第一ゲーム・平凡な一日
今日は好きなスマホゲームが原作のアンソロジーコミックの発売日である。この日を心待ちにしていた彼女は、スキップをしながら近場の本屋に駆け込んだ。そして、一直線に新刊コーナーへ行くと積み上げられているコミックを奪うようにして取った。表紙には彼女が愛してやまないキャラクターとその仲間達が素晴らしい笑顔を浮かべている。その表紙を見るだけで彼女の気分は一気に上昇する。こんな良い日に教師に注意を受けたが、そんなこと、きれいさっぱり忘れてしまうほどだ。さっそく購入し、コミックを大事に大事に胸に抱き締めながら駆け足で帰路につく。
いつもより早めに家に着いたのは、きっと楽しみで仕方がないからだ。共働きで両親のいない家に「ただいまー」と声をかけながら、靴を脱ぎ散らかして中に入る。と、物凄い勢いで階段を駆け上がり、自分の部屋に駆け込んだ。ドキドキとまるで好きな人と目が合ったかのように鼓動する心臓をなんとか落ち着かせると、ベッドにバックを放り投げ、回転椅子に勢いよく座った。勢い余って椅子がギィと悲鳴をあげていたが。そんなことなどお構い無しに彼女は心待ちにしていたコミックを読むために袋を裂いた。
「あ、読みながらゲームしようっと」
忘れてた忘れてたと言わんばかりに彼女はベッドに放り投げたバックからスマホを取り出すとあるスマホゲームを起動させながら机に向かって歩く。一瞬暗くなった画面に摩訶不思議な絵が現れたかと思うとコミックの表紙にも描かれているキャラクターが画面脇から顔を覗かせていた。いつも見ているのだが、何回見ても可愛すぎて悶えてしまう。彼女は言葉にならない声をあげながら足踏みをする。両親がいたら「うるさい!」と怒鳴られるところだが、いないのでこういう時だけは好都合だ。ドキドキと鼓動を高鳴らせながらコミックを開く。その傍ら、スマホ画面をリズミカルにタタンッと叩く。「出陣開始」と表示された旗状のボタンを押すとゲームがスタートする。数時間前まで二ヶ月に一度のメンテナンスだったため、起動は少し時間がかかる。その間にコミックを読み進める事にしよう。アンソロジーコミックの最初の数ページは絵師さんによるイラスト集だ。このイラスト集の中には彼女が好きな絵師さんも含まれている。じっくりと、まるで舐めるかのようにイラストを堪能し。さあ、いざ!待ち望んだ漫画へ!
と、その前にそろそろログインできたかなとスマホに目を移せば、まだログインできていなかった。
「今回はやけに長いなぁ…」
いつもならこれくらいでログインのに。メンテナンスでなにか新しい機能でもついたのだろう、と自己解釈し、ページを捲った。
「よっしゃぁあ!一発目から嫁!ツイてるツイてるぅー!」
漫画に出てきた好きなキャラクターに彼女のテンションゲージはみるみるうちにあがっていく。その間にもスマホ画面ではログインするための作業が着々と進んでいた。時間はまだまだある。ゆっくりと行こう、と彼女はチラリとスマホ画面を横目に見て漫画に意識を集中させた。
暫くしてアンソロジーを全て読み終わり、満足満足と言った満面の笑みで彼女は背伸びをした。時計を見れば早二時間が経過していた。帰ってからずっと漫画をじっくりと読んでいたので、当たり前と云えば当たり前だ。これだけ時間が経てばさすがにログインしているだろうと思い、スマホに目をやる。画面は真っ暗で放置していたために電源が落ちたらしい。改めて電源を入れると 、やはりログインできているらしく、青と水色を基調とした何処かの部屋が画面に現れた。
「さあて、今日はなにからやろうかな」
大好きなキャラクター達のゲーム内では見ることが出来ないであろう様々な表情を見たためにテンションが上がっており、とてもワクワクしている。彼女はいつもやるようにポチッと画面を押す。その瞬間、スマホがあり得ないほどの光を放った。突然のことに驚愕で放心状態に陥った彼女をなんのそのというように眩い光は包み込んでいく。そして、その光は、一瞬にして姿を消した。光と共に彼女も姿を消した。シーン、と静まり返った机の上には彼女のスマホがぽつん…と置かれていた。真っ黒に染まった画面には赤色でポップな「ゲームオーバー…だよん♪」と云う文字が表示されていた。
どういう事かわからないが、イラッとはした。
とりあえず今日でプロローグを終わらせます!