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6


「ミミとトト、ですか。可愛らしい響きですね」

「ありがとう。オレも結構気に入っているんだ」


 思わずという風に笑うノヴァ王子。その瞳は愛情に溢れていて、彼が二匹を大切にしているのが伝わってきた。

 ミミとトトと名付けられた二匹も元気な様子で、幸せに暮らしているのだろうことが窺える。


 ――良かった。ノヴァ殿下に引き取っていただけて。


 二匹が元気そうにしている様子を見ることができて嬉しかった。

 ノヴァ王子が立ち上がり、三匹の元に行く。ミミとトトはノヴァ王子のもとへ駆け寄っていったが、リュカは動かなかった。


「ミミ、トト」

「「なあ」」


 二匹が揃って可愛らしい声で返事をする。すでに自分たちの名前という認識があるのだろう。つまりは

それだけ呼ばれ慣れているということ。二匹はノヴァ王子の足下に来ると、ごろんと横向きに転がった。

 あれが撫でろという合図だということを私も知っている。

 ノヴァ王子も分かるようで、苦笑しながら二匹を丁寧に撫でていた。

 頭を撫でられて嬉しいのか、ミミの尻尾がぴょんと上がる。愛らしい姿に勝手に笑顔になってしまう。


「今、一番困っているのが、オレの留守の時、どうするかなんだよな。オレがこいつらを飼い始めたのは皆知ってて、それこそ皆、世話をしたいって言ってくるんだけど……誰を頼ればいいのか分からなくて」

「ああ……」


 ノヴァ王子が言いたいことを理解し、頷いた。アステール様も困ったという顔をしている。


「私たちは王族だからね。皆、何とか取り入るチャンスを狙ってる。そこに今回、子猫を飼うとノヴァが言い出したわけだ。世話役を買って出て、印象を良くしようと考える者は正直後を絶たないと思うよ」

「そういうこと」


 ほとほと困ったという顔をするノヴァ王子。

 私は屋敷の使用人たちが手伝ってくれて助かっているが、彼は立場的に誰でも頼っていいわけではないから難しいのだろう。


「オレも学園があるし、こいつらをできるだけ放置したくないから、誰か人を置いておきたいんだけど……」

「当ては? ないのかい?」

「一応、ひとりだけ。昔猫を飼っていたという侍従がいまして、しばらくの間は、彼に任せようかと」

「猫を飼っていたなら、扱いはそれなりにできるということか」

「ええ。とりあえずの人選ですので、正式には別に考えるつもりですが」

「そうだね。お前も学園に行かなければならないことを考えると、そうするしかないか……」


 仕方ないという風に頷くアステール様とノヴァ王子。

 王族は色々と考えなくてはならないことが多くて大変だなと二人の会話を聞きながら思った。

 しばらくノヴァ王子の部屋に滞在した私たちは、リュカをキャリーケースに戻し、彼の部屋を辞した。

 ずっといるのは申し訳ないし、アステール様が自分の部屋に来て欲しいと言ったからだ。

 久しぶりのアステール様の部屋。しかも恋人となってからは初めての訪問なのだ。

 リュカも一緒とはいえ、少しばかりドキドキしていた。


「お邪魔します……」

「どうぞ、入って。お茶の用意をさせるから、リュカを出すのはその後でいいかな」

「は、はい」


 部屋の出入りがなくなってからリュカを出した方が良いと言われ、頷いた。

 女官が入って来て、お茶の準備を始める。

 リュカは落ち着かないようで、キャリーケースの中からずっと鳴いていた」


「あーん。あおーん。あーん。あーん。あおーん(出して!)」


 先ほどは絶対に出るものかと言わんばかりなのに、今度は出してくれと言う。

 お猫様の我が儘は可愛いなと思いながらも、私はリュカが鳴くたびに「はいはい」と返事をした。

 適当に返事をされているのが分かるのか、リュカの声が不満を訴えたものになる。


「んーなー!(僕を見て!)」


 ちゃんと相手をしろとキャリーケースから訴えてくるリュカ。だけど、今出してやるわけにはいかないので「ごめんね」と言うしかできない。

 アフタヌーンティーのセットを準備してくれた女官が頭を下げ、部屋を出て行く。扉が閉まったことを確認し、キャリーケースの扉を開けると、パーンと勢いよくリュカが飛び出してきた。


「なーん!!(やっとだ!)」


 相当ご不満だった様子のリュカは、部屋が代わったことに気づき、キョロキョロとしている。子猫たちがいなくなったのが不思議な様子だ。

 どこにいったのかと探している様子が窺える。


「ああーん、ああーん、んあー」


 誰かを呼ぶような声を聞き、リュカがずいぶんとあの子猫たちを気に入っているのだと改めて思った。

 とはいえ、二匹はノヴァ王子の部屋だし、連れてきてもらうわけにもいかないので、ごめんねといいながら撫でることにする。


「リュカ、あの二匹はいないの。また、連れてきてあげるから」

「んなー、んあおうぅ」


 不満げな声に申し訳なくなるが、どうすることもできない。

 アステール様もやってきて、一緒にリュカを撫でてくれた。それでようやく落ち着いてくれたのか、リュカは黙り、窓際の方にトコトコと歩いて行く。どうやら気を取り直して部屋の探検をすることに決めたようだ。

 その様子を見て、ホッとする。


「良かった。落ち着いてくれたわ」

「大分あの二匹に会えて嬉しかったみたいだからね。もう少しノヴァの部屋にいれば良かったかな」

「それはそれで、ノヴァ殿下にご迷惑をおかけすることになりますから」


 リュカはすっかりアステール様の部屋に興味を引かれた様子で、あちらこちらを歩き回っている。最終的に、窓からの景色が気に入ったのか、窓際から動かなくなった。

 カーテンの中に潜り込んでいるのだが、尻尾だけが見えている。

 ご機嫌にゆらゆらと揺れていて、とても可愛かった。


「可愛い」

「本当だね。さて、私たちもお茶にしよう?」

「そうですね」


 アステール様に促され、お茶が用意された場所に行く。アステール様の部屋はノヴァ王子の部屋よりも広く、全体的に落ち着いた雰囲気がある。

 家具類なんかは年代物が多く、一点物ばかりだ。それに気づいた私は慌てて言った。


「すみません。あの、リュカはやはりキャリーケースに入れておいた方がいいのでは? 家具で爪とぎをしてしまうかも……」


 我が家でもリュカは時折そういうことをするのだ。

 爪とぎを置いていても関係ない。

 爪を研いでしまうのは猫の本能だから仕方ないけれど、さすがにアステール様の部屋でさせるわけにはいかなかった。

 青ざめる私にアステール様が言う。


「いいよ、別に。気にしないから」



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