第六十八ゲーム・月明かり
ツキカゲの先導で丘の頂上に辿り着いた湊達。だが、三人が一瞬でも見かけたなにかは見当たらない。全員で辺りを見渡していると、突然、闇夜に甲高い声が響いた。住宅街から少し距離があるため、聞こえないかもしれない。と云うのもその声は甲高いと言うものの、小さかったのだ。まるでか弱い鳴き声のように、気づかれたいけれど恐怖で声が出ないかのように。その声に一番最初に反応したのは、夜を征したツキカゲだった。勢いよく彼が振り返った先は木々の方。暗くてよく見えないが、木々は奥に続いているようだ。そこにまた、先程三人が一瞬見たなにかが通りすぎた。
「!なんかいた!」
「!にゃあ!」
あまりの騒ぎに起きた清光が湊に同意するかのように鳴く。「見えた!」とでも云うように。湊はツキカゲ達に視線を送ると短剣を抜き放った。悲鳴、と云うことはなにかあった可能性がある。湊の動きに促され、三人も武器を構える。清光も湊の肩から飛び降り、獣となる。湊が大きく跳躍し、木々の隙間を器用に駆けて行く。その後を追って三人も駆け、湊をサポートするように清光が大きく跳躍し、彼女と平行して走る。湊達の視界の先でなにかが瞬いた。そしてその瞬間、また悲鳴が上がった。魔法と云う存在は異世界であれば、存在していても可笑しくない。そう、以前のように。
「龍華!ピィアレナ!」
「任せてちょうだい湊ちゃん!」
「懸命な判断だね」
あれは、多分!湊は考えるよりも先に二人に指示を出した。二人は擬人化である。ツキカゲと清光をー湊は当然抜かすー抜かせば素早さはゲーム内でも恐らく異世界でも一、二を争う。龍華とピィアレナが近くの木の幹に足をかけると、強く蹴った。途端、凄まじいスピードで湊と清光を追い越し、悲鳴と瞬きが起きた方へと迫る。バッと空中で態勢を整えながら着地した二人の目に入ったのは怯えきった一人の少年と、そんな少年を取り囲んだ多くの魔神族であろう異形な姿をした奴らだった。集団リンチ、そんな言葉がピィアレナの脳内に浮かんだが、すぐに消し去った。異形な姿をした魔神族達は突然の二人の登場……その数秒後に現れた湊とツキカゲ、獣の清光にも驚いたらしく、身動きを止めてしまっていた。
「……えーと?倒す?」
「方が良いんじゃない?」
湊も一瞬驚愕し、そう呟くとツキカゲが答えた。ハッと我に返った少年が湊達に助けを求めるかのように手を伸ばした。それが、合図だった。魔神族の一人ー一体…?ーが湊達に向かって魔法を放って来たのだ。バリバリ!とつんざくような音を響かせながら黄金に輝く二つの雷が湊とピィアレナに迫る。弱そうな女性を狙った?残念。ズバッと、湊とピィアレナはほぼ同時に武器を雷に向かって突いた。途端、雷は武器に真っ正面から貫かれたせいか、ものの見事に消滅してしまった。驚愕が魔神族から伝わってくる。それと同時に背後から漂うツキカゲと龍華の殺気に足がすくんでしまう。
「マスター大丈夫?」
「見ての通りだよ!でも、攻撃されたってことは…助けを求められたってことは……戦闘準備開始?」
短剣と刀を交差させ、湊とツキカゲがニヤリと笑う。魔神族は何処か怯えきった様子の少年を一瞥し、彼を後回しにすることに決めたようだ。湊達に攻撃の矛先を向けた。湊達も武器の切っ先を敵に向けた。少年は怯えたようだったが、何処か呆けているようでもあった。
「清光とピィアレナは少年の事お願いね!あとから私達に合流で!異論は受け付けます!」
「大丈夫よ湊ちゃん。清光、行くわよ!」
「にゃうん!」
湊の指示に従い、ピィアレナが清光の背に跨がる。そして、ピィアレナを乗せて清光が駆け出した。それが開戦の鐘だった。魔神族全員が湊達に向かって跳躍し、湊達も大きく跳躍した。
湊に向けて刀身が細く、そして長い刃が突き刺される。それを横にひらりと回転する要領でかわし、湊を追って振り回された一撃を跳躍してかわす。横から別の魔神族の攻撃が襲う。湊は短剣を振り回し、攻撃を防ぐ。甲高い音と火花が散った。湊は力を振り絞り、敵の刃物をが弾くと背後に迫った魔神族に蹴りを放つ。見事、顔に足が命中したようで魔神族が変な声をあげているのが聞こえた。それに軽く笑いながら、振り上げた足を振り切る。此処までのレベルアップでアバターもツキカゲ達に遠くは及ばないが、近づく事は出来た。魔神族を吹っ飛ばすと弾いたが刃物とそれ以上に大きな刃が一斉に湊に向かって振り下ろされる。湊は振り切った足の遠心力を使い、間一髪後方に避ける。
「あっぶな!!」
先程まで湊がいた場所は足下から凹んでいた。その事実に一瞬、体が恐怖で震えた。が、ニヤリと笑い、クルンと一回転。そして、背後の木の幹に足をかけると強く蹴り、凹んだ地面から刃を抜こうとしている魔神族の背後に一瞬にして回り込む。隙を突かれた、と敵が攻撃を開始するよりも先に短剣をうなじに突き刺した。痛みで手を止める魔神族に要領なく短剣を一回転させて攻撃を与える。グチャリ、と肉と何かが千切れる音がし、湊は思わず顔をしかめた。魔神族の背中を蹴って短剣を抜き放つとそのままもう一人ー一体?ーの方へと一気に迫り、胴体を切りつける。後方に仰け反った敵は刃のように伸びた両爪を仰け反ったまま、湊を挟み込むように向ける。それに回転する横目で気付き、湊は慌てて身を引いた。が腹と首元に浅い一線が走った。尋常ではない首元の痛みに湊は片手で首元を押さえる。前方の魔神族が上半身を捻って起き上がると湊の懐に向かって迫る。心臓と首を狙って振り回された両爪を短剣で紙一重で防ぐと突然、しゃがみこみ、敵の体勢を崩す。そして、敵の脇を通り過ぎようとするが別の魔神族が湊に武器を振り回す。低い体勢のままそれをかわし、相手と距離を取る。私の今の相手は、今のところ二体。トン、トン、トンと片足でリズムを取る。相手二体がその音に煩わしそうに顔を歪め、跳躍してきた。それと同時に湊も大きく頭上へ跳躍する。頭上から攻撃するつもりか、とわからないほど敵も馬鹿ではない。敵も一体、湊のように頭上へ飛ぶ。意図も簡単にこちらへ飛んで来た魔神族の脳天目掛けて踵落としを空中で食らわせる。突然の事に敵は体勢を整えられなかったようで脳天に攻撃を受けてしまい、勢いよく落下した。下にいた魔神族をも巻き込み、湊も一気にその敵に向かって急降下し、短剣を突き刺した。二体一気に心臓を貫き、そのまま上へ短剣を引いた。途端に敵の体が真っ二つに引き裂かれる。
『レベルアップしました。ただいまのレベルは40です』
「よっしゃ、一気に上がった!」
湊は嬉しくなり声を荒げたが、後方から迫って来た気配に気を引き締め、振り返りながら笑う。
「勝つのは、私達だよっ!」
あ、ありのままに気づいた事を言うぜ……いつの間に七十近くなってたんですか?←遅い
はい……もう少しで終わりやぁ~




