第七十二話「炎熱」
夜。
ここは、荒野における唯一の安全地帯。
格子状の木の柵とアカシアのバリケードに囲まれた畳1畳ほどの小さなマイホームである。
パチパチ パチパチ
火床から上がる炎が、夜の帳を赤く照らす。
「今日は収穫の多い一日だったな。」
うんこ。
アンキロサウルス。
うんこ。
次いで、可食可能な果実の発見と、この肌を包む白い布・・・。
燃え上がる炎を見つめながら、雨合羽のように着込んだ白い布を強く握りしめる。
ああ、この白い布がマジックアイテムだと気付いたあの時から、僕の胸のドキドキが止まらない。
この白い布は、汚れた部分を水で揉み洗いした後に水気を含んだ布をパンパンと振れば、汚れが霧状となって吹き飛ぶマジックアイテムなのだ。
能力としては、かつてアニメやマンガの世界で見たマジックアイテムよりも遥かにショボい。
だが、この“マジックアイテムが実在すると言う事実”が、僕の心に一つの疑問を反芻させる。
“この世界には、魔法が存在するのではないのだろうか。”
転生初日に登った大樹の頂。
そこから見た木の巨人の姿が、心の中に鮮やかに蘇る。
木の巨人と言えば、剣と魔法の世界における定番の種族の一つ。
あの木の巨人は、生物学的な進化の結果に生まれた生物なのだろうか。
それとも、神秘が生み出した魔法の生命体なのだろうか。
この世界における魔法の存在は、未だ不確定。
だが、未だ不確定な魔法の存在に、胸が熱い。
パチパチ パチパチ
焚火の炎が、炭化した薪の樹皮を高く舞い上げる。
もしかしたら、僕が気が付いていないだけで、僕は魔法を使えるのではないだろうか。
「こういうのは、とうの昔に卒業したと思ってたんだけどな。」
沸き立つ心が、止まらない。
足を肩幅に広げて焚火の前に立ち、ゆっくりと深呼吸をする。
イメージするのは、燃え盛る炎。
焚火に向かって両手をかざし、手の平にゆっくりと意識を集中させてゆく。
手の平が熱い。
この手の平に感じる熱は、果たして焚火の発する炎熱だけなのだろうか。
否、それは断じて違う。
そして、僕は呪文を唱えた。
「ファイア!メラ!!ヨガファイアー!!!」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
うん、何も起きない。
寝よ。




