第三十六ゲーム・橘の刃
「殺し合い」
少年は手にした刀をまるで鞭のように操りながら笑う。自分が勝つと信じて疑っていないようだった。まぁそれは、こちらもそうなのだが。武器を構えたツキカゲ達の様子を注意深く少年は観察する。しかし、それを嘲笑う龍華。
「アンタは慎重派じゃないでしょ?」
「言うじゃないか」
嘲笑れた事が勘に障ったのか、少年の声が恐ろしく低くなる。けれども龍華は慌てず、ツキカゲが見る限り慎重に相手を揺さぶり、挑発していく。相手は『双剣の華』の片割れであることには気づいていたし、恐らくあの襲撃もこの襲撃も指揮するリーダー的存在だ。揺さぶれば、相手の隙をつけるのは目に見えていた。
「素直なとこ、俺は気に入ってたんだけどな」
「へぇ、だったら見逃しておくれ」
「無理」
「ふふ、まぁ知ってるけど。でも、負けないから」
龍華が柔らかく笑った後、少年を睨む。すると彼は「それはそれは」と愉快そうに呟いた。と云っても感情が籠っていなかったので本当に愉快かどうかも知らないが。その代わりなのか、殺気が異様に増していた。
少年、橘はは顔を布で隠しているために瞳の色や顔付きを判別する事が出来ない。柑子色のショートで、半袖のワイシャツにフード付きのクリーム色のベスト。両手首には緑色の蔦で繋がれた小さな花のブレスレットをしている。髪と同じ色のリボンをリボンタイのようにして結んでいる。赤と黒のチェックのハーフパンツをはき、靴は茶色の編み込みブーツ。
両者が静かに睨み合う。清光の低い唸り声だけがその異様な空気の中、響き渡る。そうして、清光が飛び出した。それが合図となり、ツキカゲも龍華もそして橘も跳躍した。清光が大きく橘に襲いかかる。と彼も刀を横に振った。清光の片腕に紅い線が加わるがそれでも清光は構わず、鋭い爪を彼に襲いかからせる。橘は怪我を負わせたであろう片腕を掴みあげる。痛みに清光が小さく鳴いた。そしてそのまま何処にそんな力があったのかと不思議に思ってしまうほど簡単に清光を投げ飛ばした。清光が吹っ飛ばされて後方に飛んで行く。それを横目に入れながら龍華が素早く懐に入り込み、脇差を振った。二人の顔間近で火花が散らされる。キリ、と脇差を半回転させてその攻防戦から逃れると龍華は体勢を低くし、中腰のまま回し蹴りを放った。が、それをまたもや掴み、制する橘。龍華は慌てる事なく、足を振り上げその手を逃れると足を振り下ろすように見せかけて、橘の足に自分の足を絡めた。そして、自分の方へ引き、倒させた。まさかの事態に橘は簡単に後方へ倒れて行く。倒れて行く顔面を狙い、いつの間にか回り込んでいたツキカゲが刀を振り下ろす。しかし、それを間一髪で首を傾げるようにしてかわすと上半身をバネにして素早く立ち上がる。回し蹴りを放ちながらツキカゲに向かって刀を振った。上空を切り刻んで行く一撃をしゃがんでかわし、その隙をついて自らも刀を突き上げる。が、目の前で起こった出来事に一瞬、ツキカゲは目を疑った。
「?!……いやいや、いやいや!?こっち見てなかったはずだよね?!」
驚愕するツキカゲの前ではこちらを見ずに片手の人差し指と中指でその切っ先を挟め、防ぐ橘がいた。橘は驚く彼に向かって悪戯が成功した子供のように口元だけで笑って見せた。親しみ深いが、おちょくられているように感じ、ツキカゲは内心ムッとした。バッと腕を振り上げ、ツキカゲを後方に引き離し、追撃としてツキカゲの腹に蹴りを放つ橘。その背後へ龍華と清光が潜り込み、龍華が中段から脇差を振り下ろし、続け様に振り上げる。その攻撃に対応出来なかった橘の胸元に二本の線が刻まれ、軽く呻いた。そこへ先程の仕返しだとでも云うように清光が小さくなり足元を翻弄させる。足元に絡み付く清光を邪魔そうに橘が睨み、上空へ跳躍する。ツキカゲと龍華も続けて跳躍し、左右から挟まれた橘に向かって凄まじい勢いで攻撃を加える。橘はその一つ一つを丁寧に防ぎ、弾き返して行く。ツキカゲの渾身の一撃が橘に振り払われた。それを防ごうとした橘の刀を龍華が逃がさないとでもいうように絡め取ってしまい、身動きが取れない。その腹いせのようにほぼ強引にその拘束から刀を抜き払い、龍華の足元を切りつけた。空中で体勢を崩した龍華が落下して行く。その真下にタイミングよく清光がやって来て真っ黒な毛並みでキャッチした。一方、ツキカゲの一撃を橘は間一髪で防いだが彼の刀に気を取られてしまっていた。これにはツキカゲも気付き、チャンスを逃すまいと片手を握り締め、顔を狙い、拳を振り上げた。目に当たったらしく、顔を覆っていた布が上下に揺れ、頬に刻まれていた刺青が見えた。二人同時に落下していく。が橘の場合は頭からの落下である。コンクリートに直撃する直前、橘は体を捻り四足歩行となって衝撃を和らげる。その間に落下するツキカゲに龍華の時と同じように清光が滑り込み、再びキャッチ。清光の頭を撫でながら飛び降りたツキカゲのもとへ龍華がやって来る。
「生きてるかい?」
「そんな物騒な事聞かないでよ。ほら、この通りです」
「にゃあん!」
二人と一体でとりあえずの無事を喜び合う。そうして、ゆっくりと立ち上がる橘を睨み付けた。彼は軽く痰を吐いた後、態勢を低くした。それは誰がなんと言おうとも何か来る予兆だった。
「その呪い、お前の大切な人間にでも向けさせてやる」
憎々しげな声が響き渡った。かと思えば一瞬にして橘の姿は掻き消えた。そして疾風が彼らの間を通り抜けて行った。何が起きた?目を丸くするツキカゲの隣で呻き声がした。慌ててそちらを見ると二の腕辺りから血を流す龍華がいた。痛々しげに片腕を強く掴んでいる。清光が心配そうにその腕をチロチロと舐めている。
「大丈夫!?」
「…ふふ…嗚呼、オレは平気。橘のあの素早さにアンタはついて行けるかい?」
「……清光ならどうにk「無理だね。その子の目でさえ、追えていない」」
龍華の断言にツキカゲは息を呑んだ。清光も彼の云う通りだと言わんばかりに「なぁん」と鳴いた。実際、龍華の目でさえ、今も素早く翻弄するように動く橘を捉える事は出来ずにいた。あ、見えた!と思ったらもういないの繰り返しのため、飛び出そうにも飛び出せない。こっちは負傷者が出た…もともと出ていたのにこの傷だ。龍華の傷は利き腕ではなかったが、橘に攻撃される事は確実だった。低い唸り声をあげる清光を横目にどう攻撃しようかとツキカゲが案を張り巡らせる。その時、龍華がツキカゲの服を引っ張った。なにと彼を見ると龍華は自分の脇差を差し出して来た。なんだと怪訝そうな顔をしつつも、橘の様子を注意深く伺う。
「?龍華?」
「この姿を貸すよ。この姿なら、橘を見極めれる」
ん、と脇差を早くと急かすように突き出す龍華。その目に宿るは信頼。これは信頼の証。ツキカゲは一瞬、戸惑い、その脇差を取った。途端、龍華を四匹の龍が包み込んだかと思うと一匹の龍となり、脇差に吸い込まれた。清光が驚きの声をあげる。ちょうどその時、橘が素早く接近してきた。彼の動きが嘘のようにわかった。橘が刀を振ると同時にツキカゲは片手に持った脇差を振った。キィン、と甲高い音がして二つの刃が交差する。橘が驚愕し、目を見開く隙も与えずに自身の刀を振り切る。片腕が切れるのも気にも止めずに受け止める橘。脇差を弾き返し、素早く刀を切りつける。それを再び、刀で防ぐと隙をついて脇差を振りかざす。一撃が橘のこめかみを掠り、顔と布を真っ赤に染め上げて行く。そんなこんな攻防戦を幾度なく繰り返し、戦況が不利であると感じたのか橘が一旦後退した。素早さが消えた橘に清光が襲いかかり、刀を振られて一旦後退して来た。「グルル」と低い唸り声が静まり返った空間に響く。頭上からバッタンバッタンと大きな鈍い音がしている。楠か。ツキカゲは脇差をブンッと軽く振った。と、龍華が姿を現した。彼は「ね、言ったでしょ?」というように柔らかく笑い、ツキカゲから脇差を受け取った。こんな状況にも関わらず、ツキカゲはあとで聞こうと思ってたとかなんとか。両者は睨み合い、シーンと静まり返った空間が数十秒ほど続いたその瞬間、両者は再び相手に向かって跳躍した。
話題がなくなってきたヤバイな!!ということで(なにがということで、だ)本日は此処まで!次は木曜日です!




