序章
夕日が沈む、逢魔が刻。黄昏色に染まり、徐々に群青に塗り潰されていく世界の中で、ふわりと翻る、清らかな白と、黒い衣。
遠くにその配色を捉えて、少年は立ち止まった。
少年は街へ下りて山査子飴を買ってきたところだった。母にどうしてもと懇願されたのだ。
今時は寒さと暑さの差が激しい。合間の曖昧な気温と天候に母はやられ、風邪を引いて臥せっていた。
しかし今日は年に一度の夏祭り。毎年の恒例行事ではあるものの、山査子飴の屋台はそういう祭り時にしか出ない。それを楽しみにしていたというのに、敢えなく風邪を引いたのだから、母も運が悪かった。
握りしめすぎて熱くなった銅貨を屋台の店主に渡し、「おまけだよ」と言われて、もう一本貰えた。これは母にも喜んで貰えるだろうと一人にんまり笑っていたところである。
ざぁっ……と風が吹く度に、ひらひらと翻り、交じり合い、また離れてはくるりと片方を追う。まるで何かの演舞かのように袖は躍り、たまにそれに二人の男の美しく長い髪が混じる。
少年は呆気に取られたように、もしくは何かに魅入られるようにそれを見ていた。
二人は驚くほど背が高い。比較的高身長で、年の割には大きいと言われる少年だが、やはり子供の大きさと大人の大きさは違う。さすがの少年にとっても、その一組はさらに大きくて、しかし儚げで、すぐに消えそうなほどであった。
御伽噺で語られる神仙とはこうあるのではないかと言うほど、彼らは夕日の後光を受けて神々しく輝いている。
あまりの美しさに見惚れて食い入るように見つめていると、黒い衣の男の方が、さっとこちらを見た。
目が合った。そう感じた。
視線と視線とが交わり、そして離れる。
逆光で僅かにしか見えなかったが、その男の瞳は、西国人のような青玉だった。昔、父と母に連れられて兄と二人で見た、夜明けに程近い朝焼け色の海にそっくりの瞳だった。
はっとして我に返ると、黒衣の男が口角を僅かに上げ、瞳を弧の形に曲げたかと思えば、その二人は顔を近付けて何かした後、ふっ、と不意に姿を消し、少年は呆然とした。
(……夢?)
狐に化かされたか。一瞬そう思ったものの、好奇心には勝てず、慌てて2人がいたところに駆けてみると、そこには確かに人がいたのだと証明するように、そこだけ草が潰れていた。
しかし、二人はどこにもいなかった。
「生身の人間が、ここから動かずに急に消えた……?」
もしかしたら本当に、神仙か何かだったのかもしれぬと少年は思い立ち、その想像の衝撃の強さに幾分か呆然とした。
……まさか自分が、神仙と相見えるなんて。
衝撃から我に返った少年は、「そんな訳がない」と自分の心を宥めて、帰路に立つ。
これが成長するごとに忘れる記憶の中でも、鮮やかに心に刻まれている、美しい情景の記憶。
後に彼らの関係が「道侶」というものである、ということに気付くことになったが、それはまた別の話。
*道侶:同じ道を志して共に修行に励む仲間や同行者、という意味が本来の意味ですが、最近は伴侶や恋人という意味で使われがちです。私もそうです。
おひさしぶりです。お元気でしょうか。他のシリーズほっぽりだして新しいものを書いている作者です。続くかはわかんないんですけど、一旦投稿していきますね。私の好きな設定を詰め込んだ中華BLです。お暇な時にでもお読みください!




