第二ゲーム・チュートリアル(1)
パンパカパーン!
なんでそんなアホみたいに陽気な音楽がするの?彼女、夜咲 湊はそう思いながら重たい瞳を開けた。確か、ゲームをしようとしていたら突然、光が放たれて…と状況を整理しながら目を開けると湊を、美青年が覗き込んでいた。あまりにも近かったので目をまん丸くする彼女の顔が彼の海のように美しい碧の瞳にうつりこんでいた。ズザザザ、と音をあげながら湊は一気に距離を取る。湊の様子に美青年は可笑しそうに笑った。
「はは、マスターったら本当に面白いね」
柔らかく笑ったその笑みに湊は違和感を覚えた。マスター?何処かでそう呼ばれていたような…嗚呼そうだ、ゲームの中で湊はそう呼ばれていた。愛してやまない推しであり嫁である、相棒の青年に。ん?てことはまさか?湊は半信半疑で美青年を見る。金髪碧眼。うん、湊が好きなキャラクターと一致している。首には月をモチーフとしたチョーカー。うん、これも一致。湊はまさか、と目の前の彼に問う。
「……ツキカゲ?」
「そうだよマスター」
ニッコリと笑いながら青年は湊に近寄る。本物?そう頭が認識するよりも早く湊は青年に勢いよく抱きついていた。勢い余って青年が彼女を抱き止められず、倒れてしまった。
「イタタ、マスター?」
「ホントに本物のツキカゲ?!わぁああああ会いたかったよ!!夢みたい!イケメンって云うよりも美人!直接見た方が何倍も好きになるぅうう!!嗚呼、可愛いしかっこいい!!嬉しすぎる!!」
「なにマスター、いつも会ってたのにそんなに嬉しい?」
「嬉しいに決まってるでしょ!?大好きなツキカゲに会えたんだから!…て、ん?」
ギューと彼を抱き締めていた湊はそのワードに我に返ったようで青年から一旦離れた。そして自分が彼に向けて放った言葉を思い出し、顔を恥ずかしさで真っ赤に染めた。今、自分は何を言った?大好きなツキカゲがいるから興奮して引かれるようなこと言っちゃった?!恥ずかしそうに湊は顔を両手で覆った。顔から炎が出ているのではないかと錯覚してしまいそうなほどに頬が熱い。アナガアッタラハイリタイ。そんな彼女を微笑ましそうに見て、青年はクスクスと笑った。その小さく笑う声がいつも聞いていた声でそれさえも嬉しい。そういえば、これは夢で良いのだろうか。彼に触れた時、とても暖かった。夢にしたってリアル過ぎるし。考えている事が顔に出ていたのか、青年は笑いながら教えてくれた。
「マスターがいつも画面の奥から僕の事、大好きって叫んでたの聞いてたからね。それに此処、夢じゃないよ」
「は…え…ええ…」
まさかの嘘だと叫びたくなるような事実に驚きを隠せない。湊の場合、驚き過ぎて声が出ないが。聞かれてたのもハズイなよく考えると!まぁ良いけど!(やけ)。
「…そうか、これは狂いに狂った私の末路なんだね…近頃の私の妄想恐るべし…」
これは妄想…自分が読んでる某サイト様のような事が起きるわけがない!頭を抱えながら現実逃避に走る湊に青年が慌てることなく言う。まるで「慣れています」と言わんばかりだった。
「妄想でもないよマスター。此処は、現実だよ」
「あり得ないあり得ない…だってあり得ないでしょおー…二次元が三次元化するなんてさー…コスプレとかならあり得るけどぉー本物だし」
「あ、本物ってわかってはくれてるんだ。嬉しいなぁ。でも、此処は正真正銘、マスターがいる三次元の空間だよ」
「いや、私がいる三次元の空間ってのも意味不明だわ!」
バッと顔をあげると再び青年と目が合った。青年は嬉しそうに微笑むと湊が有無云う前に彼女を立たせた。それでもやっぱり納得が行かず、湊はぶつぶつと何かを呟いている。でも…あの光が本物でこれが幻や妄想じゃないとしたら一体?その時、ようやっと周りに目が行った。周りは四方八方、壁や床なんてわからないまでに真っ黒でまるで闇のようだ。まるで自分が闇に飲み込まれたのではないかと云う錯覚に陥り、湊は思わず青年の手を握り締めた。と、二人のすぐ目の前の空間が突然歪み、グルンと不気味な音色を立てながら誰かが現れた。
「みぃちゃんだっよ~ん♪」
「いや誰だよ!?」
突然現れた動物耳のパーカーを着た人物にそうツッコんだ湊は悪くない。突然登場した人物は湊の言葉に面白そうにケラケラ笑った。パーカーで上半身の体型は見えないが、パッと見、少年のような。いやしかし少女かもしれない。ショタなのかロリなのか不明である。その笑みが青年には危険人物としてうつったらしく、湊を背中に庇う。湊はその行動に驚き、軽く狼狽えた。
「だーれって、君を此処に連れてきてあげた神様に決まってるじゃん~?」
「は?嘘でしょ?やっぱ夢やん…」
キャラクター、次は神様と来て、湊の頭はパンク寸前である。だからだろうか、一瞬にして楽観的に考えてしまったのは。ってことは、この人のお陰で大好きなキャラクターに会えたって事?
「…あ、ありがとうございます…?」
「いいのよいいのよ~代わりにデータ消すけどにゃ!」
ん?データを消す?湊の心中に嫌な予感が渦巻く。その答えに辿り着いた脳が、その現実を受け入れまいとし、サァと顔を青白くさせる。それを見て自称神様、みぃちゃんは口元を両手で可愛らしく押さえた。とても可愛らしい仕草なのにこの状況なためか、「可愛い」と声を大にして言えない。それは青年も同じだった。青年は何か知っているのか、みぃちゃんを刃物のような視線で睨み付けている。
「…消すって、なんの?」
湊がそう聞くとみぃちゃんは見える口元を大きく歪ませて言った。
「君の、大切な子供達」
いきなり好きなキャラクターにリアルで会ったら、ウチなら多分こんな反応だと思うのです……




