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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
12章 無効化

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227.追憶 -特務隊入隊-

 エリートコースに入ったオレ達に待ち受けていたのは様々な講義であった。座学、組織に関する学び、新人類と旧人類について、戦術や実技試験など、学校とは異なるものを学んだ。


 特に皆が苦戦しているのは、能力の制御だった。

 エメリッヒが特に苦戦した様子は無かったため、むしろ自分が遅いものだと思っていたが、Sランクに振り分けられるような強力な能力は、大概完璧に制御できるようになるまでに1年はかかるらしい。

 ちなみにオリヴィアはそれに準じる一方で、ルイホァは半年ほど、ケイははじめから制御できたというのだからリーンハルト班は大概才能の集まりである。


 当時は、制御できない能力は奪ってしまったり、厳しい管理が敷かれたりと人権を無視するような対応もとられていたため、セルゲイのように抜け穴を使う者ももちろんいた。

 オレ達がエリートコースに参加した年からは、パウルが提案したこともあり、大幅なカリキュラム変更があった。結果から言えば、才能の無さや先のような対応によりリタイアするものや謀反を起こす者はだいぶ減ったのだ。


 後から知った話であるが、母さんはわざと能力を弱く発現することでBランクに分類されたらしい。逆に言えばそれほどに能力の精度は高く、オレがすぐにコントロールできたのは彼女の血筋が濃かったことと教え方が良かったことが大きいと聞いて、泣きそうになった。




 オレ達が実技試験を合格したのは、エリートコースに参加した翌年だった。

 実技試験の総合監督はパウル・ヨードルだった。パウルはオレ達とちょうどすれ違いでエリートコースを修了していた。修了時には、すでに教育局で成果を出しており、ちょっとした有名人だった。


「おー、ガキンチョ共、久しぶり! 生意気に講師達を跳ね除けてるらしいな!」


「うわ、パウル。」

「パウルじゃん! 元気ー?」

「あーはいはい元気元気。」


 2人がエリートコースに入った年、1番はじめに2人が負けた講師がパウルだった。

 オレはともかくエメリッヒについては殆ど傷をつけられたことがなかった。オレ自身は多少勝ったことはあるも完全に負け越している。オレのことをバケモノという奴はエメリッヒの戦いぶりを見てほしい。

 講師陣に距離を置かれるオレ達の元に訪れたのがパウルだった。


 能力は決して派手ではないが、オレ達からすればかなり衝撃的な出会いだった。

 話を聞く限りではデスクワークの人間かと思いきや、ウルツさんまではいかないものの自分たちより確実に強い相手。ちなみにエメリッヒは執拗に追いかけるようになった。



「にしても、初めて会った時からまさか1年で修了認定の実技試験までたどり着くとは……。お前らの実力は知ってるけど初めてだぜ。」

「今日こそパウルを倒して特務隊員になってみせるからな!」

「お前らバカだからまだ無理だろ。」

「オレまで飛び火させんな。」

「おー、口も悪くなって!」


 パウルは今と変わらない笑顔で笑いながら、オレ達の頭を乱雑に撫でた。その後ろでは見たことはないがパウルによく似た青年が微笑ましげにオレ達を見つめていた。


「お兄さんはパウルの兄弟?」

「おー、そうだぜ。よく分かったな!」


 フィリップと名乗った青年はパウルより一回り細く小さかった。パウルについては決して弱いというわけではないが、存外頭脳派であるためフィリップもどんなギャップがあるか分からない。

 そんなことを考えていると横にいたエメリッヒは驚くことを口にした。


「フィリップさん、知ってるよ。動画で見た。パウルと同じ能力だけど戦い方は全く違う。パウルは綿密に練られた作戦があってパワフルに戦うって感じだけど、フィリップさんは速さと力で倒す感じ。」

「へぇ、何で知ってんだ?」


 この時、フィリップは面白そうに、パウルは少し怪訝そうにエメリッヒを見ていた。


「オレ、今までの強いって言われた人たちの模擬練習の映像、全部見たから。」

「そりゃすげーな。でも何でまた?」


「オレが1番強くあるために。」



 4人の空気がピリついた。

 まさか8歳の子どもがこんな雰囲気を纏うなど誰が想像したか。

 フィリップもまた案外怖いもの知らずで笑顔のまま尋ねた。


「何でそんなに強さに拘るんだ?」

「強ければ負けない。どんな相手に対しても説得できる。戦争を終わらせることができる。それがお父さんとお母さんの願いだったから。」


 願いという名の呪縛。彼もまたそれに囚われ、歩を進めるしか道のない人間だった。

 そんな会話をしている傍らでパウルはオレの横にしゃがんで声をかけてきた。



「お前も映像見てんの?」

「オレは見てない。だってエメリッヒは訓練終わった後夜中まで見てるし。……オレが体力なくて弱いから。」

「んなわけあるか!」

「っで!」


 思い切り脳天に拳を落とされる。抗議しようと思い、顔を上げるとパウルが真剣な顔でオレを見ていた。


「ガキはまず食って動いてよく寝て身体を作らなきゃ始まらねぇ。努力が悪いこととは言わねーがそれが普通だし、いつか身を結ぶ。お前はお前のペースで強くなればいい。」

「……おう。」


 パウルはオレが理解したのを察すると嬉しそうに笑う。そして目を細めながら、フィリップと話すエメリッヒを見つめた。



「アイツは、太陽みてーなやつだな。」

「……。」

「太陽、分かるか? 表面温度は約6000℃、焼かれるどころじゃねぇ熱さを常に保っている。何にも左右されないような強さ。近くにいると焼かれそうだな!」


 パウルは冗談のつもりで言ったのだろう。でも、オレはその焦がれそうな思いが少しだけ分かった。


 オレ達が2対2で取り組んだのはパウルが考案した変則組手だった。基本何でもあり、ただしパートナー同士は1mほどの鎖で繋がれた状態で戦う。

 パウルとフィリップはさすがというコンビネーションを発揮した。オレ達も動き自体は問題なかっただろうが、エメリッヒの能力が強力すぎて屈服させたような結果だった。

 今思えば、何度も訓練の相手をしたオレでなければ危なかったのではないかと思うし、パウルも講評の時にエメリッヒにそう言った。

 だがエメリッヒはリーンとだったから、と宣った。パウルは渋っていたがフィリップは実技の観点からすれば問題ないだろうと合格を伝えた。


 ちなみにオレは能力の割にサポートが上手いとなんとも言えない褒め言葉をもらった。

 終わった後にエメリッヒがポツリと『追いつけないと思ったなら努力してくれるパートナーじゃなきゃ背中は預けたくないよな。』なんてぼやいていたから、やはり彼は周りを焦がしてしまう太陽、というのがしっくりくると思った。










 オレ達は、特務隊入隊規定に沿った12歳を満たす時にエリートコースを修了できるよう、日々訓練しつつ座学に勤しんでいた。


 この頃からエメリッヒの周りには少しずつ変化が起きていた。

 彼は基本的に訓練で一切手を抜かない。後輩に指導という形であればまた話は変わったのかもしれないが、エリートコースに通う殆どの人間が歯が立たなくなっていた。そのためどこか距離を置かれることが多くなった。

 オレは一度訓練後にエメリッヒに伝えたことがあった。



「エメリッヒ、訓練も少しは相手に合わせたら? 今後班を組むかもしれない仲間なんだから今のうちから少しは仲良くした方が……。」

「まぁそうだけど……、本気でくる相手には本気で返したいし、本気でくる気のない相手と訓練やってもな……。」


 考えとく、と言った彼はどこか寂しそうだった。


 それから彼はあまりエリートコースの履修者を相手取らなくなった。オレ以外によく相手をしてくれていたカジェタノもすでにエリートコースを修了してしまったこともあった。

 途中、能力の強力なモニカや負けず嫌いなゾエと出会った時はそれはもう嬉しそうであった。


 オレ達は11歳の年になると座学の卒業試験が受けられるようになっていたため2人で必死に勉強した。

 オレはエメリッヒよりは他の人と仲良くやっていたため、過去問の情報や勉強のコツを聞くことができていたがエメリッヒはいつも気難しげな顔をしていたため、なるべく彼の勉強の手助けをしていた。

 そこへ冷やかしか、時折ゾエとモニカが来ることがあった。


「おっ、2人揃って勉強?」

「お疲れ様です。」


「よっ。」

「よっ、じゃないわよ。目を合わせて挨拶しろ。」

「いだいっ!」


 ゾエがエメリッヒとこめかみをぐりぐりと抓る。

 ゾエは大概生意気なエメリッヒの手綱を握れる貴重な人材だった。面倒見の良さとエメリッヒを跳ね除けるほどの強気さがあったおかげかエメリッヒも実技訓練を除き彼女の方が上だと認めているらしかった。

 じゃれる2人を尻目にモニカはオレのノートを見ると垂れ目をふにゃりとさらに和らげて微笑んだ。


「偉いですね、勉強ですか?」

「そうなんだよ。オレ、戦法とか武器、物理に関しては得意なんだけどこの歴史が興味なくて覚えられねーんだ。」

「確かに。歴史は興味がないと難しいですもんね。あ、でもこの辺の新人類発生の時代からは結構覚えやすいですよ?」

「そんな進んでねーし……。」


 オレが不貞腐れて言うと、モニカとゾエはちょうど休憩中だったのか腰を下ろしてノートのまとめ方や覚え方を教えてくれた。


「ここの原初の新人類とかの記述はなかなか興味深いわよ。」

「えーと、確か初めて能力を発見された人が【植物】使いだっけ。」

「そうよ。そこからアンタ達みたいな【水】、【大地】、【雷】と自然の力を共有する人類が現れた。そして、ここからは第2世代、特異な能力者が出てきたのよ。」

「【テレポート】や【透視】、【加工】とかね。でも最も代表的なのが【Atom】。」


 何だか分かる? と言わんばかりにゾエが俺たちを見つめてくるため2人して首を捻る。

 先に答えに辿り着いたのはオレだった。


「あっ、そうだ! 原子を操る奴!」

「正解。触れずとも本人が念じれば物質の根本を変えてしまい、原子を操ることでエネルギーを生み出すこともできる最強とも呼ばれた能力。だけど、物質の構造を余すことなく理解していないと使えないから不便だったみたいね。

 ただ、その人は結婚しなかったのかその代で潰えてしまったみたいだけどね。」


 大概の能力は覚醒遺伝やはたまた似た能力が遠くのどこかで生まれたりするのだが、その能力については今でも聞かない。


「でも、そういう能力を使う人は天才なんでしょうねぇ。【加工】とか【創造】使いの人とお会いしたことがありますけど、物質の材質とかを理解していなければいけないそうなので、大変だと言っていました。」

「あの感染症センターにいる天才とかがそういう能力だったら最高だったんじゃない?」


「「天才?」」


 オレ達が尋ねるとゾエが頷いた。


「【診断】を使う研修医がいたのよ。ま、その指導をしていたアドルフさんも【分解】を操るから大概天才だと思うけど。」


 【分解】もまた、その対象の構造を理解することで能力の精度を高められるらしい。オレは聞いていたが途中からエメリッヒは白目を剥いていた。


「ま、特務隊にいたら今後ビックリ人間にはたくさん出会うわよね。」

「そうですね。ふふ、色んな方と組めると楽しそうです。」

「ま、そんなわけだから。興味がある内容があったら結びつけながら覚えるといいわよ。」

「分かった。」


 モニカとゾエはにこにこと笑いながらそんなことを話していた。オレは【Atom】とはどんな能力だったのだろうかと想像しながらも、ペンを動かしていた。




 試験はやはり歴史が再試験だった。

 正しく言えば、ゾエやモニカ、加えてパウルやカジェタノのお陰で再試験が受験可能な得点に収まったと言うのが正しいだろう。

 エメリッヒに至っては歴史以外にも何科目か再試験となっていた。エメリッヒの場合はむしろよくもまぁ器用に再試験範囲に滑り込んだなと感心するレベルだった。

 ちなみに初年度合格者に関してはオレのように再試験が幾つかある人間も少なくはないらしいが、多くは全て合格する。


 結果を携えて帰宅すると真っ先にウルツさんに正座をさせられた。なぜ成績が流出しているのか。犯人はもちろんパウルだ。



「お前達、そこになおりなさい。」

「「はい。」」


 オレ達は素直に座った。後にも先にもあんなに顔色の悪いエメリッヒは見たことがない。


「2人とも、卒業試験の点数はどういうことだ。いつ勉学を軽んじていいと私は言った?」

「「言ってません……。」」

「幸い再試験があるからいい、と考えているのではないか?」


 ウルツさんの言葉に2人揃って肩を揺らす。図星だった。

 その様子を見た彼はため息をつくとオレ達の前に座り目線を合わせてゆっくりと話す。



「なぜ勉学が必要か、分かるか?」

「……オレは実技に生きる分だけでいいと思います。」

「分かんないです。」


 エメリッヒとオレがそう答えるとウルツさんはゆっくりと教えてくれた。


「確かに戦闘に生きることを学ぶことは重要だ。学ぶことで知識を得て様々な考え方を学び、言葉を覚える。その学んだものはこの先様々な人間と出会う中で、相互理解を得るために必ず必要になる。

 エメリッヒ、人間の素晴らしい所は何だと思う?」

「しゃべること?」

「そうだな。考えて、話し、互いの理解を深め合い、歩み寄り、共に生きられることだ。」


 ウルツさんは遠い未来を見つめるように、窓の外を眩しげに見つめた。



「今は難しいが、いつか新人類と旧人類、新人類同士が歩み寄る日がくると私は信じている。その時に過去や互いを知っているのと知らないのでは話が変わる。

 再試験を受かるだけでなく、そこをしっかりと学びなおしなさい。」


 オレはこの時はなるほど、程度に納得しながら聞いていた。

 しかし、どうやら隣で聞いていたエメリッヒにとってはかなり影響力のある言葉だったらしく、じっとそのウルツさんの背中を見つめていた。

 これがまさか、致命的なものになるとはこの時は思っていなかったが。


 それからオレ達は無事試験を合格し翌年から特務隊入隊が決まった。

 ここから、初めてエメリッヒと離れる1年が訪れるのだ。

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