第五十一ゲーム・恩人
「っ、撤退!撤退!」
「二度と来んな!!二度と!」
リーダー格であろう天使が傷を押さえながら叫んだ。ぼろぼろになった翼を広げ、生き残った仲間達と手の届かない上空へと逃げて行く。そんな彼らに騎士団の一員であろう誰かが手槍を投げながら怒声を響かせた。その手槍は逃げ足だけは早く、すでに見えなくなってしまった彼らに当たる事なく、大きく円を描いて落下した。敵が逃げ帰ったので一応こちらの勝利だ。その事実を確認し、湊は緊張から体を解放した。そして、短剣をしまう。近くにいたツキカゲも危険はなくなったと考えたのか刀をしまう。
「ツキカゲ!」
「!」
湊が笑顔で「お疲れ様!」と両手を彼に突き出す。ツキカゲは一瞬驚いたように目をぱちくりさせたが、意味がわかったらしくニッコリと笑って自分の手を湊の手と重ねた。ハイタッチである。笑い合う二人の元に小さくなった清光とピィアレナ、龍華がやって来る。二人ともハイタッチをかわし、互いの勝利と怪我を労う。恐らく、この中で一番大きいのは足を負傷したピィアレナだろう。傷は深くないのだが、見た目的に痛々しい。ピィアレナも歩くのが少し辛いのか、はたまた響くのか、龍華に寄りかかるようにして立っている。
「ピィアレナ、大丈夫?」
「ふふ、大丈夫よ湊ちゃん。これくらい、あたし達には日常茶飯事だわ」
「そうだよ主人。大丈夫」
心配そうに顔を歪める湊を安心させるようにピィアレナが彼女の頭を撫でる。それでも心配なものは心配だ。湊の顔がピィアレナ含め、全員の傷を案じて歪んでいく。ツキカゲの肩に彼の怪我に響かぬよう座っていた清光が「大きくなる?」と首を傾げる。しかし、それに龍華は大丈夫だと軽く微笑んだ。その時、胸元に紋章が刻まれた鎧を身につけた騎士が湊達の方へやって来た。その顔には安心感と少しの疲労感が滲んでいる。騎士の後ろで、湊達の周りではいつの間にか騎士達が慌ただしく、ガシャガシャと音を奏でながら走り回っている。
「お前達が、人々を避難誘導してくれたのか?」
「うん。と言ってもこっちの二人だけど」
低い騎士の問いに湊が龍華とピィアレナを示しながら云う。ツキカゲが「この子も」と肩の上の清光を指差す。すると清光は「にゃ!」と前足をあげて挨拶をした。それに一瞬でも和んだとかなんとか。と、突然騎士は湊達に向かって頭を下げた。ギョッとして驚き、頭をあげてくれと言わんばかりに手を動かす湊達に向かって騎士は言う。
「ありがとう。お前達のお陰で死者が出ずに済んだ。侵略者に手こずっていたとは言え、本来は騎士団である我らがするべきこと。旅人であろうお前達に救われた事、本当に感謝する」
「え、えぇと…見つけちゃったし、よそ見出来なかったから。ねっ」
少し困惑した様子で湊が言う。それにツキカゲ達もそうですと言わんばかりに頷いた。見過ごすなんて、出来なかった。騎士は湊達の主張に軽く頬を綻ばせると再び感謝を告げながら頭を上げた。と、湊達の後方を見て突然、姿勢を正した。なんだと湊達がつられるように後方を振り返るとこちらに向かって歩いて来る青年がいた。青年と云うよりも美青年と云う方が合っている気がするほどだ。湊は彼を見て「あっ」と声をあげかけ、瞬時に口を抑えた。知ってる、でも、きっと此処も…!しかしその苦労空しく、ツキカゲと清光にはバッチリ聞かれていた。
「マスター知ってるの?」
小声で、耳打ちされた湊は騎士や青年に気づかれないように小さく頷いた。
「うん。〈bloody red † bloody rose〉に出てくるキャラクターだよ。私はそこまで詳しくはないんだけどね…持ってなかったし」
こんなことならちゃんと召喚するんだった!湊は過去の自分を呪いたくなった。そんな彼女を見て一応聞こえる範囲にいて聞いていた龍華とピィアレナが首を傾げていた。美青年が湊達の前にやって来る…かと思うと彼女達を素通りして騎士の前に歩み寄った。何故か一瞬、こちらを見ていた気がしたが。
「ナイトメア様!お怪我はもう大丈夫なのですか?療養中との事でしたが…」
「敵が侵略して来ているのに無視するわけにはいかないでしょう?…で、状況は?」
「はっ。彼らによって死者はいません。軽傷と中傷の負傷者が各数名。あとは無傷です。彼らがいなければ、我らも此処も壊滅であったでしょう…」
「…そう、彼らが」
騎士の尊敬と感謝の視線を浴びる湊達を美青年は振り返った。途端、ツキカゲの肩の上で清光が何故か小さく唸り声をあげていたが。美青年、青年は四人と一体を振り返り、親しみ深い笑みを浮かべる。そして、深々と頭を下げたのだ。明らかに此処の権力者であろう人物が感謝の意とはいえ、頭を下げたのだから驚くしかない。
「ありがとうございました。お陰で我が領民は無事でした」
「いえいえ!当然?のことだから!ああああ頭上げてくださいぃい!!」
驚きすぎて湊が叫ぶように言うと青年は小さく笑いながら頭を上げた。そうして湊達の怪我に視線が向いたらしく、その美形な顔を歪ませて悲しそうに言った。
「おや、怪我をなされていますね。ボクの家で治療させてください」
「え?でも…」
「恩人ですので」
キラキラとした笑顔で懇願されてNoと言えるわけがない。湊がどうすれば良いですかと恐らく四人と一体の中でも頭脳派であろうツキカゲと龍華を振り返った。
「マスター、それも良いんじゃない?何が解決に繋がるかわからないんだし。まぁ、わかるけどね?(ボソッ)」
「治療くらいは良いんじゃないかい?…正直言うとそろそろキツイ」
「あら!龍華ったら!」
龍華とピィアレナが軽くじゃれあい出す。二人の意見に湊はこの中では一番の負傷者ピィアレナを見た。やはり、早めが良いだろう。ツキカゲにそう視線で言うと彼も頷いた。清光は先程まであげていた唸り声をいつも間にか潜めていた。
「すみません、御言葉に甘えます」
湊が躊躇しつつ言うと青年は騎士に指示を出しながら大丈夫と微笑んだ。
「いいえいいえ、良いのですよ。恩人ですから」
さあどうぞ、と手招かれた先はあの西洋の館だった。恩人と何度も繰り返されるとなんだがむず痒いなと湊は思いながら、ゲームで得た青年の情報を脳のタンスから引っ張り出していた。
今日は此処まで!次回は木曜日です!




