第三十一ゲーム・喜び合う再会
久しぶりの再会を喜び合ったあと、湊が言っていた話題に入った。その前には湊とツキカゲ、そして清光の今のこの事情も話しておいた。龍華とピィアレナが一緒に行くと云うことはわかっていたが、彼女達が言った「失望」がいまだに不明だった。瓦礫に凭れた龍華の隣にピィアレナが座り、その前方に肩に清光を乗せた湊が座っている。だがツキカゲは「一応」と笑って湊の傍らに立っている。湊にもピィアレナにも「座って」と言われたが彼は頑なに一応と言って立っていた。そんなこんなで湊は二人に訊いた。
「ピィアレナにも聞いたんだけど、失望したってどういうことなの?」
「あたしから云うけどね、怨念に乗っ取られて人間のせいにする同士…でもないや、あいつらにも龍華の呪いを使おうとする人間にも心底失望したの。此処はこんなにも廃墟となってしまったのは人間だけのせいじゃないわ。なのに、これ以上の因果応報を行おうとするなんて…少ししかなかった愛想も尽きたし、それしか方法がない彼らにも愛想が尽きた…あたし達の言葉さえ聞いてくれないなんて、同士とは言えないわ」
悲しそうな表情で話すピィアレナ。その言葉に湊はそうだったのかと少し悲しくなった。償おうとしている人間もいるし、こうして動き出す物達もいて、自らの手で償いを行うものもいる。だがそれ以上に相手に破壊を与えようと云うものもいる。そこだけが彼らの中でほとんど一致しているとはなんとも皮肉だ。湊は自分の手に一度、視線を移した。あの時、何度右胸に短剣を当てただろう。自分には、彼らにもあの成仏の仕方しか、倒し方しかなかった。乗っ取られた怨念は相手を止めることで解放できる。そう信じていた。ツキカゲが湊の険しそうな表情と心情に気付き、彼女のその手に少しでも楽になるようにと手を重ねようとし、腰を屈めた。がそれよりも先にピィアレナが湊の手に自分の手を優しく重ねた。そして語りかけるように、まるで子守唄を歌うかのように優しく云う。
「湊ちゃんは間違ってないわ。あの方法でしかあたし達も解放されない。解放されたあとは、それこそ本当の人生の始まりなんだから。その人生をくれたのは、湊ちゃん、貴女よ。忘れないで。貴女は、多くの人間は多くの怨念を救い、与えているんだから。あいつらとは、違うから」
「…うん、ありがとピィアレナ」
涙目になってしまった瞳を片手の甲で拭うと湊は大丈夫と笑う。清光も「にゃあ」とそうだよと云うように鳴いた。湊は笑って清光の頭を撫でた。ツキカゲも安心したように微笑んだ。あいつら、というのが容易にわかってしまってなんだがむず痒かった。龍華が彼らを軽く伏せた目で見たあと、唐突に言った。
「オレもピィアレナと同じさ。まぁ、オレの場合はこの」
龍華は全員に見せるように右腕の龍を見せた。それは刺青なのか痣なのか。どちらでも表現できる呪いだった。龍華の腕に巻き付き、食い込んだ龍は彼らを見上げ、なにかを叫んでいるかのようだった。
「呪いがあったから、なおさら早かったけれどね。此処まで悲惨な事になったのは、誰のせいでもあって誰のせいでもない。それを知っているのはオレたちを使う者達と成仏した物達だけさ」
「……ねぇちょっと、聞いても良い?」
ツキカゲが行き場をなくして困っていた片手を上げながら訊く。龍華が「どうぞ?」と促すと彼は「ありがと」と言って訊いた。
「マスターから顔の布がないのは味方だって聞いてたんだけど、君達の言い分を聞いている限りだと生まれ変わった的な…?」
ツキカゲの問いは最もだった。一度、龍華もピィアレナもゲーム内ではあるが成仏している。そうしてそのあとに湊の武器として再び擬人化したのだ。二人も湊もその前提で話していたがそれを知らないツキカゲも清光も少し混乱していたらしい。成仏していない、怨念に乗っ取られた擬人化だと。それを示すように清光も首を傾げていた。
「あ、ごめんねツキカゲ、清光。龍華とピィアレナはゲーム内で私が一回成仏させて、そうしてメインとして使い始めたから。だからツキカゲが云うように生まれ変わったとでも合ってるよ」
「それだと、敵…?に紛れてよく気づかれなかったよね?」
ツキカゲの新たな問いに龍華救出のために怨念に乗っ取られていた擬人化ーゲームでは怨念組と称すーに紛れ込んでいたピィアレナは「あ、それね」と声をあげた。龍華は面白そうに目を細めていた。
「あたし達武器はその身に持ち主との証として爪に色が塗られるの。つまり、ついさっきまで湊ちゃんはいなかったからあたし達は持ち主なしになっていたってわけね。持ち主なしは爪に色は塗られないから紛れ込む事は可能なの!」
「敵、味方は?」
「擬人化同士ではそこまで不明なんだ。布で醜い素顔を隠すって云うけれど、成仏し、アンタの云うように生まれ変わった物は本来の素顔に戻る。それで顔に傷があったりすると布以外で隠す……まぁ、気づかれない」
二人の説明にツキカゲは半分納得、半分微妙のようだったが、うんと納得し頷いた。そうして二人の爪を見た。なるほど、通りで出会った時にはなかったものがあると思ったわけだ。持ち主である湊に出会ったため、爪にその証である色が戻ったのだろう。そして、恐らく同じ武器であるために判別は不可能、だから気づかれない…と。清光は軽く鳴いたがどちらかは不明だ。とりあえず、納得と云う方向にしておく。ツキカゲは礼を云うように軽く頭を下げた。湊が続けて問う。
「だから、此処には未練がないっていうこと?」
「嗚呼。願うことなら、来てくれるなら、アンタが良かった」
「だから!湊ちゃんはまたあたし達を救ってくれたって事なのよ!ありがとう!」
「うわああピィアレナ?!」
「にゃ、なぉおん!?」
ピィアレナが体全体で感謝を表すように湊に抱きついた。彼女の肩に乗っていた清光が文句を言いながらツキカゲの足元に吹き飛ばされた。ピィアレナを受け止め、彼女は清光に「ごめんね?」と謝る。清光はしょうがなさそうに「なぁ」と鳴いた。とりあえず、これで問題はほとんど解決した。分からないのは本当に自称神様に聞かないとわからない。どう聞けば良いのかさえわからないが。
「それじゃあ、主人が「龍華も私の事、そう呼ぶの?湊で良いよ?」…オレは大丈夫。彼と同じように以前のままにさせてもらうよ」
「そう?」
龍華がチラリとツキカゲを見た。清光をちょうど抱き上げたツキカゲと間近で視線が合った。にっこりと笑い合うその光景に湊は少し嬉しくなった。
「マスター、人それぞれなんだから強要は駄目だよ」
「先程、彼は主人の事、湊って呼んでたけど?」
「ホント?!」
「あ、あれは君に説明するためで…!」
湊の嬉しい!と云う感情だけを詰め込んだキラキラとした瞳がツキカゲを見上げる。ツキカゲは「ちょっと!」と龍華を振り返ると湊から離れて戻ってきたピィアレナと一緒に微笑ましそうに笑っていた。大好きで、愛していると言っても過言ではないツキカゲに名前をその声で呼ばれて嬉しくないわけがない。
「(くっそ聞きたかった!)」
ダァン!とコンクリートに拳を叩きつける湊。鈍い音はしなかったがしている気がした。ツキカゲは残念がっているようで嬉しそうな湊の頭を撫でておいた。途端に彼女の頬がまた赤く染まった。湊がふにゃりと笑った。その笑みにピィアレナはニヤニヤと笑い、龍華は小さく笑った。ツキカゲも少し恥ずかしそうにしながら笑った。清光が不満げに短く鳴きながら前足をツキカゲの口元にポフッと当てた。それにピィアレナが「可愛い」と吹き出し、続けて湊も笑い暫く彼らは笑い合った。そうすることで仲間になれた気がした。暫く笑い、再び龍華が問う。先程その問いを遮ってしまった事を思い出し、湊は小さくテヘッと舌を出した。
「じゃあ、此処では何を解決すれば良いんだい?」
「んーそれが分からなくて…多分何かしらのk「みーつけた」?!」
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