第六十六ゲーム・情報提示
「なるほど…じゃあ、前回と同じ可能性もあると?」
「多分。本当にあるかどうかは謎だけどね」
龍華の問いに湊は肩を竦めて言うとオムライスにスプーンを入れた。トロッとした黄色い生地が割れ、中からオレンジ色に輝くご飯が姿を表す。
ツキカゲと龍華の情報では、この異世界では魔神族と呼ばれる敵がいるようだ。魔神族は邪神と呼ばれるものを筆頭にこの異世界を破滅に導こうとしている。その邪神だが、数百年前に封印された。だが近頃、その封印が解かれ、小規模で活動していた魔神族が大規模に動き出した。邪神はこの異世界では重要な意味を持つタロットカードによって封印されていたがそのタロットカードさえも封印が解かれた際に行方不明。勇者となる人材がいるようだが、名乗り出てこないため今のところ個々で魔神族の討伐を行っていると云う。もちろん、勇者は邪神討伐が優先である。勇者となる人材は封印で使用されたのとはまた違うタロットカードを持つと云う。その情報から湊はやっぱり…と小さくため息をついた。そうして自分が知るゲームを言った。
「〈 ワールド*カード~邪神と光姫~〉」
スマホゲーム〈 ワールド*カード~邪神と光姫~〉はある邪神の封印が解かれた事によって世界中に散らばったタロットカードを集め、邪神を滅する典型的な冒険ものである。敵はツキカゲと龍華の情報と同じく魔神族。ゲームではプレイヤーは勇者に選ばれたと云うことになっている。個性的な案内役のキャラクターと、タロットカードと銘打っているがタロットカードに限らず種類が豊富であり、絵柄や雰囲気があったりと好評だが、ストーリー内容が推理物とホラー系(しかも結構怖い)を合わせたものになっておりまた早送り機能がないため、絵柄やキャラクター目当ての人には不評と云うメリットとデメリットを持つ。ちなみに湊も案内役目当てで始め、まさかのホラーストーリーに心を抉られ、一週間エンドレス本編に魘されたと云うトラウマを持つ。だが見る限り、ゲームのようなホラー感は何処にもないので一安心である。どうして嗚呼なった運営ぇ。
そして冒頭に戻る。前回もプレイヤーポジションである異端児が幻ではあるものの登場した。つまり、此処で云う勇者も登場する場合がある。タロットカードがゲームとは少し違い、証のような存在となっているのだから。まぁその時はその時だ。だって此処はゲームにそっくりな世界設定を持つ異世界なのだから。これで一応の情報交換は終了し、心置きなく湊とピィアレナは夕食にありつく。清光も皿に注がれたミルクをチロチロと身を乗り出しながら飲んでいる。
「私、前回同様、ほとんど知識は使えないからねー」
「まぁトラウマになっちゃったくらいだからね。そこは理解してるよマスター。でも、それそんなに怖かったの…?」
興味本位でツキカゲが問えば、湊は明後日の方向を向いた。目が笑っていない。つまりはそう言うことだ。ツキカゲが申し訳なさそうに苦笑し、ジョッキに手を伸ばすと最後の一口を流し込んだ。湊達が来る前から飲んでいるはずなのだが、一向に酔う気配がない。それは龍華も同じなのだが、二人共酒に強いらしい。
「私だけが怖がりってわけじゃないくらい怖かった。みんな怖がってた。なんか最初はホラーゲームとしてリリースするつもりだったんだけど、何を思ったか運営が『冒険入れて、典型的にしようぜ!』って言ってそうなったみたい。ギャップで人気はあるんだよ一応」
「oh…でも、此処はそんな感じはしないし今まで通りよね。良かったわね」
「うん、そこが唯一の救いだよー」
驚愕に目をぱちくりさせ、ピィアレナが湊を宥めると彼女は小さく笑った。まぁそんなこんな、である。とりあえず、夕食を食べようと湊はオムライスを平らげていく。そして締めに飲み物であるジュースを一気に飲み干して終了である。いつの間にか夕食を終えていた清光は湊の膝の上で丸くなっていた。龍華が追加された野菜を食べながら言う。
「じゃあ、また前回同様、だね。休息を抜いて四つだから此処が最期かぁ」
龍華が何処か寂しげな表情で云う。その表情が何処か泣いているように見えて湊は心が痛んだ。そう、数が合っていれば此処が最期。恐らくみんなと別れる事になる。だって湊は、此処とは違う世界の住人だから。そんな龍華に感化されてかピィアレナも少し寂しそうに眉を下げる。ツキカゲも同じなのか、フイッと視線を逸らした。湊も彼らと離れるのは寂しい。大好きな彼らだからこそ余計に。
「大丈夫だよ!別れって言っても永遠の別れって訳じゃないでしょ?ゲームでまた会えるし、それに、忘れないから大丈夫!」
「なら、湊ちゃんはあたし達がいるゲームを、帰ったら一番最初にもう一度ダウンロードしてちょうだいね!」
「了解!それよりも誰か清光連れて行ってよね!一番最初の異世界から連れて来ちゃったからどうしようもないんだけど…」
「ハイハイ、僕が連れて行くから安心して」
「まぁ、まだ別れじゃないものな。近いかもってだけだし」
「そうそう!何が解決の糸口か分からないし。そこははっきりしてくれても良いのにぃー!!」
「もぉー!」と両腕を挙げて怒る湊。と突然動いたために清光が軽く身を捩った。起こした?と湊は慌てた様子で座り直すと、クスクスとピィアレナが笑った。それにつられてツキカゲも龍華も笑ってしまう。湊も笑い出し、しばらくみんなで楽しく笑い合った。三人の笑みの中には何処か嬉しさも混ざり合い、笑顔になった事に湊も嬉しくなっていた。周りはざわざわと騒がしいため、湊達の声でさえ愉快な声に紛れて誰にも聞こえない。しきりに笑い、喉が渇いたと言わんばかりにピィアレナがジョッキを手に取る。とそこである人物が目に入った。先程、歌声を披露していた俗に云う歌姫の少女である。
「?ピィアレナ?どうかしたかい?」
「……うんん、なんでもないわ」
ジョッキを手に取ったにも関わらず、一向に飲まずに何処かを凝視していたピィアレナを心配したのか龍華が声をかけた。ピィアレナは小さく笑って酒を煽った。ピィアレナが見ていたものが気になったのか、龍華はそちらへ視線を向けた。湊もツキカゲも一緒に視線を向ける。そこにいたのは客に挨拶に回る歌姫だ。
「?あの子がどうかしたの?」
「いいえ?なんて云うか…違和感を感じただけよ」
「?違和感?」
ピィアレナの言葉に首を傾げる三人。何処にも違和感なんて感じないが…彼女はそんな三人を見てクスリと笑うと酒を飲み干した。食べ物も飲み物も殆どなくなって来ている。別のテーブルに向かおうとしていた店員をピィアレナが軽く呼び止める。
「ごめんなさい?此処ってデザート的なのあるかしら」
「申し訳ありません…そういうのはないですねぇ」
「そう…引き止めてごめんなさいね」
「いえ」
デザート的なものが食べたかったらしい。オムライスとかある時点でありそうなものだが。アイスクリームが食べたかったのであろう湊は残念そうにしょぼん、となっている。それを見て、ツキカゲがパンッと手を叩いた。
「そうだマスター、部屋に戻る前に外行こうよ」
「え?でも今雨…」
「大丈夫、もう止んでるし。それに夜空が綺麗だよ」
儚げに笑って、断言するツキカゲ。その笑顔を直射日光ばりに浴びてしまい、嗚呼、好きだなぁと湊は頬を軽く染めた。そんな二人をからかうように頬杖をつきながらピィアレナがニヤニヤとした意地悪げな表情で見ている。龍華は少し笑ったあと、言う。
「自分の独壇場だからわかるのかい?」
「うん、まぁそうとも云うしね。それにずっとマスターは寝てたんだから少し外に出ても良いんじゃないかなって。何が解決の糸口になるかわからないし」
悪戯っ子のように笑うツキカゲ。何が解決の糸口になるかわからない以上、行動は早めが良いかもしれない。
「そうだね。さすがツキカゲ!じゃあ、外行こう!迷惑じゃなければだけど」
湊が少し恥ずかしそうに、それでいて楽しそうに云う。ツキカゲがクスクスと愛おしそうに笑う。嗚呼、なんて…。湊とツキカゲの提案に龍華とピィアレナからの返答はイエスのみだった。ピィアレナに至っては「ちょうど夜風に当たりたかったのよ~」と笑っていた。少し酔ったらしい。酔った感じなど微塵もなかったが。そうと決まったならば話は早い。飲み物を飲み干して空にすると湊達は立ち上がった。湊は膝の上で寝ていた清光を起こさないようそっと抱き上げるとそのまま腕の中で抱く。丸まったまま、湊の腕の中で気持ち良さそうに眠る清光を見て、頬が綻ぶ。袖口から金銭が入った小袋を出すツキカゲの手元から小袋を奪うように取る龍華。えっと驚く彼に向かって龍華がしてやったり、と云うように笑う。
「え…っと、龍華?」
「オレが払おう。どうせまだあるんだろ?」
小さく笑う龍華にツキカゲは肩を一瞬竦めると「お願いするね」と笑い返した。龍華はそれに片手を挙げて答えると、テーブルを右へ左へと避けながらお金を払いに人混みの中に消えて行った。そうして湊の腕の中で眠っている清光を微笑ましそうに見ているピィアレナと、そぉーっと動こうとしている湊を振り返った。代金を支払い終わった龍華が帰ってくるまで会話し、外に出た。湊達のところに歌姫が挨拶に回ってくる事はなかったが、その歌姫がいつの間にかいなくなっていた。
次回は木曜日です……
なにやら気づいたようです……?




