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ただいま異世界巡回中!  作者: Riviy
零周目 番外編・日常の日々、過ぎ去りし
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第四十一ゲーム・月銀の恋物語Ⅱ




ザーザーと水が流れる音がする。音が反響して、その音の元凶が何処だがわからなくなる錯覚がする。だが、そんなことを考えているのは恐らくツキカゲくらいなのだろう。神経が、耳が、反響する全ての音を拾おうと躍起になっている。自分が苛ついているのが分からないほど、自分は馬鹿ではない。()()()()()()()。今ツキカゲはピィアレナの進言通りにシャワーを頭からかぶっていた。ずぶ濡れになった体に生暖かいシャワーは心地良い。ダンッとツキカゲは壁を拳で殴った。自分でも何故殴ったのか分かっている。清光には悪い事をした。けれど、嗚呼、何かが()()()()()()。それは何処か心地好くて、でも煩わしくも感じてしまって。それを解消するように八つ当たりに近く、殴ったのだ。大きな音がした事でピィアレナに心配をかけてしまったらしく、バスルームの扉前にやって来ているのが影と気配でわかった。


「大丈夫?大きな音がしたけれど」

「うん、大丈夫だよ。手が滑っちゃって」

「怪我しないでよ?湊ちゃんが悲しむわよ」

「はいはい」


ふふっと笑って扉前からピィアレナが離れて行く。からかっていると云うよりも気づいていると云った方が良いのかもしれない。湊は、自分とは違う存在だ。そんな彼女に…いや、()()。きっと。


「そんなんじゃない」


キュッと水を止めて、タオルを手に取り、素早く体を拭く。まだ買い物に出た湊と龍華、清光は帰って来ていない。シャワーの暖かさを逃したくないと云うように服等を身につける。辛うじてあまり濡れていなかったのはハイネックタンクトップと半ズボンだった。着物はほとんど完全にびしょ濡れだったので、これではただただ着物を脱いだだけである。髪を拭きながらバスルームを出た。バスルームを出ると二つ並んだツインベッドの一つにピィアレナが腰かけて座っていた。その近くの窓辺にはずぶ濡れになったツキカゲの着物がかけてあり、乾くまで風に揺られている。首元のチョーカーを少し掻きながらツキカゲはベッドの向かい側にあるソファーに座った。ピィアレナが手に持っていたレイピアを傍らに置き、髪を拭くツキカゲに言った。


「ねぇ、ツキカゲって湊ちゃんの事、どう思ってるの?」


その質問の意図を正確に、いや読み取れたは取れたものの疑問に思ったツキカゲは何も答えず、逆に質問を返した。


「どう思ってるってどういうこと?」

「そのままの意味よ。あたしはね!湊ちゃんの事、信頼してるし大好きよ。彼女のためならば、この命だって投げ出してしまうでしょうね。でも、貴方はちょっと違う」


クスリと笑ったピィアレナのその何もかも見透かしている、とでも言うような笑みにツキカゲは警戒したように視線を向けた。が、その警戒はツキカゲの杞憂だったようだ。途端、ピィアレナは恋する乙女のように頬を染め、声高に言う。


「だって、ツキカゲって湊ちゃんの事好きでしょう?とっても分かるもの。二人して相手を想いあっているのがわかるもの!」

「……そんなに分かる?」

「ええ!」


キャッキャと笑うピィアレナにツキカゲは柔らかく笑った。その笑みを肯定と受け取ったピィアレナが再び頬を乙女のように染め上げる。湊も、マスターもそうだったら良いな…と思ったのは内緒であるし、きっとちょっと違う。何が?ピィアレナの言葉に少々頬を染めつつ髪を拭き終わり、ツキカゲがタオルを畳んで傍らに置いた。ちょうどその時、部屋の扉が微かに開いた。そしてその隙間に頭を突っ込みながら清光が入って来た。


「なぁあ」

「お帰り清光」

「なぁあ!」


ただいま!と返事を返す清光の後ろから扉を開けて紙袋を抱えた湊と袋を持った龍華が入って来た。紙袋の中にあるであろう美味しそうな匂いがお腹が空いた二人の鼻腔を擽る。湊が何か言う前に龍華が自分が持つ袋と湊が持つ紙袋を取り替え、「行って来たら?」と促す。それに湊は少し照れたように笑い、こちらを向いて笑った。


「ただいま!ツキカゲ、これ着てみて!それも濡れてるでしょ?」

「お帰りマスター。うん、少しね。マスターが何を選んで来たのか楽しみだな」

「期待しても良いと思うよ。主人が見立てたのだからね」

「でも半分以上は龍華じゃん!」


服が入った袋を受け取りながらクスクスとツキカゲが笑う。清光が彼の膝の上に前足を乗せて「にゃあ」と鳴いた。そんな清光を湊は抱き上げている間に袋の中身を探る。中にはワイシャツとズボン。ツキカゲが何を思っているのかわかった湊は慌てたように言った。


「なんかね、和服は夜にしか売ってないんだって」

「?なにそれどういうこと?」

「さあ?でも、面白そうだから行ってみない?」

「あら~湊ちゃんすぐ寝ちゃうじゃない!」

「お、起きてるもん!ちゃんと起きてるもん!みんなが遅いだけだもん!」


ピィアレナにからかわれて湊が頬を膨らませる。と彼女はケラケラと愉快そうに笑いながらちゃっかり龍華からお昼ご飯を頂戴していた。ピィアレナのは玉子サンドである。龍華もピィアレナの隣に座りながらお昼ご飯を食べようとしている。おい。そんな気持ちも籠めて二人を睨んでみたが効果はない。まぁ、良いか。湊が清光用のお皿を探そうと振り返った。ツキカゲも食べる前に着替えるらしく、立ち上がった。バスルームへと行く前に湊の頭をポンポン、と優しく撫でておいた。感謝の行為だ。だが行為に湊の動きが止まったのをツキカゲは知るよしもない。


…*…


数分後しばらくして服を着替えたツキカゲが部屋に戻って来ると龍華とピィアレナは昼食を食べ終わっていた。ついでにいえば清光も買ってもらったミルクを少し飲んで終了とし、湊の膝の上で甘えていた。湊はツキカゲが来るまで食べていなかったらしく、彼が出て来た途端、腹の虫が大声をあげていた。恥ずかしさを振り払うように湊がツキカゲを見上げ、固まった。何処か変かな?と不安そうにツキカゲが首を傾げた途端、湊の頬が軽くピンク色に染まった。


「ツキカゲ、めっちゃ似合う!黒にしてよかったね!めっちゃ格好いいよ!」


さすが私の大好きな子!と云う言葉まで口から飛び出してしまいそうだったので湊は慌てて口を抑えた。抑えたため肩が弾み、膝の上にいる清光がその振動で湊に文句を言っていた。ツキカゲは湊の反応に照れ臭そうに笑った。慣れない袖口を片手で摘まみながら、感想を述べる。


「ありがとマスター。洋服ってなんか新鮮だね。でも、僕はやっぱり和服かな。着てるし」

「シンプルだけど、ツキカゲの良さを別の意味で引き立ててるわね」

「まぁ良いんじゃないかい。主人が選んだんだし。ほら、そっち貸して」


龍華がん、とツキカゲに手を出す。ツキカゲは軽く笑って濡れている服を渡した。龍華はその代わりにと云うように預かっていたお金が入った小袋を渡した。小袋の重さが変わっていない気がしてツキカゲは僅かに首を傾げた。安かったのかな?そう思うことにし、湊の隣に腰をおろした。龍華とピィアレナが楽しくお喋りしつつ干すのを眺めながら手前に置かれたローテーブルの上にある紙袋に手を伸ばす。中を探ると残っているのは当たり前だが二つだけ。両手でそれらを取り出しながら、膝の上の清光を甘やかす湊に問う。


「マスター、どっt「ツキカゲが好きな方で良いよ?私、一応好き嫌いないから」」

「なぁー」


清光が無防備にもお腹をさらし、そこをワシャワシャと撫でくり回すと清光が前足を上げ、ゴロゴロと鳴いた。ちなみに湊はこちらを見てもいない。楽しそうな湊にツキカゲは小さく微笑みながら、どちらを食べようか吟味し、自分が食べるものを口に運ぶ。そしてもう一つを湊の方へ差し出した。受け取るだけだと思ったツキカゲだったが、湊はそのままサンドイッチにかぶりついた。驚いたのはツキカゲだったが、湊はさも普通そうにかぶりついたままサンドイッチを受け取った。


「湊ちゃん、お行儀悪いわよ!」

「んー!」


ピィアレナに注意されて湊は悪戯っ子のように笑った。ほうけた状態でいたツキカゲはその後、龍華の声で引き戻されたとかなんとか。


「そういえば、清光の名前ってきよみつっても読めるわよね」

「違うからね!?清光は清光だからね?!」

「にゃあああ!!」

「言っただけじゃない。清光」


突然、ピィアレナがそう云うと湊がサンドイッチを飲み込んで叫んだ。清光も同じように叫び、ピィアレナが笑う。その慌てように龍華が笑い、サンドイッチを食べつつもツキカゲも笑った。ピィアレナもつられて笑ってしまい、湊と清光も笑う。楽しそうな笑い声が響いていた。


清光ってそう読むよなーって思いまして。てか全員一回はそっちで読みますよね絶対。

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