第四十ゲーム・月銀の恋物語
そんなこんな、商店街にやって来た湊、清光、龍華。先にお昼ご飯として具材の違うサンドイッチを四つ買った。清光にはミルクを購入した。あと普通にお金が使えた。金銭だけは万国共通なのかもしれない。四つのサンドイッチとミルクが入った紙袋を両手で抱き抱えるようにして持ちながら、湊は人混みの中をまるで分かってますと言わんばかりの龍華を懸命に追っていた。湊の肩の上に乗った清光が龍華を見失わないよう視線をロックオンしている。昼過ぎだと云うのにこの混み様。夕方になったらどうなるのだろうと湊は追いかける脳の片隅で思った。と、清光は尻尾で湊の肩を叩いた。湊がなに?と清光の尻尾が示す方を見ると、龍華の足がある屋台で止まっていた。こちらに向かって手招きしている。湊は人混みを懸命に潜り抜けてそちらへと進んだ。その屋台は店の前に出張で出しているらしく、店は休みなのか閉まっている。湊が龍華の隣に躍り出ると彼はどう?と顎で服を見るよう促した。
「へぇー…いろんな服があるね」
「いらっしゃい」
棚に並ぶ服の品々を見て湊が声をあげる。しかし、規則正しく畳まれ、並べられている服は全て洋服であった。ツキカゲは和服を希望している。上だけでも和服があれば良いのだが…その一心で屋台に並ぶ服を血眼になって探すが、一向に見当たらない。探すのを諦めホッと一息ついたタイミングで龍華が言った。
「主人って、ツキカゲの事本当に好きなんだね」
「へ?」
「へぇ」
店の店員であろう人物ー和風美人、と云った感じだーの前で突然言われたので店員は「やるねぇ」とニヨニヨ笑った。湊は慌てて龍華を振り返った。自分の頬に熱が集まっているのが分かる。ついでに先程のツキカゲも思い出してしまい、余計に顔が熱くなる。
「な、なに龍華、突然!」
「いや?主人、ツキカゲの事になると目が輝くから気になってね」
「もぉー!…でもまぁ、龍華の言う通り、ツキカゲの事は大好きだよ。龍華もピィアレナも清光も大好き!」
「!にゃああ!」
「はは!清光くすぐったいよー」
湊にそう言われ、清光は嬉しそうに顔を擦り付けた。洗い立てで乾かし立てであるためにふわふわとした毛並みがくすぐったくて湊は身を捩らせる。一方龍華は湊の言葉にキョトン、とした後仄かに頬を染めた。その姿がいつもの大人びた彼とは違い、なんとも年相応でとても愛らしい。龍華をギュッと抱き締めたくなるが、此処でやったら話を聞いている店員に今まで以上に微笑ましい表情をされてしまう。そう思い、ギリギリ耐えた。まぁ龍華を救出した際、怪我に響かぬように一度抱き締めたが。ピィアレナがその状態で湊をも抱き締めてしまったので挟まれてしまったが。頬の熱を納めた龍華がでも、と前置きをして言う。言いながら服を物色するのを忘れずに。
「その好きと彼との好きは違うんじゃない?」
「え」
「ま、オレの勝手な推測だけど。和服はない?」
なんでわかった。茫然とする湊を置いてきぼりに龍華が店員に尋ねる。そう湊は以前にも言ったように、ツキカゲを一人の異性としてか、それともゲームのキャラクターとして好きなのか分からなくなっていた。目の前に大好きな人物が現れたから、と云う理由だけではないように思えた。けれど、ツキカゲが大好きだと云う想いは変わらなかった。色んな事を達観している龍華の事だ。何処かで気づいたのだろう。龍華の質問に店員は申し訳なさそうに表情を困らせた。
「すいませんお客さん。和服は夜にしか売ってないんですよー」
「?夜しかってどう云うこと?」
我に返った湊が怪訝そうに問う。清光も怪訝そうに尻尾をパシパシと動かしている。すると店員は湊の表情に「なに言ってんの」と云うようにこちらも怪訝そうに顔を歪めた。それに龍華がもしかして、と助け船を出す。
「悪いね。いつも夜は早く寝てしまうもので、知らないんだ。教えてもらっても?」
「嗚呼なんだ、そういうことですか。大方このお嬢さんのためでしょう?明らかに早く寝る気配がします」
「うん」
「即答しないで龍華!」
怒った様子で湊が叫ぶと店員はクスリと親しみ深そうに笑い、ツボにはまったらしく腹を抱えて笑いだした痙攣している。龍華の機転が上手く行ったようだ。自分達はこの異世界を知らない。旅人だと云ってもほとんど通じないだろう。ならば普通に寝ているだ。店員は「ごめんごめん」と笑いながら謝る。謝られた感じはしない。湊がプクゥと頬を膨らませると清光も真似のように軽く頬を膨らませた。
「笑ってごめんなさい。とりあえず、和服は夜しか販売しておりません。購入したい場合は夜にどうぞ…じゃなくて、夜にまた来てください。とっても面白いと保証しますので♪」
「へぇ気になる!!」
笑顔で云う店員の言葉に湊と清光が興味深そうに瞳を輝かせる。が今はツキカゲの洋服探しに来たのだ。夜の商店街はなんだか名前も魅力的だが、少し怖い感じもする。あとでツキカゲとピィアレナにも聞いてみよう。龍華が服、と云うように顎で促す。店員も湊達の目的を優先させるようで洋服を薦め出す。
「それでどんなのをお求めですか?」
「本人は和服が良いらしいんだけど。無理だし」
「一応、ハイネックタンクトップ着てるから…あーでも濡れてるか。チョーカーの邪魔にならない…ワイシャツ!」
湊が指差す真っ白なワイシャツを店員が手に取り、「どうです?」と広げて見せる。そのワイシャツを受け取り、龍華がサイズを確かめる。その間に湊は下を探す。丈がもう少し長いのがあれば、スカートみたいにしても…だめか。と湊の肩から清光が品物の中に飛び降りた。湊が慌てて片手で清光を抱き上げようとするが店員は大丈夫と笑っている。それを良いことに清光もツキカゲの洋服を探す。そして良いのを見つけたのか深緑色のズボンの前で止まった。
「それが良いの?」
「にゃあん」
「賢い猫ちゃんですね。失礼」
湊の問いに清光は甲高い声を上げた。店員が清光が決めたズボンを手に取る。カーゴパンツのようだ。まぁ乾くまでなのでそんなにお洒落を求めてはいないが。湊が決断しようとした時、龍華が提案を投げた。
「そこにある軍服っぽいズボンにしたら?ツキカゲってニーハイブーツでしょ?そっちも合うと思うけれどどうだろう主人」
「…………」
龍華の提案に湊は彼が持つワイシャツと店員が「これですね」と言って持った黒い艶があるズボンを見て、妄想する。うん、イケメンです。格好いい。てか龍華の方が私より見立て良いじゃん。さすが。ホーと妄想した状態で両手で頬を包みながら軽く赤らめる。決まった。そう云うように龍華が清光を抱き上げると清光は自分の案が採用されず、少々不機嫌のようで尻尾が激しく動いている。とりあえず頭を撫でておいた。
「あ、でも、ワイシャツ、シンプル過ぎない?乾くまでの替わりだけど、なにかアクセントが欲しいな」
赤い頬を納め、妄想を終えた湊がワイシャツを店員に渡す龍華に言う。
「主人が思う通りにどうぞ?」
「そう?ん~……すいません、それー」
湊が指差したのは先程と同じワイシャツだが、左胸に羽のように広がった蔦が刺繍されている。その蔦の中の片方には大きめの半月があり、もう片方には月の影なのか見方によっては動物に見える。それを店員が取り、二人に向けて広げて見せる。見えなかったが裾には青い線で波打つような刺繍がされており、シンプルだが派手過ぎない。うん、と湊が頷いた。
「うん、それとさっき言ったズボンでお願いします。龍華、良い?」
「主人に任せるって言ったでしょう。はい、清光任せた」
「にゃああ!!」
店員が湊と龍華が指示した洋服を手に取り、品物を包んでいる横で龍華が湊に清光を渡す。清光は嬉しそうに両手を広げた。そんな清光を見て湊も嬉しくなり、笑いながら抱き上げ、戯れる。一人と一匹の周りに花が舞っている。龍華はツキカゲから預かった小袋から店員が指名するお金を出し、品物が入った袋と交換する。ツキカゲ、似合うかな?乾くまでだけど、喜んでくれるかな?内心ワクワクするのを湊は止められず、肩が思わず弾んでしまう。そんな彼女を見て龍華が小さく笑った。
「毎度ありがとうございましたー」
「ねぇ龍華、夜も来てみたい」
「じゃあ、みんなに聞かなくてはいけないね」
品物を受け取って龍華に言うと湊はうんと頷いた。清光が湊の肩に移動し、よしっと息巻いて鳴いた。それを合図に二人は店員に軽く頭を下げてそこを立ち去った。店員は彼らが見えなくなるまで手を振って見送っていた。
寒くてキーボードを打ち間違えてしまいます……ヤバい……今日は一つで、次は木曜日です!




