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【祝コミカライズ】銀狼殿下の専属薬師~冷酷な狼王子は私にしか懐かない~  作者: ぽんぽこ@銀郎殿下5/16コミカライズ開始!!


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第54話 王の務めと、銀狼の牙

 翌朝の食堂には、どこか気まずく、それでいて妙に浮ついた空気が漂っていた。


 昨夜の誤解はすでに解けている。けれど、私とノエルが揃って遅い時間に姿を見せたせいか、長机を囲む人々の視線がやけに温かい。


 ノエルは咳払いをひとつすると、真剣な顔で口を開いた。



「昨日広まった懐妊の話だが……誤解だった。マリーは妊娠していない」


 一拍の沈黙のあと、食堂に笑い声が広がった。


「なーんだ! びっくりしたよ!」


 ニケが胸を撫で下ろし、イーラも呆れたように目を細める。


「まったく、早とちりもいいところですね。殿下はすでに子供の名前まで決めていたそうですが」


「それは言わなくていい!」


 慌てるノエルを見ていたニケが、ふと首を傾げた。


「あれ? ノエル、首にあざができてるよ。怪我したの?」


「これは……っ」


 ノエルが反射的に首元を隠す。


 向かいに座っていたモルト殿下は、金髪を揺らしながら楽しそうに笑った。



「そういえば二人とも、起きてくるのが随分と遅かったらしいね?」


「ふふ。勘違いが現実になる日も、近いかもしれませんよ?」


「マリー!?」


 昨夜のことを思い出したのか、ノエルの顔が一気に熱を帯びる。


 その様子を眺めていたモルト殿下は、羨ましそうに肩をすくめた。



「いいなあ、兄さん。僕にもいつか、そんな相手が見つかるといいんだけど」


「あ、そういえばモルト殿下」


 私は白衣のポケットから小瓶を取り出した。


「以前頼まれていた媚薬、完成しました」


「待って!? マリー、それを今ここで言うの!?」


 モルト殿下が椅子から立ち上がる。


「実験用って言ったじゃないか!」


「ええ。効果を確かめたいのかと思って」


「違う、そういう意味じゃない!」


 ノエルが冷ややかな目を向ける。


「モルト。そんな薬に頼るとは情けないぞ」


「兄さんまで信じないでくれ!」


「殿方には必要なこともございますものね」


 イーラまで穏やかに追い打ちをかけると、食堂は再び笑いに包まれた。


「違うってばぁぁ!」


 モルト殿下の叫びが響いた、その直後だった。


 近衛兵が慌ただしく食堂へ駆け込んでくる。



「ノエル殿下、モルト殿下! 陛下よりお呼びです。至急、謁見の間へ!」


 笑い声が途切れる。


 ノエルと私は顔を見合わせ、すぐに席を立った。



 ◇


 謁見の間には、香木の香りが漂っていた。


 白い大理石の床の先、玉座に腰かけた公王フォルス陛下が、威厳ある眼差しで息子たちを見据えている。



「砂漠の国、ザハル連邦から会談の申し出があった」


「ザハル連邦……」


 私が小さく呟くと、隣のニケが声を潜めた。


「いくつもの部族が集まった砂漠の大国だよ。狼牙を扱う黒月派がいるって噂もある」


「赤砂派は、以前からソライアに強硬的だったはず。黒月派と結んでいるなら、和平を装った罠の可能性もあるわ」


「お姉ちゃん、詳しいね」


「薬草や香辛料の産地だから、昔から調べていたの」


 モルト殿下が表情を引き締める。



「狼牙は、ザハルを経由して我が国へ入っているとも聞きます」


「その狼牙の件で、我が国へ助力を求めてきた」


 陛下の視線が私へ向く。


「彼らは、マリーの作った薬を欲している」


「私の薬を……?」


「しかし、過激派の動きも活発です。危険すぎます」


 ノエルが一歩進み出る。


「せめて俺も同行を」


「駄目だ」


 陛下は短く言い切った。


「お前は、この国を守れ」


「ですが――」


「王にとって、民は家族も同然だ。家族の暮らしを守るのが余の務めであり、お前の務めでもある」


 陛下は玉座から立ち上がった。



「お前の牙は、獲物を狩るためにあるのではない。家族を守るためにある」


 その言葉に、ノエルは唇を結んだ。


「お前の家族は誰だ?」


 陛下の視線が、私へ移る。


「妻を悲しませるような男にはなるなよ」


 ノエルは一度私を振り返ったあと、深く頭を下げた。


「……なら、せめて護衛を倍にしてください。俺の部下も同行させます」


「その判断は任せよう」



 午後、王城前には砂漠へ向かう騎馬隊が並んでいた。


 陛下は自ら馬具を確かめ、モルト殿下も旅装を整えている。



「……必ず無事にお戻りください」


 ノエルが父親の馬の手綱を握る。


「心配するな。余はまだ老いぼれではない」


「兄さん、留守番よろしく。僕は少し日焼けして帰ってくるよ」


 軽口を叩くモルト殿下の肩を、ノエルは強く叩いた。


「父上を頼んだぞ」


「もちろん」


 陛下が馬へ跨がり、金色の旗が高く掲げられる。


「では行く」


 馬蹄の音とともに、一行は王城を離れていった。


 私はノエルの隣で、二人の背中が見えなくなるまで祈り続けた。



  ◇


 それから一週間後。


 夜の中庭を、私とノエルは並んで歩いていた。



「早く戻ってくるといいね」


「……あの人は強い。必ず無事に帰ってくる」


 そう答えるノエルの手に、私はそっと指を絡めた。


 その瞬間、城門のほうから激しい馬蹄の音が響く。



「城門を開けろ! 急げ!」


 巨大な扉が押し開かれ、血と砂にまみれた兵たちがよろめきながら入ってきた。


 その中央にいたのは、片腕を押さえたモルト殿下だった。


 外套は裂け、金髪には黒い砂と血がこびりついている。


「モルト殿下……!?」


 私が駆け寄ると、モルト殿下は顔を上げた。


 青い瞳は、恐怖と絶望に揺れている。



「……王が……」


 震える声が漏れた。


「父上が……殺された……!」


 ノエルの足が止まる。


 つないでいた手から、力が抜けた。



「……父上が……?」


 かすれた声だった。

 私は口元を押さえ、震えるノエルの背にそっと手を添える。


 けれど彼は動かない。

 中庭を照らす灯火が揺れ、モルト殿下の血に濡れた影が長く伸びていた。


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「私を虐げた義妹の子を育てることになりました。元婚約者が今さら親権を主張してきましたが、いつまで選ぶ側だとお思いですか?」
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