少し特別な日
かくして、陽子達の旅は終わった。
陽子は自宅の窓から空を見上げていた。あれから三か月。
彼女の部屋には、仲間からのたくさんの手紙が大事に残されていた。
ローゼスはバウンティハンターをしばらく休んで、学術都市のシルファの喫茶店で花屋をやっている。同封されていた写真には、旅では見せなかった彼女の穏やかな笑顔が写っていた。
サンゼンは修行の旅で各地を転々としている。いつも違う場所から手紙が送られていて、もう完全に怪我は治ったらしい。
アカリはスザンナと共に発掘を手伝っている。発掘に忙しいアカリの代わりに、スザンナが代筆してくれている。
タロは、結局家業の鍛冶屋を継ぐことにしたらしい。遠くに暮らしているので、手紙は少ないが、元気そう。
そして、メリーとは秘密の文通相手になっている。もう鏡であちらに行くことはできないが、今もランピィと共にうまいことやっているようだ。
――この三か月で世界はいろいろと変わった。
魔王とリーベ女教皇の言葉により、人と魔は新たに協定を結んだ。お互い足りていないものの補いあおうと。
主に、ヒトはパスト・イーリスの遺物を、魔族はヒトの手で作られた魔道具を。そして、それ以外の物も多く。
ヒトと魔族の交流がより活発になり、ヒトの街で住む魔族、魔族の街で住むヒトも出てきた。
そして何よりも、神話の時代にヒトを見放したメルエールが再びヒトに祝福を与えるようになって、赤眼の子供がたくさん生まれたこと。
すぐではないかもしれない。しかし確実に、玉眼はありふれたものとなり、ただの赤眼となる日が来る。あの予言で最後の玉眼と語られていたのは、そういう事だったのだろうかと陽子は考える。
「そろそろ、街の前で待ち合わせ、かな」
そういって、くろと共に家を出る。今日は少し特別な日。
***
ローゼス、サンゼン、アカリ、タロはそれぞれ手紙を手に平和になったカスミ峠を馬車でくだっていた。
「やれやれ、まさかヒトの地で御者をやることになるとはな。ヒトの地で骨を埋めることになりそうだが、まあ、悪くはないか……」
そういって、白馬……ゴンを操るのはチェーヒロだった。
ゴンはチェーヒロに懐いてしまったようで、当分は専属で御者をやることになるだろうと皆に語る。
サンゼンは馬車で伸びをする。久々に皆と会えて、リラックスしていた。
「皆元気そうで何よりだ。俺もこの通りピンピンしてるぜ」
変な怪我してたものねとローゼスはサンゼンの言葉を聞いて安心する。
タロとアカリも、外の景色を見ながら、皆のことを話していた。
大変だったけど思い出に残る旅だったと。
「もう夢見が丘に着きマスよ」
「あっ、あれって! おーいヨーコ!」
タロが手を振るのに応えて、手を振る陽子。
「私もいる」
いつの間にか、メリーも陽子のそばにいた。そっけない言い方だが表情は綻んでいた。
少し特別な日。それは、冒険した皆と再会する日。これから夢見が丘のカフェで思い出話などに花を咲かせるのだ。
きっとこれからも、こういった平和な時間が流れるのだろう。
それは、他でもない彼女たちが勝ち取った尊いものなのであった。