第三十ゲーム・龍の瞳
「にゃうん?」
清光の二色の瞳が体の自由を取り戻しつつある少年を見上げている。少年はようやっと動くようになった右腕を動かし、自分の傍らに心配そうに寄り添っていた清光の頭を撫でた。清光は嬉しそうに彼の手に頭を擦りつけ、軽く背を伸ばした。それを見てツキカゲはクスリと微笑ましく笑った。ツキカゲは少年の体についた彼らだけの動きを止める液体をもう少しで拭き終わるところだった。少女、ピィアレナが救急箱と一緒に持ち出して来たタオルを畳み、少年の体に怪我がない事を確認すると、ツキカゲは自分の手当てに移った。助けられた当初も意識はあったが何処か虚ろだった少年の瞳に徐々に光が戻って行く。少年は清光を優しく撫でながら自分の治療に専念しているツキカゲに声をかけた。
「…助けてくれた事には感謝してる。ありがと。でも、アンタは誰だい?」
「嗚呼、自己紹介がまだだったね。僕はツキカゲ。その子は清光。マスターn「違う。オレが聞きたいのはそういうことじゃない」」
ツキカゲを遮り、少年が淡々と告げる。ちょうど自分の治療が終わったツキカゲが少年を振り返ると彼の瞳に潜む龍と再び目が合った。その龍がツキカゲを警戒したように睨んでいるように見える。それは少年が警戒しているからか、それともツキカゲが警戒しているからそう見えるだけか。分からない。全てを見透かされている感覚に気を抜けばすぐにでも陥ってしまいそうにもなる。少年は仕方がないと云うように肩を竦めると不安そうに交互に顔を向けていた清光を抱き上げる。喉元を撫でるとゴロゴロと気持ち良さそうに鳴く。やっぱり猫なのか?
「まぁ良いよ、別に。主人が置いてるってことは信頼してるってことだろうしね」
「…そっか。聞いて良い?主人ってマスター…湊の事?」
「湊、主人の名前だね。嗚呼、オレは彼女を主人と呼んでいる。オレを救ってくれたから」
スッと瞳を伏せ、なにかを思い出す口ぶりで言う少年。その思わせ振りな口調にツキカゲは気にもなり、また彼女がいないところで「湊」と口にするのが恥ずかしく、複雑な感情が彼の中に渦巻いていた。そしてまた、湊の事を知っているところから見るに自分と同じようなイレギュラーだろう。恐らくピィアレナもそうだろうが、あの自称神様の提案では絶対にない。例えそうだったとしたら今此処で連れてくる意味が分からない。
ふと、清光を抱く少年の右腕に目が行った。彼の右腕には巻き付くかのように二匹、いや四匹…数は正確には分からないが龍が描かれている。いや、描かれているのではなく、本当にその肌に食い込み、巻き付いているようにも見える。その龍は少年の顔の右側にも、よく見れば右側の首元にもまるで動いているかのように巻き付いている。一匹の龍の頭が右目を食べようとしているようにも見え、少し不気味だ。もしかして。先程のラボでの湊とピィアレナの会話を思い出してツキカゲは遠慮しながら聞いてみた。
「その龍って、マスター達が云ってた呪いとかって云う?」
「嗚呼、そうさ。オレの体に染み込んだ龍はオレの復讐心が呪いとなったもの。怖がらなくても良い。オレの指示がない限り、勝手には動かないよ」
「なうん!にゃ!」
パッタパッタと尻尾を揺らす清光に少年は儚げに笑ってみせる。清光が安心したように鳴いた。目視できるだけでもすごい量なのに…じゃあ、研究者達が彼をビーカーに入れた事は半分以上、無駄だったわけだ。その事実にツキカゲはクスリと笑い、湊達を呼びに行こうと立ち上がった。少年も立ち上がろうと瓦礫を支えにしようとする。がそれを清光が前足で顔をポフン、と叩いて止める。
「休んでて良いよ。さっきまで動けなかったんだからね」
「……度々、ありがと。あと、初対面だったのに変な事言って悪いね」
少年が少し恥ずかしそうに言った。ツキカゲがえっと彼を振り返ったがなに?と云うように冷静な表情をしていた。多分、最初の事を言っているのだろう。彼なりに気になっていたらしい。ツキカゲはその事に心配ないよと云うように、袖口で口元を隠して笑う。
「大丈夫だよ!」
少年はツキカゲの笑顔に軽く目を見開くと、小さく笑った。その笑みがなんとも年相応で可愛らしい。なるほど、湊が気に入るのもわかる気がする。ツキカゲは清光に「彼の事、お願いね」と少年を預け、湊とピィアレナがいる瓦礫の向こう側へ走って行った。駆けて行くツキカゲの様子を瓦礫に凭れながら少年は眺めると、ネイルが塗られた爪先で清光の黒い毛並みを撫でた。
「……アンタも大変だな」
「?にゃおん?」
少年の言葉に清光は無邪気に鳴いた。
ツキカゲは二人がいるであろう瓦礫の向こう側を覗き込んだ。すると、キャッキャと女子同士で戯れる湊とピィアレナがうつった。湊がツキカゲに気付き、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「あ、ツキカゲ。龍華、大丈夫そう?」
「うん、元気だよ。今、清光と一緒」
「清光って、あの大きくなる猫ちゃん?」
「そうだよピィアレナ!ツキカゲ、二人について話があるの」
湊の真剣な、それでいて何処か嬉しそうな瞳と表情にツキカゲは「分かった」と頷いた。三人で清光と少年の元に向かうと元気そうな姿にピィアレナが嬉しくなり、彼に向かって駆け出してしまった。安心したのか微かに涙も出ている。湊もピィアレナと同じくメインで使っていたのもあり、彼女と同じように好きだったキャラクターでもあるので出会えた事もあり嬉しかったが、今は二人の再会を優先させた。チラリと隣のツキカゲを見上げた。先程のピィアレナとの話でなんだが変に意識してしまう。けれど、いつの間にか彼の袖口を掴んでいた。そんな彼女に気付き、ツキカゲは愛おしそうに微笑み、さりげなく湊の手を取ると彼らの方へ歩いて行った。仄かに湊の頬がピンク色に染まっていたのを知りながら、喜ばしく感じながら。
「龍華、大丈夫?変なところはない?」
「嗚呼、大丈夫だよピィアレナ」
「よかったぁ…あいつらに連れて行かれたって聞いた時はびっくりしたんだからね。あ、あと、湊ちゃんが一緒に行っても良いって言ってくれたわ!」
ピィアレナが少年の手を握り締めながら云う。安心してはいるのだが、まだ体がそれを受け入れてくれない。そのため、手を握った状態だ。そんなピィアレナを安心させるように少年は優しく笑う。清光が「にゃおん」と鳴きながら少年の膝の上から邪魔にならないようにと自ら退き、こちらにやって来た湊の肩に飛び乗った。
「うわっ!っと…清光、危ないでしょ!?」
「なおん」
「なおんじゃない、なおんじゃ…ツキカゲ、彼は龍華。あの子はピィアレナ。私の…私のメイン武器だった擬人化達だよ!」
肩に乗った清光を優しく撫でながら湊が言った。
少年、龍華は赤黒い髪色のセミロングーと言ってもショートで通じる可能性もある中間くらいの長さーで金色の瞳。瞳には龍が刻まれており、金ではなくオレンジの瞳にも見える。服は黒のノースリーブとブレザーが合わさったもので少し着物のようにも見える。左腕には同じく黒のアームウォーマーをし、両の爪に紅色のネイルをしている。ベルトを締め、薄い青のズボン、灰色のピンヒールをはいている。右足の付け根近くに脇差をさすベルトをし、そこに脇差を固定している。そして、彼の見える右側全てに刻まれた、今にも動き出してしまいそうな龍の数々。その龍は脇差にも刻まれており、刃文にもあるようだ。
ピィアレナとはまた違った印象に湊は懐かしいなーと笑っていたが、ツキカゲは湊の手を固く握り締めながらやはり戸惑いを感じていた。湊はそんな事なぞいず知らず、と云った様子で呟いた。
「お帰りなさい」
龍華とピィアレナで対になってします。狙ったわけではないんですよ、気づいたら対になってたんです……あと、龍のやつはちょっとその時、「なにしようかな~」で一番最初に思い付いたのが龍だったんです。だって名前もそうだし。
今日は此処まで!次回は……木曜日ですかね!




