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繋がりの証

途端に、首筋の刻印がある箇所が激しく熱を帯びだした。


「い……ッ!ぁ、ぁああああ!!」


内側からじわじわと焼かれるような痛みに、思わず悲鳴が漏れる。


「レイン!?」


珍しくクローディアスが俺を呼び捨てにする。

けれど、その声に返事をする余裕すらなかった。


視界が滲む。

立っていることすらできない。


耐えきれず、その場に崩れ落ちかけた瞬間。

ふわりと、誰かの腕が身体を支えた。


俺を抱き留めていたのは、目の前の女だった。


「やっぱり。この人で合ってた」


耳元で、静かな声で呟かれる。


その声音はどこか優しかった。

愛おしむような、熱を滲ませた響き。


まるで、ようやく大切な恋人を見つけ出したかのように。

あるいは、失っていた半身を取り戻したかのように。


そんな錯覚を抱かせるほど、甘く穏やかな声だった。


「レインから、離れろぉ……!!」


俺から女を引き剝がそうと、クローディアスが振り向きながら剣を振る。

そんな彼を視線だけで捉えて、女は短く、呟いた。


「邪魔。眠ってて」


その呟きに呼応するように、ドクンと刻印が反応した。

すると、俺を中心に、黒に近い紫が静かに滲み出していく。


円を描くように浸食していくそれは、ゆるやかに形を結び、やがて無数の花の姿を取った。

閉じていた花弁が、ゆっくりとほどけ、ひとつ、またひとつと咲きながら、その範囲を押し広げていく。


黒い花は、隙間を埋めるように連なり、途切れることなく広がり、俺と目の前の女、そしてクローディアスの足元まで足元を塗り替えた。


綺麗なのに、不穏。

幻想的なのに、どこか不気味だった。


「あなたは私のもの。私だけのもの。その首の刻印がその証。私とあなたを繋ぐ、契約の証。もう、離さない。絶対に離してあげない」


痛みで視界が揺れる中、囁くような声が耳をくすぐった。

思考が定まらず、何を言っているのか分からない。


理解出来ないまま、言葉が耳の奥を通り抜けてしまう。


「っ、レイン様から……、離れろ……」


低く押し殺した声とともに、クローディアスが踏み込む。

乱暴に踏まれたクロユリが、ふわりと花弁を散らして宙を舞う。


散ったはずの花弁は落ちきることなく、空中にとどまるように漂っている。


空間が塗り替えられたと同時に、クローディアスはこれまでの反応が鈍い感覚とは別の、自分の身体の異常を感じていた。


視界が揺れ、焦点が定まらない。

女の姿を捉えているはずなのに、その輪郭がどこか曖昧になる。

まるで酷い眠気に襲われているように。


それでも構わず、主人を取り返そうと手を伸ばす。


「レイン……様……」


弱々しく声を絞り出す。


もう少しで指先が届きそうだという距離に差し掛かり、やがてその場に倒れ込んだ。

ただ静かな廊下に、カラリと剣が転がる音を響かせて。





「あー……思ったより派手にやってるねぇ」


間延びした男の声が響く。

いつの間に現れたのか、緊張感のない様子で長身の男が周囲を見回していた。


その隣には10歳ほどの幼い少女が静かに佇んでいる。


「もう少し静かに、迅速に済ませるものかと思っておりましたが、思ったよりも手間取ってましたね」

「……邪魔が入ったから」


僅かに不機嫌さを滲ませながら、白髪の女が短く返す。


「まぁまぁまぁ~。目的は達成したんだし、結果オーライってことでいいんじゃなぁい?」

「それもそうですね」


男と少女が軽く言葉を交わす。


「それで?こっちはどうする?このまま放置する?」


男がクローディアスの前にしゃがみ込み、無遠慮にツンツンと人差し指でつつく。

だが、深い眠りに落ちているクローディアスが反応することはない


「このまま放置して目を覚ました時に騒がれ彼を探されても面倒です。彼女は顔も見られているのだし」

「ここで消すのはダメなの?」


――消す?

――誰を?


ぼやけた思考の中で、その言葉だけが妙に引っかかる。


いつの間にか、首に走っていた焼けるような熱は引いていた。

だがその代わりに全身に重い倦怠感がまとわりついている。


意識が沈み掛けていた。


それでも、その言葉だけは聞き逃せなかった。


「やめ……、ろ……」


掠れた声で懇願する。

やめてくれ。

クロを殺さないでくれ。


そんな俺を見て、幼い少女は肩を竦めた。


「安心してください。あなたがそこまで執着する相手であれば、無闇に手に掛けることはいたしません」

「そんなことして暴走されたら困るもんねぇ」


男が気楽に付け加える。


どうやらクローディアスを殺すつもりはないらしい。

その言葉に、胸の奥の緊張がわずかにほどける。


それならば、と安堵する。


「よかっ、た……」


小さく呟いたその言葉を最後に、

意識を手放した。

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