃんや清光を利用しようとしたのか。それに此処にも来たことあるような口振りだったわね」


ピィアレナが両腕を組み、片手を顎に当てながら言った。自称神様、錬金術師。ツキカゲの仲間によれば湊を殺そうとしたらしいが……目的も知らぬ殺意に湊はブルリと体を振るわせた。そうだ、自分は殺されかけたんだ。アバター思考だったのが一瞬にして恐怖に変わった。それに気づいた清光がさりげなく、湊の頭を撫でていた。


「嗚呼。僕達も詳しくは把握してないけど、錬金術師はあの扉の先、『異空間の神世界』が狙いなのは確か。その先は、中に入らないと本当に分からない」

「………利用って云うのは?」

「『異空間の神世界』を呼び出すには条件があるらしくて。条件も知らなかったから止められなかったんだけど。それだと思う」

「湊ちゃん以外にも被害者がいた可能性も否定出来ないわね」


ツキカゲの説明にピィアレナがそう告げる。うん、とピィアレナに同意を示しながら龍華が言う。


「一度来た事があるから口振りだったしな。そこについてはなにか知ってるのかい?」

「ごめん。あんまり…でも一度、神々…今は亡き神々である『原初の五柱』が錬金術師を止めた事があるみたいだよ」

「『原初の五柱』?」


新たな単語に湊が首を傾げる。錬金術師の「干渉を禁止された」と云う発言があることから誰かしらから妨げを受けたのだろう。しかし、『原初の五柱』と云う言葉に龍華もピィアレナも聞き覚えがないらしく、首を傾げていた。清光も知らないようだ。全員の様子にツキカゲは肩を竦める。


「そっか、君達は知らないか。名前の通り、五柱からなる神々の事だよ。まぁ正しくは神の力を持った人間だけど。世界や異世界の調和、均衡を保つ役割を担っていたと云う神話はなしさ」

「へぇーそんな人達がいたんだねぇ…知らなかった」

「知らなくて当然だよ。異世界の調和や管理が主だったから普通は知らないし、本来は『異空間の神世界』の主人で守り神だったのが色々あって手を広げ、今の形になったらしいしね。僕達は、錬金術師を知る過程で少しだけ本来の創造神話をかじったから知ってたんだ」


湊がなるほどーと目をキラキラさせながら聞く。その目にちょっと照れたのか、ツキカゲが頬をかいた。とりあえず、『原初の五柱』が錬金術師の横暴を一度は止めたが時間は待ってくれなかったのだろう。人間であれば、いや、生き物であれば必ずと言っていいほどに死が訪れる。一度目が何年…何百年前だとしても錬金術師の粘り勝ちである、今回は。それに錬金術師は、干渉を禁止されたから湊達を利用したのだろう。


「錬金術師って、何がしたいんだろうね」


湊のもっともな問いに答える者は誰もいなかった。それもそのはずだ。明確な目的を知らないのだから。「でも」とツキカゲが声を上げた。


「でも、錬金術師が『異空間の神世界』を完璧に自分のものにしたら、ヤバい事だけは確実」

「ヤバいって、どんな風に?」

「……最悪、いや…多分、死」


ツキカゲの低い声と緊迫した表情に緊張が走り、冷や汗が流れる。錬金術師の張り付けたような笑みが脳裏に甦る。大きな絶望、いや恐怖に体が硬直する。そうして、最悪の結末を想像させる。


「どうする?」


嗚呼、後戻りは出来ないと言っているんでしょう?湊は自らの胸元の服を握り締める。心臓が、うるさいほどにバクバクと叫び声を上げている。いやこれはもしかすると悲鳴なのかもしれない。自分が勇者とかそんな大それた事を考えていたわけでも望んでいたわけでもない。ただ、()()だけ。混乱がこの後の展開を正確に導き出す。難しいと逃避しながらも理解していた現実であり、別の次元の物語。嗚呼、そうだね。私は、きっと……もう見つけてるんだ、この恐怖も行動も。だから、ねぇ、少しだけ自惚れても良いですか?


「あたしは錬金術師を止めた方が良いと思うわよ?此処まで聞いちゃったんだから、投げ出すのは駄目だと思うの」

「ピィアレナの意見にオレも同意。止める方向で動いた方が良い。明確な目的が分からない以上、放置するのは得策じゃないかもね。ツキカゲの話通りなら錬金術師を一度は止めた『原初の五柱』は既にいない…そこから考えられる事も容易い」


ピィアレナと龍華が真剣な表情で言う。それにツキカゲも同意見なのか頷いた。


「うん。僕が此処に来た目的の一つだからね」

「ん~結論を急がないでよ。マスターの意見も聞いて上げて」


清光が言い、全員の瞳が湊を写し出す。その瞳には「無理しなくて良いよ」と気遣いが溢れていて。嗚呼、でも。湊は短剣を握り締める。最初に感じたあの電流。その正体に今なら分かる気がする。


「足手まといかもしれない。自惚れかもしれない。それでも、一緒に」


抗わせて。

湊のその言葉と意思に全員が満足げに笑った。分かっていた。でも、君の口から聞きたかった。


「でもマスター。体が今アバターだからと言って、無理は禁物だよ。錬金術師に細工を施されたのはマスターと僕だけだから、油断しないで」

「うん、分かってるよ清光。なにかあったら絶対に皆を頼るよ!」

「ふふ、そうだねそうしな。それが最善だよ」


小さく笑った清光の目には湊の手の動きが見えていた。震えているのは、容易く分かった。彼らは全員が全員、真剣な表情で頷き合う。と扉の近くにいたツキカゲが血のように真っ赤なドアノブを握った。後ろを振り返ると湊達が頷いていた。それに彼も頷き返し、ドアノブを勢いよく引いた。引いた途端にまるで彼らを歓迎していないような、まるで錬金術師であるみぃちゃんが放ったような風が襲った。その風は何処か冷たくて、恐ろしくて。嗚呼、でも


「(出来るところまででも良い…いや、絶対止めてやる!)」


例え……。もう、被害者を増やさせないためにも。

ツキカゲが星屑の海へと飛び込んだ。彼に続いてピィアレナ、龍華も飛び込んで行き、湊が助走をつけて駆け込んだ。最後に清光も飛び込み、扉は勝手に閉まった。ドォンだが、ゴォンだかと云う鈍い音を立てながら、真っ白な空間に一つ、静かに佇んでいた。


次回は木曜日です。

ちなみに清光はツキカゲと同じ月関係で意味から探して、ビビっと来たのでこうなりました。一応他にも候補あったんですが、一番しっくり来たのがこれでした。遅くなったお詫びというか、裏話でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ