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020~2人でダンジョンへ02~

 身体をならし終えて、ちょうど近くを移動していたウルフの群れへと駆ける。

 普段通り飛びかかってくるウルフを避け……いえ、"飛びかかろうとしていた"ウルフの足を切りつつ移動を続行し、少し奥で身構えていたウルフの喉元を斬り裂く。

 うん、やっぱり強化魔法は良いものね。普段ならウルフに飛びかかられているところが、飛びかかる前に攻撃できる。足を斬られて機動力を失ったウルフは後続のアリスが処理してくれるから、私はそのまま別の魔物を無効化できる。この差は大きいと思うの。

 

 

 

 2階層で戦ったウルフの群れよりも個体が強く、群れの数も多かったというのにかかった時間は短い。個体の能力は感覚による判断だけど、群れの数だけから考えても強化魔法による影響は大きいわね。

 でも、これだけでウルフリーダーに勝てるか考えると、おそらく勝てない。頑張りましょう。

 

 

 

「はやくな~れ」

 

 アリスが私に手を触れ、呪文を口にする。

 約30分程度、かしら。アクセルの継続時間が約20分であることを考えると、継続時間は1.5倍だから消費魔力しだいでは便利な魔法ね。いえ、アリスがアクセルよりも優先しているのだからアクセルと同程度の魔力消費量なのかしら。いくら継続時間が長いといっても、アクセルよりも魔力消費量が多ければかけ直しが十分できる今の状況では意味が無いものね。

 さて、夜まで頑張りましょう。

 

 

 

 ***********

 

 

 

 足り得ない。

 今の状況でも、あの子なら再び魔法を使えようになるとは思う。

 それでも、あの子がより輝く姿を私は見たい。

 そのためには、やはり原因を確定させておきたい。

 現時点でも予想はできているけど、その先は今のステータスでは難しい。ステータスが足り得るのが先か、<<貯蔵>>を発現するのが先か。どちらにしても早く原因を確定させよう。

 あとは状況がほしい。第1層ボス級のウルフリーダーでは、きっと足りない。希少種の相手をしてしまったあの子に必要なのは、さらに強き相手。

 そして最後に強い心。

 復活がない状態で2人の少年を助けに駈け出した、それでも最後に諦めてしまった。そんなあなたは逃げ道がない状況で輝けるか、輝けないか、折れてしまうか。

 望んだのはあなた。望んだのは私。

 期待しているよ、エルピス。

 

 

 

 ***********

 

 

 

 翌日、アリスとは初めての4階層へ到着した。ここからは出現する魔物が一部変化してより強力な魔物となる。

 3階層までに出現していたウルフ、ホーク、バットに加えて昼間は蜂型の魔物であるビーと、ビーを統率するビー・クイーン。そして緑色で人型に近いゴブリンと、夜には腐った身体をしたゴブリンであるゴブリン・ゾンビ。

 そういえばアリスは初めて4階層に挑戦するのよね。

 

「アリス、4階層の魔物は知ってる?」

 

「うん、予習は十分。昼間はウルフ、ホークに加えて蜂型のビーとそれを統率する女王蜂型のビー・クイーン。それに人型のゴブリンが出現する。夜はウルフとバットに加えてゴブリン・ゾンビが出現する」

 

 さすがアリス、ギルドでしっかりと調べていたのね。

 

「さすがね。最初は群れが少ない魔物から挑みましょう」

 

「うん。それじゃあ、はやくな~れ」

 

 私に手を触れたアリスが呪文を唱える。

 さあ、頑張りましょう。

 

 

 

 ウルフリーダーは平原にいることもあれば森の中にいることもある。戦いやすい平原だけを狙ってもいいのだけど、アリスが求めていることは最も強力なウルフリーダーの撃破。つまり森の中であっても撃破できなければならない。

 そんな理由もあり私から森での連携を深めようと提案した。それに水中などの行動できない場所は別として、行動できる森を苦手な場所だからと避けていては、いつか後悔しそうなの。

 そして今、視線の先では体長30センチほどの蜂が30体ほど群れ、さらに近くの木には大きな蜂の巣と60センチほどの蜂がいる。

 正確で素早い動きから繰り出されるお尻の毒針も厄介なのだけど、それよりも連携が厄介な魔物。仲間の魔物を犠牲にしようとも連携してこちらに有効な攻撃を加えてくるし、意識を共有しているかのように背後からの攻撃も避ける。唯一ビー・クイーンに危険が迫った時だけは防御行動を取り、ビーが犠牲になろうともビー・クイーンを守ろうとする。

 倒し方としてはビー・クイーンさえ倒してしまえば連携しなくなり、個々に突撃してくるだけになるので対処は容易になるのだけど……魔法が使用できず、遠距離武器も持っていない私がビー・クイーンを倒すためにはビーの群れに突撃する必要があるので、結局は連携攻撃を突破しなければならないのよね。

 でも、今日はアリスがいるから遠距離から弱点の炎、氷属性魔法か、体勢を崩す風属性魔法が使える……そう考えていた時期もあったのだけどね。

 『連携の練習に、速度強化だけで戦おうね』

 そう言ったアリスは"笑顔で"大量に持ってきていた毒消しを私に見せてくれたの。とうぜん私も毒消しは持ってきているけど、毒消しはとても苦くて嫌いだから頑張って避けましょう。

 

「エルピス、先に行くね」

 

「ええ、お願い」

 

 そして私が最初に1人で突入してアリスに魔物の動きを観察してもらうつもりだったのだけど、アリスは自分が始めに突入することを提案してきた。もしかしてパーティメンバーの私を危険な状況に挑ませるから、まずは自分が挑むべきと考えているのかしら。

 ……いえ、考え過ぎかしらね。

 駆け始めたアリスに続き、ビーの群れへと移動を開始する。

 ある程度近づいたところでビーが気づいたのかアリスへ近づき始め、まずは前方2体のビーがお尻の針をアリスに突き刺そうとしている。

 あれは囮であり、注意を惹きつける役目。囮に注意が向いている間に後ろへビーが移動し、死角から突き刺されるのは何度も経験した。分かっていても、囮を対処しなければ囮役が攻撃役に変わるだけなので1人での対処は難しいの。

 予想通り前方2体とは別のビーがアリスの後方へと移動している。

 ここでアリスはどうするのかと楽しみに見ていると、アリスは回転しつつ槍を振るった。いつの間にか短く持っていた槍で突くのではなく、振り払って前方2体と後方へ移動した4体を地面へと落とした。

 そのまま回転し、再び前方を向いてあまり速度を落とさずビー・クイーンに接近する。ビー・クイーンに接近するまでの間に数度、ビーが同時にアリスを襲ったけど、そのすべてを撃ち落としている。最初のように回転し、時には視線を逸らさず振り払うだけで。

 そしてビー・クイーンの直前まで接近したところで短く持っていた槍を両手で持って突き出すが、アリスとビー・クイーンの間にビーが割り込んできた。その行動でアリスの突きは一撃の威力を出せず、ビー・クイーンはアリスから離れて群れを整える、そう思ったのだけど結果は違った。

 アリスの槍はビーを避け、ビー・クイーンの羽を軽く裂いた。そしてそのまま回転し、後ろから襲おうとしていたビー2体を振り払いつつ、割り込んだビーが通りすぎたところでビー・クイーンに柄を突きつける。

 それで体勢を崩したのか、ビー・クイーンの行動は僅かに後ろに下がるだけであり、再び前を向いたアリスの槍に貫かれた。

 私はそんな様子を地面に落ちたビーを倒しつつ、見ていた。

 最初のあれは既に視界の外に移動していた蜂の位置を、後ろを見たその瞬間に把握して撃ち落としたのかしら。いえ、今は残ったビーを倒すことに集中しましょう。

 そう決めて地面に落ちたビーを優先し、数が少ない元気に空中から突撃してくるビーは避けるか、撃ち落とすことで対処する。

 

 

 

 散らばっている魔石を拾いつつ、さっきの戦闘について考え始める。

 私でもビーを撃ち落とすことは可能だけど、それは見えているビーに限った話。おそらく私が同じことをしても、何体かには避けられて攻撃を受けると思う。

 動きを予想している、と考えてもいいのだけど……初めて戦った相手にあそこまで予想できるかしら。仮に昔ダンジョンの外で戦っていたとしても、ダンジョンの中に出現する魔物はまた違った動きをするから、予想は難しいはずなの。

 やっぱり周囲の状況を把握する術がある、と考えるべきかしらね。私も感知魔法を使用すれば周囲の状況を把握できるけど、それ以外では難しい。感覚強化魔法を使用してもしっかりとは把握できないもの。

 でも、アリスが『はやくな~れ』以外を使用しているとは考え難い。そうであれば私にも使ってくれていると思うから。

 でも、聞くだけ聞いておきましょうか。

 

「アリス、感知系の魔法を使っていたの?」

 

「使ってた魔法はエルピスにかけた魔法と同じものだけだよ」

 

 やっぱりそうよね。

 そうなると……分からないわね。臨時パーティのメンバー相手に踏み込んだ技術を聞くのはあまりよくないし、自分で見極めましょう。

 それにしても、綺麗な動きだったわね。

 

「次はエルピスから突入しよう。問題ない?」

 

「ええ、任せてちょうだい」

 

「うん」

 

 アリスの動き、少し真似してみようかしら。色々と分からないことが多いけど、真似することで何か掴めるかもしれない。

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