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二人の魔法師と五つの魔導書  作者: 手鞠 凌成
一章 戦闘訓練
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戦闘訓練その6

 そして舞台は、戻り【新緑の森】へ。


 クロネスのチームはひたすら、森の中を疾走していた。

 草木を掻き分けながら、周囲に目を光らせ【土の巨兵(ゴーレム)】が出現すれば、即座に魔術、魔法を放ち、封殺する。その繰り返しだった。


 クロネスは裾を触り、モニターの端にある数字を見詰める。そこには、制限時間まで残り一時間二〇分と表示されていた。


 すると、横から。


「なー、クロネス」


「ん?  何だ?」


 ドゴルが尋ねてきた。


「本当に今回の戦闘訓練はこれだけなのか?」


 ドゴルは何やら、この戦闘訓練に違和感があるようだった。


「と言うと?」


 ドゴルの走る速度が段々と低下していき、遂に足を止めた。それにつられ、全員の足も止まる。


 止まる前にクロネスは一瞬だけ周囲へ視線を滑らせ、【土の巨兵(ゴーレム)】がいないか警戒をする。


 僥倖か、はたまた偶然か。その姿は見当たらなかったため少しの安堵を交えつつ、身体は隣にいるドゴルの方へと向け、話を聞くことにした。


 そのドゴルはと言うと、どこか浮かない表情していた。


「俺たち、かれこれ二時間ずっと【土の巨兵(ゴーレム)】を倒してるよな?」


「う、うん。確かに・・・・でも、それが今回の訓練の目的地なんじゃないの?」


 そう質問で聞き返したのは青髪が特徴のクリスだった。


 あの集会前のクラスで、先生――ドルスが話していたことを思い出す。


 それは五時間前のこと。数日が経った影響もあり、入学式の時に感じていた新鮮さや緊張感は消えていた。代わりに、和気藹々とした(主に一人のせいだが)雰囲気がこのクラスに充満していた。


 相変わらずレスティアは男子やら女子やらに囲まれていた。そんな光景が日常の景色へと変わりはじめていた頃。


 ガラッと前のドアが開く。それと共にドルスが登場し教壇へ立つや否や、水を打ったように教室は静まり返る。小声で「後でね」「じゃあ」「また」など口々に言うと各々の席へと着いていった。


「さ、今日は待ちに待った一年初の戦闘訓練になるが・・・・伝えた通り、持ち込んでいいのはそれぞれの所有している武器と、弁当と・・・・あとは何だっけな」


 本当に忘れてしまったのか、頭を搔くドルス。すると、どこからの席から「あと、通話用の魔晶石ですよー」と明るい声がこの教室中に鳴り響き、くすくすと、微かな笑い声が皆から漏れた。・・・・クロネスを除いてはだが。


 クロネスは笑うどころかどこか、不機嫌そうにふんっと鼻を鳴らす。


「あー、そうそう魔晶石だったな。皆初めてのことで緊張しているだろうが、そんなに心配なんかしなくていいぞ。

 倒す敵は【土の巨兵(ゴーレム)】だから、気楽にいけなー。まぁ、ちょっとした仕掛けがあるだろうが、そこは柔軟に対応してくれ」


「せんせー!」


 ぴんっと真っ直ぐに腕を伸ばし、挙手したのはシュライだった。頭の横にぶら下がってきる亜麻色の髪が動きに合わせ揺れる。何やら質問があるらしい。大きい声は席が離れていても良く通る。


「なんだシュライ」


「仕掛けってなんですかー?」


「それは、自分の目て確かめろってやつだな」


「教えてくれたっていいじゃーん。先生のけち」


「ケチとはなんだケチとは! そういわれてもな、困るんだよ。先生も直前のところでしらされるからな。力になれなくって悪いな。因みに、俺はケチではないからな?」


 ――――・・・・・・。


 ――・・・・。


「――みたいなこと言ってたと思うけど」


「なんか回想(説明)が断片的だった気がするが・・・・まいいや。そっか、()()()か・・・・うむー」


 顎に手を当てドゴルは考え始めた。


「でもさクロネス! 仕掛けってもう分かったんでしょ?

 倒すと、その自分のチームが倒した分だけ、そのチームの周りに出てくる【土の巨兵(ゴーレム)】が強化されてくんだよね?」


 そうクロネスへ確かめるように口にしたのはキャロス。夕焼けのように(あか)い髪の毛は光に反射していて、光沢を生み出していた。


「あ、あー。憶測に過ぎねーがな」


「クロネスが言ってるなら絶対だから大丈夫だよ!」


 そして笑顔を浮かべた。クロネスにとってその笑顔は異様に眩しく見えた。


「なぁ、もしな?」


 と、頭の整理が着いたのかドゴルは顔を上げる。


「もし、この戦い自体が魔力を消費させるため余興だったとしたら?」


「ふーん。余興ねー・・・・説明いいか?」


 ドゴルの推理に少し興味が湧いたクロネス。ドゴルの推測は如何ほどなのか試してみたい気分にもなった。


「これ以外に、まだ仕掛け――それも最大の仕掛けがあるとして、これまでの【土の巨兵(ゴーレム)】はさっきも言ったが魔力を消費させるためひ用意された物だったとしたらどうよ。

 倒す度に強度が上がってきて、倒すのにも時間がかかる。そのためには大量の魔力をさらに消費させなければならいだろ?」


「つまり?」


 結論を促すように言う。


「つまり、大量に消費させ、この後の特大の()()()をクリアさせないようにしているとかな」


「えっ!  何それやばいじゃん!?  じゃあうち達さ見事にその策とやらにハマっちゃったじゃん!」


 ギャーギャーと慌て出し、騒ぐキャロスに呆れつつ、クロネスは制止させるように「大丈夫だ」と、強い口調で言い切る。


「まだ俺たちの魔力は枯渇してない。危険ってほど使っちゃいねーよ。そんなんで心配すんな」


「えーそーなのかなー?」


 顎に人差し指を乗せ斜めを上を仰ぐキャロスに、


「クロネス、そうなの?」


 可愛く首を傾げるクリス。そして、


「クロネス、それは確かか」


 と、確証を求めてくるドゴル。三人揃って心配そうな、それでいて不安そうな表情をクロネスへ見せてくる。


 (あー、確かにまだまだ魔力はある。だが――〕


 クロネスの目には三人の姿が映っている。しかしそれはただ単に映っている訳では無い。


 クロネスから()()三人は緑と黄緑が混ざったような霧が、その人の形に沿い、形成しているように見えているのだ。


 目線を身体の中央――丁度腹の位置の所に浮いている赤く紅い球体へと落とした。浮いているという表現は少し語弊があるかもしれない。その場所に()()のだ。


 腹部にある球体は誰でも見える訳では無い。クロネスだからこそ、視えている。


 その球体の大きさそれぞれ異なっている。


 クリスは外の表層、表面部分が濃くなっており、中央はほんのり橙色になっている。その大きさは拳一個分。


 キャロスのは全体的に赤が広がったようなになっていて、色は均一となっており。クリスの一回り大きい。


 そして、ドゴルはというと三人と比べ比較的色な大きさがあり、色も真紅に染まっている。魔力濃度、魔力容量が高いと言えよう。少なくとも薄くなっていないことは確認できた。


 クロネスはさっと目を閉じ瞼を開ける。さっきの奇妙なモヤみたいなのは何も無かったかのように消えていた。


 ふー。と短く吐く。


「お前ら心配しすぎだ。これくらいじゃ魔力は減んねーよ。安心しろ」


 そんな発言に三人は懐疑することも無く、「うん! そうだね!」「クロネスがそう言うなら、大丈夫ですね」「そうだな。クロネスが言うなら問題ないだろう」と安堵の言葉を漏らした。


(信頼されているのはありがたい。だが、俺はそんな信頼されるほどの人間じゃねー。寧ろ――)


 ちっ、と小さく舌打ちをする。それは三人には幸い聞こえてなかったのか、相変わらずの笑顔を見せた。


(今は戦闘訓練に集中力しねーと)


「とりあえずここから離れ――」


 途端、ウーーーーーーーンと巨大なサイレンが森中を駆け巡り、クロネスの言葉を遮った。いきなりの出来事にクロネスを除いた三人は、なんだなんだと、辺りに視線を向ける。


 すると、


『これより、特別ルールを追加します』


 機械的な、無機質な女の声が鳴り響いた。


『この特設訓練場、【新緑の森】の山頂にて、ある旗を用意した。その旗を取ればそのチームに最大点数(ビック・ポイント)を与える。また、ここからは個別として行動可能で、そのメンバーの一人が脱落しても、チーム全体には及ばないものとする。一人でも残っていれば、そのチームは加点対象となる』


「「「・・・・・・」」」


 数秒の沈黙。そして、


「「「うおぉぉぉぉぉぉぉーーーーっ!!!!」」」


 クリス、キャロス、ドゴルは同時に雄たけびにも似た歓喜の大声を上げる。目には闘志の炎がめらめらも燃えていた。


「ねぇ! ねぇ! 聞いた!? さっきの!?」


「あー、ばっちりこの耳で聞いたぞ!」


「聞いた聞いた! でも、全体には及ばないってなんだろー・・・・?」


「はー。要するに、俺らのチームで誰かが脱落したとしても、一人さえ生き残ってれば大丈夫って事だよ」


「へー! 凄いじゃん!?」


 はち切れんばかりに破顔する三人。冷静に考えればどうってことない内容だが、それが理解できないほど興奮しているようだった。


 それと同時に、ドゴルの推理はあながち間違ってはいなかったと思うクロネスであった。


「ねー! 早く行こうよ! こうしている家にもどこかのチームに先取りされてしまうかもしれないじゃん!」


 ぴょんぴょんと子供のように跳ね、燥ぐキャロスは爛々とした目でクロネスを見てくる。


 だが、


「おいちょっと落ち着け。本当に、こんな簡単な事だと思うか?」


 そう三人に尋ねる。確実に何か罠がある、裏があるとクロネスは感じたのだ。まず、これが当然の判断だろう。

 あんな簡単な任務(ミッション)。しかも今は訓練中だ。先生が何を狙っているのかは不明だが、少なくとも、このルール改変は甘く見ちゃいけない、楽観視してはいけない、軽率に動いてはいけないと自分の本能が訴えかけてくる。


 しかし、そんな質問にも


「大丈夫だって! クロネスがいれば何とかなるよ! 僕だってまだ活躍してないしね! ここで見せ場を作らないと!!」


 キャロスはそんな自信ありげな、余裕のある発言をした。しかも、「クロネスがいれば」という、完全に人任せにするような。キャロスはそんな事など微塵も思ってないだろうが、チームの行動にて〝人任せ〟は絶対にしてはいけないのだ。それは二人一組、三人一組、そして四人一組も例外ではない。


 必ず一人一人には役割がある。それが少しでも欠けてしまうと、もうその隊は成り立たない。

 全てにおいてバランスが必要となっており、そのバランスが崩れてしまうともう立ち直ることは不可能なのだ。癪に障ったクロネスは歯を噛み締め、怒りを出さないように耐えた。

 でも、多分戦闘――といっても模擬だが――は今回が初めてで、さらに不慣れでもあるからしょうがない。と、一人そういう考えに落ち着いた。


 ふーと息を吐き、感情を抑える。


「まずは、偵察からいこうぜ。これで行ったとして、何か罠があったら危険だろうし。とりあえずは、この場を離れ、移動しつつ山頂に向かう。これでいいか」


 そうクロネスは方針の旨を伝える。三人はこくり、こくりと頭を上下にさせた。了解の合図だろう。


「はぁー」


大きなため息をつく。そして、クロネスは先を行く。

クリス、ドゴル、キャロスはその後を追うように付いて行った。





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