第七十九ゲーム・気づいた感情という名の強さ
結論から云えば、大勝利である。魔神族はあまりの戦力の差に敗北と撤退を余儀なくなされた。そうして、残党を引き連れて撤退した魔神族の後には死屍累々とした亡骸と住民の勝利の雄叫びが響き渡っていた。その雄叫びは魔神族達に屈辱と敗北を大いに意識させたことであろう。湊はツキカゲと合流してすぐに手を出した。ツキカゲも手を出し二人はハイタッチをかわす。そして湊は「褒めて褒めて」とすり寄って来る清光の頭を両手でワシャワシャと撫で繰り回していた。そんな湊と清光を見てツキカゲは微笑ましそうに笑っていた。二人と一匹の傷はどちらかかと言うと浅いが、中には大怪我もいるようだった。しかし、死亡者は出ていないらしくそこが大きな救いであり、胸を撫で下ろした事でもあった。まぁ、街が戦いの被害でボロボロになってしまったが命には変えられない。湊達が固まっていると龍華とピィアレナもやって来た。二人がいた方も終わった、というのは撤退した魔神族を見ても明らかだった。
「湊ちゃん?!もぉー!」
「ごめんごめん」
「ピィアレナ、マスターはこういう人だから」
「ええ、知ってるわ」
「うぬー!!」
ケラケラとわかっていると笑うピィアレナがなんだか意地悪をしているように見えて、湊は頬を膨らませた。合っていたのか、ピィアレナは彼女の頭を安心したように撫でながら笑った。いつの間にか仮猫に戻った清光が湊の肩に勢いよく飛び乗った。その拍子に湊がよろめく。慌てて三人が支えようと手を伸ばすが、すんでのところで湊は態勢を整え、「大丈夫」と言うように笑った。
「まぁ、それが主人だからね」
「そういうこと!」
「にゃにゃー!」
「無理はしないように」
「もうツキカゲに言われたぁ!」
龍華がそうまとめると湊と清光が叫び、彼らは笑いあった。湊が心の何処かで戻って来る事に気付いていた。いや、分かっていたのだ。だって、彼女だから。そしてそれは信頼の裏返しであり、注いでくれた愛情でもあることに二人は言われなくても気付いていた。各々の怪我の状態を確認しているとまたあの歌声が響き渡った。湊とツキカゲ、清光は知っているが実際にその歌声の主を見たことがない龍華とピィアレナが不思議そうに自身を包む光を見下ろした。怪我が癒されて行く事にも少し驚いた様子だ。
「これって…誰の?」
「ハナトだよ。ハナトの、プレイヤーが持つ治療スキル」
「つまり、ハナト自身も歌って事か」
龍華の問いに湊が答えながら周囲に視線を配る。戦いに参加した者もそうでない者もハナトの治療と云う名目の歌声に耳を澄ませている。ウィンの歌声とは程遠いが暫しは同じ声で、口で、喉で紡がれた言葉なき歌。心の奥底に沈んだものまでをも溶かし、癒していく。湊はその事実に嬉しそうに微笑み、肩に乗っている清光の頭を指先で撫でた。清光も嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らした。湊達の傷が全て治った頃、歌声は次第に小さくなって行き、そして儚げに終わりを告げた。歌が終わると誰と云うわけでもなく、拍手の嵐が巻き起こった。湊達ももちろん拍手を送る。送る相手なんて、決まってるのだから。その当人であるハナトは拍手の中心で多くの拍手をもらい、少し困惑したようだったがペコリと頭を下げた。彼が頭をあげても拍手は暫くの間鳴り止まなかった。拍手が鳴り止むとハナトは湊達の方へ一目散にやって来た。全員に見られて恥ずかしいと云うこともあるのだろうか、いやはやそれはないか。先程も見られていたのだしそれに宣言したのだから。ただ、友人のもとへ行きたかったのだ。周りの人々も状況を察してか、声をかけることをしない。ハナトの後ろ、と云うよりは斜め後ろ上空にはウィンとヒイロが滑るように移動しながら着いて来ている。ハナトに向かって湊が笑顔でお出迎えする。
「ハナト!」
「えっと…湊!」
「凄いよ!凄い凄い!それも歌も上手いし!ウィンとはまた違う歌声で、私、聞いた時はびっくりしたんだからね?!」
「ハハハ、ありがとうございます」
湊が両手を彼に差し出すとハナトはその手を掴んだ。片手に薙刀を持っているので少し握りずらいがまるで久しぶりに出会った友人ー女の子の友人みたいな…ーとの再開を喜び合うかのように手を繋ぐ。その事と「湊」とハナトが呼んだ事にツキカゲが少しムスッとしていたのは知っての通りであり、龍華とピィアレナ、そしてウィンがニヨニヨと笑ったのも日常茶飯事である。だったら呼べば良いのにと思ったとかなんとか。湊と二人で路地裏に隠れていた時はさん付けだったのに、呼び捨てになり湊はハナトの成長と友人になったのだということを実感し嬉しくなった。湊の褒め言葉にハナトは「エヘヘ…」と最初に出会った時のような無邪気な笑みを浮かべた。湊も無邪気に笑いかける。
「でも、湊も凄いです。アナタなら、アナタたちなら…おっと、これは私の仕事ですね」
「そうだよハナト!私が言えた事じゃないかもしれないけど、大丈夫。ハナトなら伝説の勇者にでもなれちゃうよ!」
「伝説までは困るかなぁ」
「あれ?」
顔を見合わせて楽しく笑い合う二人はまるで友人と云うよりも兄弟のように見えた。すると清光の尻尾が頬に当たって来た。清光を横目で見るとツキカゲ達を尻尾で示し、「にゃあ」と鳴いた。「なに?」と振り返ると同時にハナトがツキカゲ達にも大きく頭を下げた。
「ありがとうございました。自分の事に気づけたのはアナタたちのお陰です」
「ふふ、僕達じゃなくて君だよ」
「アンタ自身が気付いて信じたんだ。オレたちはその手伝いをしただけさ」
「そうよーで、ちゃんと仲直りはしたのかしら?」
ピィアレナの言葉にあっと思い出したハナトは恐る恐るウィンを振り返った。あの時まで鉢合わせなかったので何も言っていなかったのだ。ウィンの様子を伺うハナトに彼はニヤニヤと笑う。そんな彼に隣にいたヒイロが肘で突っつきながら云う。
『ウィンお兄ちゃんなら大丈夫だよゴシュジンサマ!ウィンお兄ちゃん、ゴシュジンサマの言葉が本心じゃないってきづいてるもん!』
『!ヒイロ、黙れ』
『黙りませ~ん!だってウチも、ヒイロちゃんもゴシュジンサマの心なんだからね!分かる事は分かっちゃうんだから!』
プンプン!と言った感じでヒイロがウィンに詰め寄ると彼は顔を片手で覆った。だが指と指の隙間からウィンの表情は丸見えであった。その表情に、「知っている」と云う表情とこそばゆそうな笑みにハナトも笑った。龍華がちょんちょんとツキカゲの肩を突っついた。ツキカゲが「なに?」と振り返ると少しの困惑と驚愕の表情を浮かべた龍華とピィアレナが懇願の眼差しを向けていた。そこで嗚呼とツキカゲは気づいた。そういえば二人共、その場にはいなかったっけ。何か起きた事は分かっていたのだろうが、詳細は見なければ、聞かなければ分かりっこない。
「ねぇツキカゲ、あの子って…?」
「うん。ウィンの隣にいるのが『正義』のタロットカードのヒイロ。証のタロットカードは、ハナトの心なんだって。で、」
「ハナトが自分自身を信じたから現れた…ってところかな?」
「………ご名答」
ツキカゲの説明を聞き、途中から理解したのか龍華がそう呟くと、ツキカゲは頷いた。そして、視線を交わし合う。ピィアレナは二人が真剣な表情で視線を交わし合っている事に少し疑問を持ったが、自分と湊のように男子同士でなにか考えているのだろうと結論付けた。以前のあの時、同じ結論に辿り着いた時と同じように。どちらかと言うと二人は頭脳派っぽし、関係ないかしら?と、龍華がツキカゲから視線を外し、歩いて行く。その先には湊と話し終わったハナトがいた。龍華に気付き、軽く頭を下げている。ツキカゲは一人、息を吐きながら湊の方へと歩み寄った。
そう、きっと、そうだ、と自分を抑え込むように結論付けて。
次回は来週です!




