第二十九ゲーム・守と仇
ラボから逃げ出した湊達は少女の案内で安全だと思われる場所にまで移動した。遠くに見える鉄のお城は、誰が言わなくてもラボだと云うのは容易く分かった。そんなラボも視界から見えなくるほど走り、ようやっとその場所に辿り着いた。そこは廃墟となったビルの一階で、二階部分が崩壊しているため、太陽の日差しが温かく迎えてくれる。瓦礫が折り重なった場所に少年を寄りかからせ、小さくなった清光とツキカゲが彼の体についた液体を拭い取りながら怪我の確認をする。その間、彼らから少し離れたまた瓦礫が折り重なった場所で湊は少女に首や他の箇所を手当てしてもらいながら再会を喜びあっていた。
「はい、大丈夫よ桜ちゃん。にしても」
「うん、ありがとうピィアレナ。にしても」
「「久しぶりーー!!!」」
二人はギュッと互いに相手に抱きついた。ラボでも喜びあったはあったが、あんな状況だったため素直に大きく喜べなかった。だが此処では思う存分、喜びあえる。まるで数年ぶりに街で偶然会ったかのように嬉しさが爆発する。ギュギュッ!と互いをもう離さないと言わんばかりに抱きしめ合うと一旦離れ、少女を安心させるためか手を握ったまま湊は問う。
「ピィアレナ、何処まで覚えてるの?あと、さっきの…」
「嗚呼、あれね。あれは龍華が目覚めてから話すわ。うん、あたしも龍華も桜ちゃんの事、覚えてるわ。桜ちゃんがあたし達をメインに使ってくれた事も、やめちゃった事も。ずっと覚えてるわ、画面奥から」
やめちゃった事、で湊はなんだが申し訳なくなり少女から顔を背けた。湊は〈神狩〉をやめている。それはつまり、彼らとの繋がりを切ったと言っても過言ではない。けれど、少女は怒ることもなく、ただただ喜んでくれた。会えて、嬉しいと。それがなんとも不思議で嬉しくて、悲しかった。そんな湊の心情を知っていながら、少女は続ける。
「でも、あたし達にとっては幸せだったから。桜ちゃんがいなくなっちゃったのも、ちゃんと分かってる。自分達なりに生きて来たから、桜ちゃんのせいじゃないわ。幸せをくれた桜ちゃんを恨めるはずがないもん」
「じゃあ、龍華を助け出すために一緒にいたって事…?」
「うん。龍華がラボの人間に捕まった事は知ってたの。なんで捕まったかは言わないけど、助けるために一緒にいただけ……ねぇ桜ちゃん!」
ギュッと湊の手を掴み、話題を変えるように少女が云う。その笑顔が変わらなくて湊は嬉しかった。言わない理由も、なんとなく湊には分かった。
「そっちは?どうしていたの?」
その問いはもっともで、どう説明したら良いのか分からなかった。でもツキカゲと同じように画面の奥から見えていたのならば、きっと、信じてもらえる。ドクドクとうるさい心臓を深呼吸で落ち着かせ、湊は言う。
「…みぃちゃんって云う神様のせいで、私、別のゲ…ツキカゲって子がいるゲームを人質にとられてるんだ。私が四つの異世界を巡ったらデータは消去しないし、元の世界に帰れる…って」
「ツキカゲ…嗚呼!桜ちゃんが大好きって云ってた子ってあの子だったんだ!」
「!ピィアレナ!シーッ!」
お口チャック!と人差し指を口元に当てたところで湊はツキカゲにはもう自分の気持ちなんて知られていると云うことを思い出した。そう思うと頬が燃えるように熱くなった気がした。その気持ちがキャラクターとしてなのか、この異世界に来てからの一人の男性としてなのか、たまに分からなくなる。湊はブンブンと顔を振ってその熱を払うと、少し不安そうな顔を少女に向けた。その意味が分かったのは、信頼だけではないだろう。少女はクスリと笑った。
「あたし達に申し訳ないとか思ってるんでしょ?桜ちゃんの話は信じるから、異世界の住人であるはずのあたし達が記憶を持ってる事はイレギュラーな事なんでしょ?でも、そのお陰で桜ちゃんに会えたんだから、気にしないわ。あたしは、桜ちゃんの願いを叶えたい」
先程からギュッと繋がれた手からその思いが伝わって来て、湊は一瞬泣きそうになった。嗚呼、君はあの時と変わらない。湊はお礼を言うように彼女の手を握った。少女がにっこりと笑う。
「ピィアレナ、ずっとこの異世界にいるんでしょ?どうやって…あ、信じないわけじゃないけど!けど、気になって」
「ふふ、桜ちゃんったら!でも、それは言えてるわね。んー…知ってる、覚えてるのよね。説明難しいけど。前世とかにしておいて今のところはっ♪桜ちゃん、お願いがあるの」
「ん?なぁに?ピィアレナ」
イレギュラーな存在であるため、この異世界との存在とも少し違うのだろう。ツキカゲのように。少女が云うように前世という可能性もあるが、後回しだ。自称神様でさえも知らないであろう少女と少年だ。さすがと云うことにしておく。少女のお願いに湊は首を傾げて聞いた。何処かで分かっている気がしていた。彼女のお願いの件を。
「あたし達を、連れて行ってくれない?」
やっぱり、そう言うと思った。湊はクスリと笑い、嬉しそうに笑った。嗚呼、君達がいてくれたらもっと心強い。
「もちろん!でも、龍華にもちゃんと聞かなきゃね。あと、話の続きも」
「ハハッ、もう、桜ちゃんったら…」
「あ、その桜って黄泉桜の愛称でしょ?本当の私は、現実の私は夜咲 湊って云うの。ツキカゲにも言ったんだけど…」
照れたように湊が言う。その、見えていたようで見えていなかった湊の表情に少女は愛おしそうに微笑んだ。そう、湊は一応としてツキカゲに自分の本名を告げていた。その声で、その姿で名前を呼んで欲しいと云う湊の願望だった。だが、ツキカゲはそれを知っていながら呼ぶことはなかった。それがまた彼らしくて、嬉しかったり惚れ直したりだった。
「分かった。じゃあ、湊様?」
「………むぅ」
「はいはい、湊ちゃん!」
「宜しくね、ピィアレナ!」
新しい友達。湊と少女は嬉しそうに笑いあった。
少女、ピィアレナはホリゾンブルー色の少し短めのポニーテールで軽く編み込みにし同じ色の瞳。少し鋭い瞳の中にはレイピアのような模様が浮かび上がっている。両耳に白のピアスをし、服は絹鼠色のノースリーブの軍服で肩には軽めの装飾。襟はショートポイントカラーのようになっている。両手に指先が出る黒の手袋をし、ホリゾンブルー色のネイルをしている。紺青色のホットパンツで腰からは左足を出すように鋭くカットされたライトブルー色の布が垂れており、後ろはその逆になっている。靴はベージュの厚底のサンダル。腰からは瞳のように、少女のように凛々しいレイピアを下げている。
ピィアレナはギュッともう一度、湊を抱き締め、その瞳を開けた。
「(今度こそ、貴女を守るからね。湊)」
そんな意思を籠めて、彼女を抱き締めた。湊も嬉しそうに抱き締め返した。
こんなお姉さんキャラ作りたかったんですよ。




