中学生の清い交際事情
「上条君、あなた千里から告られたんですって?」
次の日、別のクラスの一条 亜里沙が俺に話しかけてきた。亜里沙は俺と小学校が同じでクラスも同じだったが、中学に入ってからは一緒のクラスになったことは無い。というか亜里沙って住吉と同じクラスだったのか・・。
「何だよ、なんでお前が知っているんだ?」
いや、あれだけ派手にやったら大抵のやつは知っているよな。何たってあの告白の後、図書室では拍手まで起こったからな。
「で、付き合うの?」
亜里沙は俺の質問を無視して先に進む。
「まぁ、友達としてね。いくら俺でも今まで喋ったこともない子といきなりは付き合えないよ。」
「ふう~ん、今の言葉、私から千里に伝えてもいいかしら?」
「えっ、ああっ、そうだな。お願いできれば嬉しいかな。取り敢えずメアドは交換したんだけど、メール来ないんだよね。ちょっと冷められたかもと思っていたとこなんだ。」
そう、あの後、俺は取り敢えず友達として付き合おうと言い、メール交換をしてその場を後にした。俺としては誠意ある対応をしたつもりだったんだが、後から考えたらちょっとあやふやな言い方だったかなと思い悩んだんだ。
「あなた、ちゃんと返事をしないからよ。千里は返事も貰っていない時分からメールを送りつけるような子じゃないわ。」
亜里沙が至極真っ当な言葉で俺を諭す。いや、だから俺も初めてだからさ。そんなに責めるなよ。
「あっ、・・そうだね。いや、俺もこんな事は初めてでさ。少し舞い上がっているのかも知れない。まぁ、亜里沙にとっちゃ、こんな事は日常茶飯事なんだろうけど。」
俺は言葉にちょっと嫌味を混ぜる。まぁ、嫌味ではあるが嘘ではない。亜里沙はこの学校で多分一番の美人だから、玉砕覚悟で告る男子が後を絶たないのはみんなが知っていることだ。
「断り方をレクチャーしてあげましょうか?」
「いや、だから断っていねぇって!嫌味を嫌味で返すなっ!」
「冗談よ、それじゃ千里には私から伝えておくわ。精々がんばってね、童貞くん。」
童貞じゃねぇーっ!
俺は心の中で叫ぶ。いや、こっちの世界ではまだ経験がないけど、異世界では俺ってモテモテだったんだぞっ!くそっ、何で住吉の件で亜里沙が出張って来るんだよ。そりゃ、前の時は冗談半分で俺もあいつに告ったけどさ、今回は茶々入れてないぞ?
そしてその日から俺のスマホは吉住からのメール攻勢にあう。初めは俺も律儀に返信していたんだが、さすがに1日20通は無理だ。まぁ、住吉とはクラスが違うから学校でもあまり会う機会がないので、これは致し方のないことなのかも知れない。でも如何に初恋の初期ブーストが掛かっているとはいえ1日20通は多いよな?えっ、このくらい普通なの?マジかよっ!
俺は緊急以外では1日3通までと住吉に提案し、その代わり時間を決めて日替わりで電話をする事にした。何と言っても俺って中身は自称人生経験年齢40歳のおっさんだから中学生のノリにはついていけないのだ。電話ならその場のノリで幾らでも話が続くんだけどさ。そう、人には得て不得手があるのだ。
さて1日3通の貴重なメール機会を住吉はまず朝の学校で使ってしまう。それも俺が校門を通ったあたりでだ。やつはどこで見ているんだ?教室からでは校門は見えないはずなんだが・・。
-お早うございます、上条くん。今日もいい天気ですね!私のクラスは1時限目から暗黒の数学です!でもがんばって耐えて見せます。だって2時限目は歴史ですから!今は丁度上条くんが好きだと言っていた古代ギリシアです!私もがんばって好きになります!でも何でアテナやスパルタという国名があるのに全体ではギリシアなんでしょう?地名や国名って時代によって変わっちゃうから覚えるのが大変です!ではまたメールします!お互い勉強をがんばりましょう!-
うん、今日はちょっと短めだな。まぁ、お互いまだそれ程プライベートな事を話していないしな。天気と授業の話くらいしか話題として持ち出せないからこれくらいで済んでいるんだが・・。
次のメールは昼休みだ。昼休みなら時間が長いから会おうと思えば会えるんだけど、俺は前の時と違って机で寝ていることがなくなった。結構、あれやかれやで忙しいのだ。だから住吉にも中々会ってやれない。だからと言う訳ではないが放課後は毎日会うようにしている。昼休みに住吉から来るメールへの俺からの返事は、大抵は放課後の落ち合い場所と時間の事務連絡と化している。これへの返事は回数制限に入れない事にしてあるので住吉からは速攻で返事が来る。俺はそれを確認するだけだ。
そして放課後、俺と住吉は1時間ほど会ってお喋りをする。まぁ、話と言っても大した内容ではない。殆ど住吉が喋って俺が相槌を入れる感じだ。その後、俺は途中まで住吉を送る。住吉の家と俺の家は逆方向なのでちょっと遠回りになるが、川のところまでなら裏道をぐるっと回ればそれ程でもない。川を渡っちゃうと俺の家へ帰る方向に橋が架かっていないのでここがぎりぎりターンポイントなのだ。
住吉は川沿いに自転車で走り去る俺を、何時も見えなくなるまで橋で見送ってくれる。いやはや、何ともいじらしい子だよ。いい子だね。うん、前の時の俺だったら勿体無いくらいの子だ。いや、今回だってまだどうだか判んないけどな。人生ってやつは学生を卒業してからが勝負だし。俺は死神に狙われているから人生の勝ち組になれる可能性は薄いらしいしな。参ったなぁ、確かにおみくじはいつも大凶だったよ。手抜かりないな、死神って。
そして家に着いたころを見計らって最後の確認メールが住吉から届く。俺は今日の電話時間を再度確認するくらいだけど、住吉は俺と別れた後の事を色々書いてくる。うんっ、あんまり張り切るとネタがなくなるんじゃないのか?
その後、指定していた時間に電話を掛け30分ほどお喋りだ。この時間制限は住吉の方から言い出してきた。何でもお袋さんに釘を刺されているらしい。しかし、こんな純情丸出しの交際ってのがこんなに楽しいもんだとは思わなかったな。前の俺だったらどうやって彼女に一回お願いするかでもんもんとしていただろうけど。いやはや、異世界で経験しておいて本当に良かったよ。うんっ、大人の対応が出来るもんね。
そんなやり取りを2週間ほど続けただろうか、クラスの女の子が俺に話し掛けてきた。
「上条君、ちょっといい?」
「あんっ、武田か。なに?」
「ちょっとあなたたち、どうなっているの?何か休み時間毎に千里からあなたの状況を確認するメールが届いて、ちょっとうんざりなんだけど。」
あらら、住吉は俺にメールを送った後、どうやら武田たちに俺がメールを読んでいるか確認していたらしい。それ以外にも休み時間ごとに確認のメールが来ているらしく、初めこそきゃっきゃと一緒に浮かれていた武田たちもさすがに呆れたのだろう。まぁ、人の恋路に首を突っ込んだ報いだ、諦めろ。
「そんなに頻繁に来るのか?俺は1日3通までって言ってあるからな。お前たちもそう言ったら?」
「うわっ、サイテー。何よ3通って!」
「いや、お前たちも多過ぎて嫌になったんだろう?長く交際を続けるには、ほどほどにしておくのが秘訣だと思うんだが?」
「私たちとあなたじゃ立ち位置が全然違うでしょうっ!もうっ、いいわ!千里が可愛そうになってきたっ!」
武田はひとりで結論を出し離れてゆく。成程、俺が悪者になる事によって住吉はグループ内で庇護すべき立場になったか。まっ、これは結果オーライだな。
「あなたたち、結構続いているみたいね。」
武田がいなくなってから暫くして亜里沙が俺に話しかけてきた。こいつとはクラスが違うのだが、やつも俺も学級委員なんぞをしているから結構会うことが多いのだ。ただ今までは話すこともなかったんだがな。やっぱり共通の知り合いがいると話しかけやすいのか。
「ほっとけ!人の恋路に首を突っ込むと碌な事がないぞ。」
「まっ、そうなんだけどね。」
「ところで今日はなんだ?わざわざ来るような用事ってあったか?」
「別に。ただ綾乃が千里にあなたの事をめちゃくちゃに言っていたから様子を見に来ただけよ。」
何だ、武田は住吉のところに俺の事を言いに行ったのか。あいつもお節介焼きだな。
「それはわざわざどうも。まぁ、メールの件は俺からも言っておくよ。武田たちの事はそっちでうまくやってくれ。俺が入ると益々ヒートアップしそうだからな。」
「はぁ~、あなたって変に大人びているわよね。まぁいいわ。下手にバカップルになられてもうんざりだし私が調停してあげるわ。」
「それりゃどうも。同小のよしみだ、よろしく頼むよ。」
俺は軽い感じで亜里沙に返事を返す。いつもならここいら辺で亜里沙は帰るのだが何故か今回はグズグズしている。
「なに?げっ、もしかして対価を要求するつもりなのか!」
「馬鹿・・、そんな訳ないでしょう。ただメールで思い出したんだけど、あなたまだ彼と手紙のやり取りをしているの?」
亜里沙が突然話を変えてきた。俺は少し考えて亜里沙の言っていることを思い出す。
「あん?手紙?・・ああっ、夜雲のことか?いや、さすがに手紙は書かなくなったな。今はもっぱらメールだよ。なに?あっ、もしかして夜雲にチクるつもりか!お前それは人としてどうかと思うぞっ!やつにはまだ話していないんだから絶対言うなよ!」
「言うわけないじゃん。だって私、夜雲君のアドレス知らないもん。」
「えっ、そうなの?なんだ、脅かすなよ。」
そうだよな、夜雲は2ケ月くらいしかあのクラスにいなかったからな。俺以外では連絡を取り合っているやつはいないはずだ。
「でも、住所は知っているから手紙は書けるわね。」
「ぐわっ、何たる失態だ!このデジタル時代にアナログな手段で脅迫されるとはっ!」
「まっ、それは冗談として私にも夜雲君のアドレスを教えて頂戴。今、小学時代のクラスメイトで集まらないかって何人かと話し合っているの。」
「あっ、そうなのか?なら俺から言っておくよ。」
「いいから教えなさい!まだ話も始まったばかりで立ち消えになるかも知れないんだから面倒な手間をかけさせないで!特に夜雲君は微妙な立場なんだからあなたになんか任せられないわ。」
何故か亜里沙は怒り出した。その剣幕に押されて俺は夜雲のアドレスを亜里沙に教える。途端に亜里沙は機嫌を直した。
「まっ、千里の事は私に任せておきなさい。あなたは精々もんもんとした青春を過ごせばいいわ、童貞くん。」
童貞じゃねぇーっ!
うん、これで2回目だな。童貞でからかわれたのは。でも俺って童貞じゃないからっ!異世界ではモテモテだったから!ああっ、やっぱり戻ってこなけりゃ良かったのだろうか・・。




