不穏な気配
その頃。
遠く別の場所にて、薄暗い室内に5つの気配があった。
円卓を囲むように座っているものの、誰ひとりとして同じ姿勢をしていない。
深く腰掛けている者。
背もたれに、だらしなくもたれかかっている者。
頬杖をついて退屈そうにしている者。
腕を組んだまま微動だにしない者。
肘をついて手を組んでいる者。
誰もが黒いローブを身に纏い、口元以外の表情が見えない。
「――で?」
沈黙を破ったのは、気の抜けたような声だった。
腕を組んでいた少年が、退屈そうに指先で卓を叩く。
こつ、こつ、と規則的な音だけが薄暗い室内に響く。
「例の件についてはどうなってるのさー?」
「まだ確認中だ」
間を置かず、別の声が応じる。
抑揚のない、淡々とした声音だった。
「反応は弱いが繋がり自体は確かに確認してる。今のところ、覚醒までは至っていないようだが」
「へぇ?」
先ほどの少年が、わずかに口角を上げた。
「じゃあ、ようやく“当たり”ってわけかぁ。それなら他のヤツらはどうする?もう処分しちゃっても良いと思うんだけどさ?」
「まだ様子見だ」
「様子見、……ね」
すぐさま、背もたれにもたれかかっていた男が口を開く。
低く、どこか棘を含んだ物言いで呟く。
「好き勝手にさせておいて、面倒なことになったらどうするつもりなんだ。あ?だったらこっちでとっとと回収して他は潰しちまった方がいいんじゃねぇか?」
「……」
「おいおいだんまりかよ」
「現時点で判断はできない」
「はっ!噓だろおい。あれを野放しにしておくとか正気じゃねぇ」
粗雑な物言いをしながら、鼻で笑う。
「用は済んだ。だったら即処分する。それでいいだろ?だったらあーだこーだと難しいこと考えないで、邪魔になるなら潰せばいいだけだ」
「相変わらず短絡的ー」
呆れたように差し込まれた少女の声。
「まだ詳しいことも分からないまま手を出せば、どうなるかくらい想像できるっしょー?もしかしてその頭の中スッカスカなのー?」
きゃははは、っと高めの笑い声が響き渡る。
張り詰めた雰囲気には不釣り合いな声に、男がちっと舌打ちをする。
「万が一にも、計画が失敗したら、これまでの労力が水の泡だ」
また別の男が口を開いた。
「でもさ、このまま放置して最悪の事態を起こされるのも厄介じゃない?」
「……どっちに転んでも面倒ってわけか」
それまで黙っていた、椅子に深く腰掛けていただけのの男がぼそりと呟いた。
低く落ち着いた声。
「で?結局どうすんのさ」
わずかな沈黙の後、全員の視線が、自然と肘をついて手を組んでいた男へと集まった。
「暫くは様子見に徹する」
淡々とした声が、結論を落とした。
「チッ……、つまんねぇな」
粗暴そうな男が再度舌打ちした。
「当然の決定だ」
棘のある声が、わずかに笑みを含ませた。
「……好きに動くなよ」
低く、釘を刺すような声が落ちる。
全員に言っているようで、その視線は粗雑な男ひとりに向けられていた。
「分かってるって」
返ってきたのは軽い返事。
男は椅子の背に深くもたれたまま、気だるげに手をひらひらと振る。
ほどなくして。
人気のない通路に、靴音だけが響いていた。
「はぁ……」
気の抜けたため息。
粗暴な雰囲気の男が、気だるげに頭をかく。
「大人しく、ねぇ……」
誰に聞かせるでもなく、ぼやく。
その足を止め、トンっと石造りの壁に背を付いた。
「……少しくらい、暇つぶししてもバチは当たんねぇよなぁ?」
まるで悪さを思い付いたように、口端が歪に吊り上げられる。
低く漏れたその声には、罪悪感の欠片も感じられなかった。




