009~アイギス~
本日1話目です。
読み飛ばしにご注意ください
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とある建物の一室。
ダンジョンから戻ったアリサとパラスの2人は椅子に座り、お茶を飲んでいた。お茶請けは羊羹である。
「アリサ、彼女は何者ですか?」
「普通の少女だそうですよ」
「私にも教えてくれないのですね」
アリサの答えに不機嫌そうな表情を浮かべるパラス。
「いえ、今のアリスがどんな存在なのか私もよく知らないのですよ。あの魔法も以前は使用していませんでしたからね」
「この5年で覚えた、ということですか?」
「そもそもこの5年、何をしていたのかすら知りません。予想はできますが、やはり違う気がします」
言葉はそこで区切られ、2人はお茶を飲みつつ羊羹に手をつけた。
「一応聞いておきますが、どこかのお偉いさんのお嬢さんではないですよね?」
「アリスは"この街"に所属しているみたいです。ステータスを見ますか?」
「ぶっ……。知り合ったばかりの他人に見せていいものではないでしょう?」
「アリスからあなたが望むなら見せても構わないと伝えられていますので」
「それならば見たいです。それにしても、アリサはアリスさんに信頼されているのですね」
パラスの答えにアリサは席を立ち、戸棚に移動して何かを探し始めた。
「まあ、長い付き合いですからね~……と、ありました」
黒い鉱石でできたような板を手に持ち、アリサは再び席に座る。
「起動。ユーザーネーム、アリサ」
手をかざしつつアリサがそう告げると、黒い板に複数の文字列が表示された。その文字列に指で触れつつ、画面を切り替えながら操作を進めていくアリサ。
「その情報端末、本当に便利ですよね。ギルドに選ばれた人物しか所有できないのが惜しいですよ」
「一応試作機ですので、便利なようで魔力消費が凄いことになってますよ。それに量産には材料が厳しいですね」
「あれ、アリサは材料を知っているのですか?」
「ダンジョンのランク6以降しか行けない場所で、ボス級から低確率でドロップするものです。現状での入手は難しいでしょうね」
パラスの質問に答えながらもアリサの手は止まらず動き続けている。
そして目的の情報に辿り着いたのか、操作を終えて情報端末をパラスへと手渡した。
◇基本情報
名称:アイリス 種族:- 性別:-
所属:アースガルズ
称号:
◇ステータス
ランク:1
筋力:2 生命力:1 器用さ:2 素早さ:2 魔力:2 精神力:2 魔力操作:2
スキル:
「あれ、違う情報が表示されてますよ。それに種族と性別の情報がありませんね、エラーでしょうか?」
「アリスの本名はアイリスですので間違いありません。あとステータスの情報は必須項目以外は隠すことが可能です。知りませんでしたっけ?」
「初耳ですよ!?」
「まあ、所属とステータスが分かれば問題はないでしょう?」
「……はあ。それにしても、本当にステータスが普通の少女ですね。いえ、普通の少女でも複数項目で3程度はありますので、普通の少女以下ですか」
「今の、堕神後の状況ではそうなりますね」
「このステータスで、ランク1では最高レベルのステータスであるエルピスさんが勝てない希少種に勝ったのですよね。あの魔法を見せられたあとなので疑いませんが、例の希少種のウルフはどの程度の強さだったのですか? それにどうやって確認したのですか?」
「おそらくランク2のボス級よりも少し弱い程度です。確認方法は……まあ、魔法ですね」
答え終えたアリサは嬉しそうに羊羹を口に運ぶ。
「このステータスでランク2以上の魔物を倒す、ですか。それ程に凄い魔法使いならば堕神前でも名が知れ渡っていそうなものですけどね。それに相伝魔法、ですね。アリサも使えるのですか?」
「あの魔法を私は使えませんよ。難易度が高く、それほど魔法が得意ではない私には難しかったのですよ。う~ん、美味しいです」
「アリスさん以外にも使える人がいるのですね……聞いたら教えてくれるでしょうか?」
「あなたには少し早いでしょう。羊羹、貰ってもいいですか?」
「嫌ですよ。私もこの羊羹は好きなんですから」
羊羹が乗っている皿をアリサから遠ざけるように持ち上げるパラス。
「ティアさんの手製なので数は購入できませんからね……」
アリサの様子を見てから皿を置き直したパラスはやや真剣な表情で、再びアリサに問いかける。
「……ところでアリサ、彼女はなぜ私をハイエルフだと判断したのでしょうか? まさかランク5だから、という理由ではありませんよね」
「ほら、僻地が出身でしたので判断基準が古いのですよ。気にしないでください」
そう言いつつ諦めた様子で椅子から立ち上がり、再び戸棚へと移動したアリサ。
「古い、ですか? 昔から変わっていないはずですが」
「私も最初はあなたのことをハイエルフだと思っていましたよ?」
「そうなんですか? でも、ステータス表記はハーフエルフですよ?」
「ハイエルフと呼ばれる人々のステータスに、ハイエルフと表記されているとでも?」
戸棚から煎餅を取り出し、それを持って再び椅子に座るアリサ。
「……そうですね。確かに見たことがありません」
そう言いつつ何かを深く考え始めた様子のパラスと気にせず煎餅を食べ始めたアリサ。
「そうだ、新人の子達に第1層にランク2上位相当の希少種が出現したと注意を促してきます。詳細を伝えなければ構いませんよね?」
「構いませんよ」
「それでは失礼します。また夜に来ますね」
「ええ、また夜に」
立ち上がり、部屋から出て行くパラスと次の煎餅を食べ始めたアリサ。
新人達に希少種に関する情報を伝え、注意を促したパラスは自室へと戻ってきた。
すぐに戦闘装備から着替えてベットへと倒れこむ。
「ハイエルフ、ですか。私が家系で決まるハイエルフなはずありませんのにね……」
パラスしかいない部屋には、とうぜん答える声はない。
「それにしても、あの魔法に関する情報はどうしましょうか。エルフ国に伝えるべきなのでしょうけど、どうせ最上層部が秘匿するだけでしょうし……アリサと彼女を裏切ってまで伝える必要はありませんね。それにどんな危険な技術かもわからない現状でむやみに試されるのは心配ですから」
しばらく静かに天井を見つめていたパラスだったが突然、枕に顔を埋めた。
「……何が『私にも教えてくれないのですね』、ですか。私こそエルフ国の調査員であることをアリサに隠しているではありませんか。いっそのことエルフ国を捨てるべきでしょうかね……なんて、できませんよね。あそこには恩師もいますし、知り合いもいます。会えなくなるのは、さすがの私でも悲しいことです」
枕から顔を上げ、ベットから起き上がったパラスは小さな金属の箱へと向かった。
「こんな時は秘蔵のお菓子を食べましょう。アリサに内緒でティアさんから購入した水餅があったはずです」
開けられた金属の箱からは冷気が漏れており、パラスはその中から水餅を1つ取り出した。
「個数限定ですからね、こればかりは仕方ありません。うん、美味しいです」
嬉しそうに水餅を食べ終えたパラスはそのまま部屋の扉へと向かう。
「パラスはエルフ国に報告するのでしょうかね……。まあ、そうなれば私が責任をとって処理しましょう。パラスを信じていたとはいえ、アリスに伝えなかったのは私ですので」
誰もいない部屋の中、そう呟いたアリサはお茶を一口飲んだ。
「……アリスはなぜ、パラスにもあの魔法を見せたのでしょうね。私だけでは到達できないと、そう判断したからでしょうか」
窓から覗く空を見つめるアリサは少し悔しそうな表情を浮かべている。
「まあ、頑張りましょう。それにしても、アリスは性別"無し"でしょうか。そうなると種族は精霊族、ですかね。そうであれば種族と性別を隠した理由としては十分でしょうが……いえ、性別は隠していないですか」
お茶を飲み干し、湯のみを戸棚の横に配置された金属の箱の中に入れて蓋を閉めたアリサはドアへと向かう。
「さて、そろそろアリスがギルドへ報告し終えたと思うのでスピカと相談しに行きましょうか」
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