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ただいま異世界巡回中!  作者: Riviy
二周目 悪なる正義、正義なる悪
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第二十八ゲーム・脱出劇



ピキ、と音がしたのが合図だった。水鉄砲のように流れ落ちていた液体が勢いを増し、ビーカーを叩き割った。ビーカーを運び出そうとしていた研究者達が我先に逃げ出す。床が焼け焦げたところを見るに当たったら焼け死ぬのは容易く想像出来た。勢いよく滝のように流れ出る液体から逃れるように上手い具合に、落下して来たツキカゲをキャッチした清光は素早く近くのテーブルに飛び乗った。その数秒後に液体が流れ落ち、床が焼け焦げたので間一髪だった。その事実にツキカゲも清光もホッと胸を撫で下ろしていると、後方でも湊と少女が流れ落ちた液体から逃れるようにしてテーブルに飛び乗っていた。何人かの研究者達は我先にそこから逃げ出し、何人かは逃げ遅れて巻き込まれた。巻き込まれた研究者達は肉も骨も焼かれて真っ黒焦げになりながら波に拐われて行った。一瞬、その光景に湊は吐き気がしたが、無理矢理押さえ込んだ。


ビーカーの中の液体が全て殺菌消毒されていたであろう床に撒き散らかされた。そのためビーカーに囚われていた少年がビーカーの底に叩きつけられた。意識はあるのか、びくびくと痙攣している。ツキカゲは湊と少女が飛び出して行くのを片手で制した。少女はツキカゲを訝しげに見つめていた。あの時は湊に会えた喜びで忘れていたようだが、ツキカゲに警戒心を表している。しかしその警戒心は少年を救ってくれたことによって少し解れていた。湊がどう説明しようかと迷っている様子がこんな状況なのに愛おしく思えて、ツキカゲは笑ってしまった。


「大丈夫、僕が連れて来るから」

「ツキカゲ、気をつけてよね!あの液体、擬人化した子達の動きを封じるために作られたようなもんだから!」

「桜ちゃん、よく覚えてたわねー忘れぽくっていっつもあたしか龍華に泣きついてたのに」

「う、うるさいなーもう!良いでしょ今はー!」


クスクスと湊をからかう少女。この重苦しい空気を少しでも軽くしようとしているのはよくわかった。湊がプクゥと頬を膨らませ、次の瞬間には逃げ出した研究者達に鋭い視線を浴びせていた。彼らが次にどのような行動を取るかわからない。ゲームと違う部分があるとしたらきっとそこだ。湊は嬉しかった。彼女が覚えていてくれたから。本当は抱きついてしまいたかった。けれど、今は。殺気を孕んだ瞳が腰を抜かした研究者達を貫く。清光も低い唸り声を周囲に撒き散らす。ツキカゲが液体の残るビーカーの中へ跳躍し、慎重に残った液体に触れないように倒れている少年に近づき、抱き起こした。湊の云う通り、擬人化した彼らの動きを封じていたようで液体に浸っていた箇所全て、動きを止めていた。だが、辛うじて瞳だけは自由に動いていた。少年の二つの瞳にまるで彫ったかのように刻まれた龍がツキカゲを見上げた。ツキカゲは彼を安心させるようににっこりと笑った。彼の思いが少年に通じたのかはわからないが、恐らく通じたのだろう。少年は「わかった」とでも云うように一回ゆっくりと瞳を開閉した。ツキカゲは少年を慎重に抱き上げるとビーカーから降り立った。ビシャン!と液体を踏みつてしまい、大きく跳ねた。ツキカゲ自体には効果がないかもしれないが彼にはあるかもしれない。少年に当たらないようにしながら湊達に視線を向けた。


「マスター!」

「うん、清光、手伝ってもらっても良い?」


湊は清光に彼を手伝うようお願いすると、清光は快く鳴きテーブルから飛び降りた。ツキカゲがありがたくその背に少年を乗せる。少年の無事な姿に少女が安心したように胸を撫で下ろし、慌てたように彼に近寄った。湊も無事という事実に笑みが溢れそうになるのを押さえ、そちらへ行こうとして一人の研究者がマイクを手にしていることに気づいた。やっべ、と湊は思うよりも先に駆け出そうとした。がその足をすぐに止めた。別の研究者が湊に向かって手を振っていたのだ。その意味が湊にはすぐにはわからなかったが、次の瞬間、理解した。マイクを手にした研究者からマイクを奪い取ろうとしたのだ。マイクの奪い合いとなり、そこでちょっと騒動が起こる。嗚呼、まだ此処は腐っていない。湊は我知らず口角を上げて微笑んでいた。湊はテーブルから飛び降りるとツキカゲと頷き合い、開け放たれた扉に向かって全速力で走り出した。


「なにすんじゃこのやろ!」

「そっちだろうがそれは!」


よく分からない言い争いが背後から聞こえて来ていたが、無視だ。

部屋を飛び出た彼らは階段から一階へ降りようとしたが、戦闘が五階にまで展開され始めたらしく廊下にまで喧騒が聞こえてくる。


「ピィアレナ、下の階に降りるとダメ?」

「うん。あたし、龍華を助けるために一緒に来たけど正直、あいつらに()失望してるから一緒にはいたくないわ」


少女の言葉に湊は不思議そうに首を傾げていたが、うんと力強く頷いた。その頷きが少女によって嬉しいものであったことなど、湊は知るよしもない。階段が使えないとなると非常階段等しかない。が湊に至ってはそんな場所、知るはずもない。ゲームではそんなところまで見ないもん。


「じゃあ、どうするの?窓から飛び降りるわけにも行かないでしょ?!」

「もー桜ちゃんったら!忘れたの?ラボには非常脱出エレベーターがあるのよ?」

「嗚呼、だから研究者がその子連れて逃げようとしたわけか」


胸を張って自慢げに云う少女に納得したようにツキカゲが呟く。少女は「そっ!」とニヒヒと悪戯っ子のように笑った。その後、湊の指示によって少女が避難して誰もいなくなった部屋から救急箱を拝借し、その間ツキカゲが階段の死角から下の階の様子を伺った。清光は自分の背中で苦しそうに呻き声をあげている少年が心配になったのか、尻尾で液体を払っていた。ものの数十秒ほどの時間だったが、戻ってきたツキカゲが状況を説明する。


「どっちもどっち。音が大きいから僕達の声が聞こえてるのかすら疑問」

「それならある意味好都合。ピィアレナ!」

「任せなさんな、さーくらちゃん♪」


湊の一言だけで少女は了承し、笑った。その一つの行動だけでどれほど彼女が湊を信頼しているのか理解できた。少女を先頭に湊達は長い廊下を走り始めた。長い長い、まるで迷路のような廊下の奥。行き止まりかと思われたが、その壁には先程の研究者達が逃げるために起動させたままにしておいたのであろうエレベーターの銀色をした扉が顔を出していた。


「あの人達、僕達が使うって思わなかったのかな?いや、逆か…」


ツキカゲの呟きに湊も小さく頷いた。彼らの無用心さを嘲笑えば良いのか、それとも良心に感謝すれば良いのか。今はわかりっこなかった。戦闘音のお陰でエレベーターの音も聞こえないだろう。湊とツキカゲがエレベーターの扉を無理矢理左右に開けると、全員が中に飛び込んだ。扉は勝手に閉まり、そして、一階へと降下を始めた。その後、一階に辿り着いた湊達はぼろぼろとなった今はなきラボを横目に、喧騒を利用して逃走した。そんな彼らの後ろ姿を見ている者がいたことなんて、()()()()


切りが良いので今日は此処までですかね。次回は来週月曜日です!

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