第九話
・お酒は二十歳になってから。
・お酒は節度を持って楽しみましょう。
・最近飲んだお酒:「花垣 微発泡純米にごり生原酒」(日本酒)
ナイが剣を構え、明海に向かってくると同時に、明海は魔法を撃ち始める。普通であれば倒れるはずだが
「はっ」
魔法弾をものともせず、剣で切り捨てていった。
「な、なんで」
「それぐらいの魔法じゃあ、この剣で簡単に切り捨てられるね」
どうやら敵の実力もさることながら、剣の能力も関係しているらしい。
ナイが走って距離を詰めてくるのを妨げるように、足元を狙って魔法を撃つ。そしてその間に、リーシュの魔法でここまで走ってきて蓄積していた疲労を取ってもらうとともに、背負っていたグラッパの瓶を開けて飲み始める。走りながら飲む蒸留酒のアルコールの高さに喉がむせそうになるが、それよりも先に感じる酒のうまさに感動を覚える。
「うげえ、こいつ蒸留酒を一気飲みしやがった」
敵にまでドン引きされるとは、自分としては心外だった。しかし、敵の行動を遅らせるのには充分だった。
そして、飲んだグラッパの味を思い返しながら、胸元で熱くたぎるアルコールを体内でコントロールする。
(今度アンチョビピザを作ってもらって、それを食べながらグラッパを飲みたいわね)
そんなことを考えながら魔法を解き放つ。
「な、なに!?蒸位魔法をこんな大量に撃ってくるなんて!」
剣で魔法を切り捌こうとするが、それも追いつかない。そして
バキッ―――
捌いていた剣が折れる。
「やったか?」
魔法によって発生した粉塵が落ち着くと、まだ片膝をついた状態でナイは耐えていた。
「ぜえぜえ……なんて量の魔法を放ちやがるんだ。しかし、これだけ撃てばお前の魔力も尽きただろう」
ナイが言っているように、明海は魔力をほとんど使ってしまったらしい。それを察したのか、ナイは最後の力を振り絞って立ち上がり、こっちに走ってくる。折れた剣でもいいから、攻撃を食らわすのだろう。
明海はそんな状況でも冷静だった。ナイとの戦闘中でも、戦闘後に腸詰めやらベーコンやらを食べながら飲もうと思っていたのだ。
「ありがとう、国王」
懐から、スキットルを取り出す。ボトルの蓋を開けた瞬間、薬のような匂いに確信を持った。これは、
「アイラウイスキーだ!」
「な、なにい!」
グイっと飲み、再び魔法を解き放つ。先ほど放った魔法よりもそれは断然強力だった。
アイラウイスキーは同じウイスキーもとい、スコッチウイスキーの中でもピート(泥炭)臭が強く、スモーキーフレバーという表現以上に、一般的に薬臭いという表現がメジャーとなっている。そのようなクセのあるウイスキーが国王のとっておきというのも中々に頷ける。
ああ、このウイスキーには燻製製品だったり、オイルサーディンがとても合うんだろうなと、戦いよりも酒のアテのことを考えながら、明海の戦いは終わった。
「ち、ちくしょう……こんなはずじゃ。アルコー王国の戦力は大したことないと聞いていたのに」
「うーん、私も別に戦えるわけじゃなくて、お酒が好きなだけなんだけどね」
「このアルコール中毒め……!」
「どうもありがとう」
明海がそう言って笑うとともに、ナイは事切れた。どうやら、いくつも蒸位魔法の弾を撃ち込んだのが効いていたらしい。それにしても、ファイヤーボールだとかそういったネーミングの魔法はこの世界にないのだろうか。
◇
前の部屋でのノーマンの戦いはどうなっているだろうかと気になって戻ると、どうやらノーマンも無事に敵を倒したらしい。一足先に様子を見に行ったリーシュから傷を治すための回復魔法を受けていた。
「明海も無事だったか」
「うん、魔力が切れそうで危なかったけど」
「そんなに強い敵だったのか」
「剣捌きもそうだったけど、剣自体が魔法を打ち消す能力があったみたいで」
「それは、剣を作るときに、特殊な薬草と貝の粉末を混ぜて作った剣かもしれません」
「リーシュの言うその特殊な薬草はもしかして、黄色く粉末状にしたもので、貝の方は一つ一つが小さめのものだったりは……?」
「明海さん、さすがご明察です。異世界でもその剣があるんですね」
「いや、剣じゃなくて薬草と貝がね……」
まさか、こっちの世界でもウコンとしじみがあるなんて思わなかった。しかしまあ、それを混ぜて剣を錬成するだなんて、この異世界はどうなっているのだろうか。
工場から外に出ると、どうやら既に鎮圧されているようだった。ノーマンが明海の手を取って空に向かって突き上げ
「勇者明海が、敵を討ちとったぞー!」
と高らかに声を上ると、その声を聞いた兵士たちは雄叫びを上げ勝利を祝した。




