死神との決闘
さて、俺は住吉と今後も付き合うに当たり確かめておかなくてはならないことがある。それは死神の関与だ。もしも、住吉の告白が死神の手筈ならちょっと死神のやつを懲らしめなくてはならない。俺を絶望させる為に女の子を使ったのなら、それはルール違反だからだ。
死神は俺の命を仲間内で賭けの対象にしているらしい。だから何とかして俺を殺したいのだ。ただ、死神ってやつはイメージとして大鎌なんぞ抱えているからあの鎌で人の命をザックリするように思っている人が多いみたいだが、あれはただのイメージ戦略で死神自体が人間の命を消すことは出来ない。それはもっと上位に位置する神々の仕事だ。
もしも死神が直接人間の命を奪ったことが上にバレればそいつはお終いである。そして上位神は神さまだから当然その事を知ない訳はないのだ。だからやつらは俺以外の人間を唆して俺を追い詰める。
ただここでも直接そいつらを操ってグサリとやるのはまずいらしい。そこで、ねちねちと精神的な攻撃を仕掛けてくる訳だ。そして俺が自分で命を絶つように仕向ける。さすがは死神だ。中学生のいじめっ子と同レベルだぜ。
さて、死神と対峙するといっても普通の人間はやつらの存在自体を感知できない。でも俺はじじいからこれでもかって程のチート能力を貰っているからな。こっちの世界では必要なかったから使っていなかったけど能力は備わっているはずだ。俺はものは試しと攻撃系のチートを発動してみる。
「攻撃系チート!全部氷結っ!」
これは対象を氷付けにしてしまうチートだ。主に夏場に冷蔵庫代わりに使っていた。大変便利なチートである。まぁ、向こうには魔法があったから冷蔵庫はあまり要らなかったけどね。
しかし、何故かチートが発動しない。
「くっ、やっぱり異世界じゃないと駄目なのか?」
俺は今度は探査系を試す。
「探査系チート!隠れてないで出てきやがれっ!」
すると今度は発動した。俺を中心に探査波が広がってゆく。そして見事目的のものが見つかる。勿論、死神のやろうだ。何とやつはこの学校の上にいやがった。一旦位置さえ把握すれば、今の俺には死神を知覚することができる。姿は見えないが見失うことはない。
死神は俺に発見された事に余程驚いたのかそそくさと逃げ出す。そしてある地点で消えてしまった。多分、天界空間へ遷移したのだろう。だが残念だな、その技は異世界の魔王も使っていて俺は経験済みなんだよ!
「追跡系チート!どこまでも付いていきます!」
俺はやつを追って異空間へ飛んだ。そこは暖かな日差しに照らされた天国でもなく、かと言って暗く禿山と亡者がいる地獄でもなかった。明るさこそあったが本当に何も無い世界である。そんながらんとした空間に死神だけがぽつんといた。
「何だ、待っていてくれたのかい?そりゃどうも。で、どうするね。話し合うか?それとも殺り合うかい?ここでならお前も気兼ねなく俺を殺れるだろう?何たって今の俺は天界への不法侵入者だからな。」
死神は俺の言葉に態度で返事を返す。何と仲間を呼びやがったよ。それも11人も!いやはや本当に抜かりがないな。というか面子とかいう概念がないのか?もしかして分身しただけなんだろうか?
「まぁ、お前らも役目だろうから俺に茶々を入れるのにとやかく言うつもりはないけどさ。俺の周りのやつらを巻き込むのは良くないよ。そこんとこさえ自重してくれれば丸く収めてもいいんだけど。」
やつらは人間風情にこんな事を言われたのは初めてなんだろう。思いっきり頭に血が上ったらしい。大鎌を振って俺を取り囲んだ。でも死神って見た目はただの骸骨なんだけど、どこに血管があるんだ?
「そうか・・、ならやるかっ!」
俺は右腕に聖剣エックスリカバリーを発生させ一振りする。こいつも久しぶりに俺に呼ばれたので嬉しいのだろう。ぶーんという音を発しながら真っ赤に輝き始めた。
「うーんっ、学生服とこいつではビジュアル的に違和感があるな。よしっ、久しぶりにフル装備といくかっ!チェンジ・エキュイプ・フルアーマー!」
俺の呪文により学生服や下着が消え、代わりに異世界で使っていたフルプレートアーマーが装着されてゆく。うん、アニメだったら絶対見たくないシーンだな。そういや聖闘士○○は男たちだったけどどうやって着替えていたっけ?
「ほい、待たせてすまんね。まっ、着替え中に攻撃してこなかったのはお約束とはいえ感心なやつだ。ご褒美に初手は譲ってやるっ!かかってきなっ!」
俺の挑発に死神たちは一斉に大鎌を振り上げ突進してくる。おいおい、12人全員かよっ!もしかしてお前ら必死なの?同士討ちになっても知らんぞ?
死神は一糸乱れぬ動きで中心にいる俺目掛けて大鎌を振り下げてきた。でもあまりにも動きがシンクロしていたから俺の頭上で12本の大鎌が絡まり、自分たちのチカラに押し戻されて吹き飛んだ。当然俺には刃先すら触れていない。
「おいっ、もしかしてお前らボケ担当なのか?動きは大したものだったが一回も合わせて練習していないだろう?いきなり実戦で試すからそうゆう目にあうんだ。次はこちらからいくぜっ!」
俺は体制を立て直し損ねている1体の死神に向けて跳躍する。俺に狙われた死神は大鎌を盾に俺の斬撃を防ごうとしたが、残念っ!俺は正義の味方じゃないから正面からぶつかったりしないのさ!
俺は正面から斬りかかると見せかけ、実際は後ろに回り込み死神を一刀両断にする。哀れ、エックスリカバリーの斬撃に骨をばらばらにされた死神は、吹き飛んだパーツを回収すると消えていった。
「ほい、残りは11体。エックスリカバリーで斬れるのが判ったから、ここからはサクサクいくぜっ!」
しかし、そこで俺の動作が止まる。1体始末したから残りは11体のはずなんだけど、何故か死神の数が減っていない。
「ほうっ、もしかしてこのフィールドには12体しか入れないとかいうシバリでもあるのかい?参ったなぁ、予備兵力は後どのくらいあるんだよ。もしかしてさっきのやつも接着剤で骨をくっ付けたら出直してくるんじゃないだろうな?」
俺は軽口を叩くも内心では困った事になったとグチる。体力的にはチート能力によって万回戦ってもへっちゃらなんだが、時間的にそんなに遊んでいられない。いっその事もう一体倒してそいつの後を追跡して大元を叩くか?
しかし、そんな俺の考えを察したのか死神たちは俺の周りをぐるぐる回るだけで仕掛けてこようとはしなくなった。
「ふんっ、時間稼ぎかい?だけどお前らこっちの現実世界の戦法に慣れすぎだよ。チートってのはそんなんじゃ破れないんだぜっ!」
俺はエックスリカバリーを大上段に構えると死神たち目掛けて大振りする。すると俺の意思を汲んだエックスリカバリーは大きく伸びてやつらをなぎ払った。哀れ、胴体を上下に切断された死神たちは余韻も残さず消えてゆく。いや、1体だけは体を屈めて回避しやがった。これは失敗だ。判ってやった回避行動ではないだろうけど油断大敵である。
俺は残った1体目掛けて突進し逆袈裟にエックスリカバリーを振り上げる。しかし、その軌道上に別の死神の大鎌が邪魔してきた。見事俺のエックスリカバリーを受けきった相手を見ると今までの死神とは様子が違う。いや、見た目は同じなんだけど雰囲気が違うのだ。
「おっと、今の斬撃を受けきるとはもしかしてラスボスのお出ましか?」
俺はそいつの大鎌と鍔迫り合いをしなから少し茶化す。
「ほざけ、人間風情が我らに勝てると思うなよ。」
おっとびっくり、喋ったよこのラスボス。さすが上位となると違うねぇ。
「俺をただの人間と思ったら火傷をするぜ!いや、お前ら体がないから火傷はしないか?」
ラスボスは俺の挑発にいたくご立腹されたようだ。成程、骨だけって事に少しコンプレックスがあるのかも知れないな。いや、すまん。相手の不遇を指摘するのはゲスのやることだった。謝るから手打ちにしないか?
しかし、相手にその気はないようだった。ぶんっと大鎌を振るうと俺をエックスリカバリーごと吹き飛ばす。そして体勢を崩した俺の胴体目掛けて斬撃を送ってきた。だが俺のフルプレートアーマーはそれを何とか凌ぐ。うん、外装の第一防御装甲はバッサリやられたけど第二防御装甲が耐え切った。えらいぞ、フルプレートアーマー!さすがはチート装備だっ!
「ヒューっ!これはびっくりだ。やるじゃないか、あんた。でも今の一撃で倒せなかったのが運の付きだな。次からは触れさせもしないぜっ!」
そう言って俺は目にも止まらない速さでエックスリカバリーの斬撃を繰り出す。スピードを優先させたので一撃自体は軽いものだが、それでも少しずつやつの大鎌や骨を削り取ってゆく。やつは防戦一方だ。大体そんな大鎌じゃ大振りな攻撃しかできないはずだ。見た目を優先してそんな得物を選んだ自分の浅はかさを呪うんだなっ!




