誰かの思い出話について
三人とわかれて隣の部屋に向かって歩き出す。やっぱり、飲むんじゃなかったかな。頭がガンガンと痛い。酒に弱いって訳ではないのだけれども……あれがダメだったんだ。うん、きっとそうだ。隣の部屋…と云っても目的地である部屋は少し歩く。隣と云っても隣ではない。何故かそこの部屋と部屋の間に隙間が存在する。押し入れ、だそうだ。なんでそんな構造になったのかは、いまだにわかっていないけれど、みんな面白がって肝試しで遊ぶ時は毎回のようにその押し入れが終着点になる。まぁ、今はそんなこと、どうでも良いんだけど。頭痛の影響でゆっくりと歩く。用事が終わったら、寝よう。昼寝。うん、昼寝だ。あの三人のせいだって云えば、寝かせてくれるだろうし。
「あれ?何処に行くところなの?」
と、声がした方向を見ると、隣の部屋からひょっこりと顔だけを出した少女がいた。声を無理矢理なのか、わからないけれども違和感のある高い声。少女はこちらに気付き、「どうして?どうして?」と興味深そうに瞳を輝かせている。それがなんとも少女の片割れ…双子ではない片割れとは違って笑ってしまう。思わず小さく笑ってしまうと少女はムッと不機嫌そうに表情を歪めた。
「何笑ってんだよ」
「おっと」
笑っているのが気に障ったようで少女から低い声がもれた。無理矢理低くした、と云うよりもそれこそが地声だと言わんばかりの声だ。それもそのはず。彼女は男なのだから。片割れと合うようにと願ったらそうなってしまったと言っていたが、案外気に入っていることを知っている。謝ると云うことで少女ー少年かな、に近づき、頭を撫でておく。彼は頭を撫でられる、甘えるとか甘えさせてもらうと云う行為に免疫があまりない。片割れには出来るのに。こうやってたまにみんなが構うのは、彼の事を思ってだ。
「なんなのぉおおおお」
「ごめんごめん。もう一人は「クスノキ、うるさい」」
言おうとしていた事を遮ったのは目的地の部屋の中で刃物の手入れをしている少年だった。顔つき的には少年…彼と似ているけれど、さっきも言った通り、双子じゃない。不思議。彼はスカートをはためかせながら少年の元に駆け寄るとその前にストン、と座り込んだ。
「ごめんねタチバナ。何か用があるみたいで」
「用事?早くしてくれないか?」
「何か用でもあった?」
部屋の中にお邪魔しながらそう問いかける。この部屋には彼らの他に二人が使っている。その二人のうち、一人は性別的に寝る時はさっきの三人同様、違う部屋に行くけど。その二人がいないところを見るにまた来なくちゃいけないかな。そう思いながら少年に訊くと、少年は刃物を傍らに置きながら、云う。
「今いない二人と、仕事が入ってるんだよ」
「あれ、しばらくは取らないんじゃ…」
そう言って、記憶を探る。うん、やっぱり、彼らはまだ数日分休暇だったはず。何故?首を傾げる事で問いかけると彼がクスクスとまるで悪戯が成功した子供のように笑った。
「少しでも姉弟の役に立ちたいって、タチバナが云うもんだからさー!」
「クスノキ!要らないこと云うな!」
「ホントの事じゃん!二人共、喜んでたし!仲良くしたいんでしょ!?」
「そうだけど!」
二人の微笑ましく見える言い争いを見ながらそうだったなと思い出した。そうだった。二人はまだ此処では新参者だった。だから少しでも多く仕事をして、信頼されたいのはすぐにわかった。そんなに慌てなくても大丈夫だよ。落ち着かせる、っていうか安心させようと口を開きかけた。すると少年が何か言いたげにこちらを見た。一瞬、こちらを見た後、呟くように言った。
「お前のためにもさ」
……嗚呼、君にもわかっちゃってたんだ。なんだが、申し訳ないなぁ。でも、大丈夫だから。そっちのペースで進んで行って。そう言いたいのに、言葉が出ない。彼に不安そうにこちらを見ている。大丈夫、大丈夫だよ。ただ、さっき飲んだ酒で頭が痛いだけだから。そう言おうとも思ったのに、それすらも出ず、ただただ苦笑するしかなかった。
もう十二月ですよ早いなー!次回は木曜日、番外編に移ります!




