第二話 裏切り、逆恨み
気付くと俺と恭介はレンガか何かで作られた訳のわからない字がたくさん書かれた部屋にいた。
「ば、馬鹿な!?王が二人!?」
「これでは預言が狂ってしまうのでは」
「預言者エリーヤ様に判断を仰がなければ」
がやがやとうるさく周りでは髪が金髪だったりオレンジだったりする奇抜な外国人達。
服装もこれまた奇抜で、背広やベストに半ズボンや長ズボンなんだが、デザインが異様に古い。中世か!
そいつらが何やら俺と恭介を囲んで指をさしながらうだうだ言ってやがる。
俺がそいつらに何かを言おうと口を開くと。
「すまないが、今は黙っていてもらおうか」
鉄か鋼かわからんが立派な鎧を着た赤い髪の女が剣を腰の鞘から抜き放ってこちらに向けながら言う。
赤い髪の女は髪こそ情熱的なキャラくさいが、目はブリザードかって程に冷たい。
それでいて容姿は人形のようで無表情だから非人間的で怖い。
それにこの目は絶対に人を殺した事のある目に違いない。
見つめられただけで背筋が冷えるなんて初めての体験過ぎるぞ!
俺と恭介はその赤い髪の女騎士とそれに付き従う騎士どもに連行された。
ついたのは玉座、王の間!みたいな部屋。
俺らみたいな輩では不敬になるからか、脇を固めている騎士達が俺らの頭を断りを入れて下げさせる。
中央に王様みたいなおっさんがいてその隣に后キャラな美形なおばさん、段差があって、その少し下に姫様と思わしき娘さんが二人いる。
そしてそれらの周りには列をなして俺は偉いんだぜって感じのおっさん達。
その背後にはこれまた強そうな騎士達がずらりと並んでいる。
「ふむ、そなた達が召喚されし者か。顔を上げい」
頭を下げながら盗み見ていたが、顔を上げる。
「ふむ、我がアルケイン王国は預言神の巫女の預言による国の政に対する助言を重視しておる。私には娘が二人いるのだが、年頃になって来たから良縁の為に理想の結婚相手を預言してもらったのだ。すると異世界から来た少年を王にすればこの王国は世界を統一出来るという素晴らしい預言が出たのだ。それを聞いた私はかつて存在したという次元神の巫女が作り出したという魔法道具を用いて、莫大な魔石と引き換えに君達を呼び出したのだ。しかし、預言では少年は一人だったはずだが……」
俺は王様の言葉を聞いて心が踊っていた。
ファンタジー!お姫様!結婚!
恭介には美樹がいるし、俺が可愛いお姫様と結婚して王様かー。
魔法もあるみたいだし内政とかやってみてー!夢が広がりまくりだぜ!
もしかしてモンスターとかもいるのかなぁ、ゲームの動物狩り人みたいに巨大なのもいるのかなー。
俺が夢を広げまくって宇宙へ飛び出しまくっていると、荒々しくドアを開けてババアが入ってくる。
息をあらげる醜いババアが醜い声で叫ぶ。
「預言神ノール様から告げられた新しい預言では二人の少年の一方は王となり国を発展させますが、もう一人は滅ぼしますぞー!滅びます!滅びますぞー!国が滅びますぞー!この国だけではなく、世界の有り様までも変えてしまう災厄!災厄ですぞー!その者が起こす戦いは流れた血で新たな河が出来る程ですぞー!」
ババアの言葉で玉座の部屋に緊張が走る。
「どうしたらいいのだ預言者エリーヤよ」
ババアであるエリーヤは神妙そうに頷くとドヤ顔で王にいい放つ。
「災いを呼ぶ者を殺すのです!殺さなければ滅びますぞー!」
空間が凍った。
抗議の声をあげようとする俺を赤い髪の女騎士が制する。
「静かにしなさい」
そう言う赤い髪の女騎士の顔にはわかりづらいが苦悶の跡が見える。
「うーむ、預言神ノール様よ!どちらが災いを呼ぶ者か我々に示したまえ!」
ババアが叫ぶと部屋全体に圧力がかかり、息がしづらくなる。
「なんだこりゃあ……」
「神の顕現よ。神降ろしの三段階目。見てなさい、これから貴方達に裁きが下されるから」
部屋の中央に光が走ると、肌の透明な裸の女性の身体に三つの顔を持つ巨大な存在が天井近くの宙に浮いていた。
顔の一つは獣、一つは男の老人、一つは女の幼女の複雑怪奇な存在は部屋にいる人々に告げる。
『災いを呼ぶ者はそなた。狂った神に愛され契りを結び、我々の愛する御子と巫女をことごとく殺し尽くす悪鬼。怒りにまかせて復讐をなし友を殺して血の王国を作る。神々をも震わせるおぞましい出来損ないの化け物どもの国をだ。そなたは化け物とも交わり、千の女怪と出会い千の悪鬼を成すだろう!』
俺を指さしながら複雑怪奇な預言神とやらは言いやがった。
俺が魔王だとでも言いたいのかよ!
「殺せ!ヴァーナ!その者を殺すのだ!」
冷たい目をした赤い髪の女がぴくりと反応するが腰の剣の柄に手を触れただけで止まる。
「どうした!ヴァーナ!王の命令だぞ!」
中年の偉そうなおっさん騎士が赤い髪の女騎士を怒鳴る。
それでも彼女は俺を捕まえはしても、殺そうとはしない。
彼女自身も何かに戸惑っているかのようだ。
「いや、玉座の間を汚すことに脅えたのでしょう。彼女は二の姫様とも仲が宜しいようですし、王家への忠誠も高い。まあ僕みたいな奴がやるべきでしょう」
何だかいけすかない黒髪短髪のイケ面騎士が俺の前に来やがった。
「僕はアヌゥ・リトゥール。闘神ナルカミの御子でアルケイン王国騎士団二番隊隊長だ。覚えなくていいよ。それじゃ、さよなら」
光が煌めいた。
俺はぞっとする予感に急いでヴァーナという女に拘束されていた身体を自由にしていけすかないイケ面と距離を取る。
「良い反応だ。鍛えれば良い戦士になったよきっと。でも、君の右腕は貰ったよ。動きから見ても素人みたいだし、痛みに耐えられないだろうから後は近くの君達さくっと殺しといてね」
何を言っているのだ、と思い右手を見ると、そこには何もなかった。
目に入るのは、右腕のひじまでで。
ぼとり、と何かが落ちる音がする。
痛みもなく、衝撃もなく、先程の煌めきが俺から右腕を奪い取ったのだ。
認識すると右腕から膨大な痛みの情報が脳に到達する。
「ぐがぁぁぁ!」
恥も外聞もなく転がり回る。
がしゃりがしゃりと鎧が奏でる死の行進が近付いてくるのに恐怖を感じ、涙が溢れる。
そんな時に、恭介が目に入った。
「恭介ぇ!た、助けてくれ!お前は王さまになるんだろ!?だったら俺を助けてくれよっ!友達だろ!?」
だが。
恭介は怯えるように目をそらした。恭介は、友達は、幼い頃から一緒にいた親友は俺を見捨てたのだ。
「きょっ、恭介?嘘だよな?恭介っ!」
俺は痛みが走りろくに動けない身体を何とか動かしてよろよろと恭介の方へ行く。
硬い何かが肉を切り裂く音が部屋に響いた。
痛みの情報が背中から溢れ出す。きっと背中を切られたのだろう。
それでも、それでもだよ恭介。お前が何も言えないのはわかる。
もし歯向かったら自分も殺されるかもしれない、そう思ったんだろう。
俺だって逆の立場ならそうするかもしれない。
でも、でもな、恭介。どうしてお前は俺を汚いものでも見るかのような目で見るんだ?
血を流しているからか?痛みに耐える顔が醜いからか?
なあ、恭介。もしお前が俺を助けるよう言ったり、死にゆく俺を哀しんでくれるならば。
俺はきっと、許せたよ。許せたんだ。
「恭介っ!恭介ぇっ!恭介ぇぇっ!!」
叫ぶ俺を恐怖の目で恭介は見つめる。周りには怒号が飛び交い、死の行進が間近まで来ていた。
俺さ、止められないよ。逆恨みだってわかっていてもお前を憎む気持ちが止まらないよ。
お前が見殺しにするのが当然ならば、俺がお前を恨むのも当然のことだよな。
ああ、殺してやりたいよ。俺の周りにいる俺を殺そうとしている奴等全員を。
殺してやりたいよ、恭介。
晴らしたいよ。この怒りを。この憎しみを。
帰りたいよ。あの日々に。何でもない日常に。
『妾の可愛い御子よ。こんな所におったのか。何千年、何万年も探したのじゃぞ。ふふ、愛し子や。妾がお前の全てを果たさせてやろう。肯定してやるぞ。悪も色も善も全てじゃ。さぁおいで。こちらにおいで。妾の愛しき者よ』
俺は謎の声に導かれ、意識を失った。