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二人の魔法師と五つの魔導書  作者: 手鞠 凌成
二章 彼ら、彼女ら
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復習課題2

久々に書きました!

待たせてしまった皆様ごめんなさい!!

 日が高く昇る午後。一足先にレポート作業を終えたレスティア一行は、立ち寄ったカフェでまったりとした時間を過ごしていた。


 四人は窓際の席にそれぞれ腰を掛けると、各々に注文をする。木で作られたここのカフェはレスティアの行きつけであった。ほんのりと香る、木の自然の匂いが好きなのだ。同時に、拡散魔術と記録魔術により、店内には音楽が流れていて、皆の心を休ませる。


 そして。注文品が届いたところで、テスラの隣に座ったレスティアは紅茶の入ったコップを掲げると、一旦全体を見回した。シュライ、ケレス、テスラも自分自身のコップを掲げる。


 レスティアは一呼吸置いて、言った。


「それじゃあ、みんな、模擬試合お疲れ様。乾杯!!」


「「「かんぱーーーい!!」」」


 カチリとコップが触れ合う音を合図に。初模擬試合お疲れ様会が始まった。


 この企画を提案したのは、誰でもないレスティアからだった。というのも、自分が皆に迷惑をかけてしまったお詫び半分と、一度皆と一緒に外で食事をしてみたいという好奇心半分があったからだ。


 確かに学食でも共にしてはいるが、やはり学内と学外では勝手が違う。そもそも、レスティアは学校にいる間は常に周りに人集りが出来ていて、ゆっくり休まる暇がどこにもなかったのだ。この四人と話せる時間も、実際少ない。強いて言うなら、放課後くらいだ。


 こうして支持や人気があるのはありがたいことだけども、レスティアにとってはとても疲れる。なにせ、津波のように押し寄せる会話に都度対応しなきゃならないからだ。変なことを言って引かれるのも嫌なので、全神経を耳に集中させ、応じているのだ。


 これほど神経を摩耗することはない。


 だから、レスティア自身四人で談話する時間が欲しかったのだ。


 レスティアは大皿に盛られた色とりどりのマカロンのうち、ピンクのマカロンを掴むと口へ運んだ。


 マカロンの溶けるような程よい食感とクリームの優しい甘みが口内に充満する。そこに紅茶を流し込むと甘味が和らぎ、鼻腔に花のいい匂いが通り抜ける。


 最高の至福だった。家にいる時もよくこの組み合わせをしているのだが、やはり、ここのカフェの方が美味しく感じる。


「ん!? このマカロン美味しい!! なにこれ!?」


 シュライもどうやらご満悦のようで、目をキラキラと輝かせながらどんどんとマカロンを口へ放り込んでいた。


「シュライ、そんなに食べると喉詰まるぜ?」


 と、ケレスが呆れた目をシュライに投げかけ、心配事を口にする。


「大丈夫だって、こんなので詰まったりは……うっ、ごほっごほっ!!」


「ちょ、ちょっとシュライさん!! 大丈夫ですか!?」


 突然むせたシュライに、対面に座るテスラは一瞬動揺すると、すぐに手元にあったお茶をシュライに差し出した。


 シュライはそれを受け取り、ごくっと飲み干していく。そしてはぁーと、ため息をこぼした。


「ほーら言わんこっちゃない」


 ケレスが頬杖を突きながら、ぱくっとマフィンを摘む。最初から分かりきっていたような口振りだ。


「シュライ。そんな焦って食べなくていいからね。まだ一杯あるし」


 と、沢山積まれているマカロンに目を向けるレスティア。シュライは「にがー」と舌を出しながら、お茶をテスラの元に返す。


「やっぱシュライって子供だよなー」

「そ、そんなことないもん!! 苦いものだって食べられるもん!!」


 シュライの物言いに、レスティアとテスラは二人顔を見合わすとクスッと笑みをこぼした。


「な、なに!」


「いやー。なんか可愛いなーって。シュライ」


「は、はい。なんというか、シュライさんといると飽きませんよね」


「シュライさー。オレンジジュースばっかり飲んでいないで、紅茶とか珈琲とか嗜まないのか?」


 そのケレスの質問に、レスティアは、あーと思い至る。

 そういえば、学食で一緒にご飯を食べていた時も、オレンジジュースやりんごジュースといった、ジュース系の物しか頼んでいないことに。

 レスティアも気になり、シュライの大きい瞳を見つめた。


「だ、だって紅茶とかって苦いじゃん。それに、珈琲とかほんと無理。あれ紅茶以上に苦すぎる。人類が飲んでいいものじゃない」


「じゃああたしはその人類が飲めないもの飲めているすごい人だな!」


 そうして、ケレスは珈琲が注がれたカップと、ソーサーを綺麗な所作で手に持つと、見せつけるように啜る。

 赤毛の髪に端正な容姿、整った仕草が重なって絵画でも眺めている気分になる。


 レスティア自体も、実を言うと珈琲は苦手の部類に入る。ブラックとかは特に無理だ。砂糖やミルクを沢山投入し、苦味を軽減すればやっと飲むことが出来るくらいに。


 そのため、小さい頃から慣れ親しんでいた紅茶の方が自分の口に合っているのだ。


 シュライはぷくっと頬を膨らまし怒りを露わにすると、「いいもん! ジュースのほうが美味しいし!」

 ムキになったのか、開き直ったのか。そう言うとオレンジジュースが入ったガラスコップを両手で包み込むように持ち、口をつけた。


 シュライは感情が表に出やすいタイプなので、レスティアも眺めていて楽しかった。


 テスラは手を挙げ店員に「お茶のおかわりをお願いします」と告げる。


 ……優美な一時が、過ぎ去っていく。


「はぁーにしてもさ、みんなでこう、放課後にたべるってのもいいね!」


 シュライが空にした皿を前に、ふいに、そんな一言を放つ。


「……あぁ、本当にそうだな……」

「えぇ。そうですね」

「うん。確かにそうかも」


 それに続くように、ケレス、テスラ、レスティアが感慨深そうに頷く。


 ほんとに、そうだ。レスティアは改めて思い返す。


 自分は確かに、家系のお陰もあり人間関係には苦労しなかった。

 常に周りには人がいて、話し相手に困ることもない。


 けれどもそれは、「侯爵の娘だから」という上辺だけの理由に過ぎなかった。なにせ、今まで多くの人達と会話してきて、一度もそこには「友達、仲間」という意識はわかなかった。皆ステータスだけで判断して関わってくる──まるで、甘い角砂糖に群がる蟻そのもののように思えてならなかった。だからそれは、レスティアにとっては苦痛しかない。気持ちなどない上っ面な関係ほど、醜いものはなかった……。


 でも……と、レスティアは再度、今の「仲間」の顔をぐるりと見回す。


 ……こんな私を、彼女たちは家系とかそんなの気にせずに接してくれている………


 ぶわっと暖かい感情が胸の中に広がった。こんなにも嬉しいことはない。優しい気持ちだ。多分自分史上最高の幸せが、ここにあるんじゃないか。

 だからこそ、この大切な関係を守っていきたい……と、そう思うレスティアであった。


「ん? レスティア〜なにぼーっとしてるの?」


 ジュライは怪訝そうに、レスティアの顔を覗き込む。


「ううん。なんでもないよ? いやさ、この時間たのしいなーって、思ってただけ。できるならその、ずっとこの時を感じられたなーって」


 突如に訪れた静寂。皆の無言にレスティアは、自分なんか変なこと言ったかな……と一瞬不安になるが。


「……ああ本当にそうだよな。あたしも、この空間が好きだよ」

「はい。わたしもですよ、レスティアさん」


「えーシュライもシュライも! あ、ならさ今度の休日みんなでどっか行かない?」


「あぁっ! いいですねそれ! わたしも行きたいです!」


「おーいいなぁー。シュライもたまに、いいこと言うんだな」


「ねぇケレス! うちをなんだと思ってるの!?」


「え? 小さい子供?」


「ふ・ざ・け・る・なぁーーーーーっ!!!!」


「へっ、そういう態度とるお前が悪いんだろ?」


「うるさいやい!!」


「ほらほらシュライさん! 落ち着いてくださぁーい! 他のお客さんが見てます!!」


「ふ、ふふふふ……」


 この面白おかしい光景にレスティアは思わず、笑みが零れた。


 ──あぁ、楽しいな。


 ふと、視界に、ケレスの横顔が目に映る。いつもと変わらぬ表情……でも、なぜだろう。光で陰影が出来てるせいだろうか。なぜだかレスティアの目には、どこか翳が差しているように思えたのだった。


 ※  ※  ※  ※


 太陽が傾き、東の空から橙色が迫ってきた黄昏時。

 女子会が終わったレスティアたちは、じゃあねと解散するとそれぞれの帰路に着いた。


 そうして、ケレスが家に到着し大きな扉を開けた瞬間。勢いよく飛んできた何かが頬を掠め、パリンッと硬質なものが砕け散るような音が顔のすぐ真横で響いた。


 下を見れば、それはガラスコップだったらしく、破片が足元に散らばっている。


 ぞわっと寒気が背筋を舐め、恐怖が全身を染めた。


「おいケレス。まさかお前、あのバルディーレ家の娘と会食でもしたのか?」


 身の毛もよだつような低く、そしてどこまでも冷たい声音が心を凍りつかせる。


 恐る恐る視線を正面に移すと、そこにはケレスの父でありカロン家の領袖、グランス=レタルド=カロンが険しい表情をして目の前に立っていた。

 ケレスは小刻みに震える身体ををどうにかして抑えながら、すぐに姿勢を正し「た、ただいま帰りました。お父様」と慇懃に腰を折った。


「まさかお前が、あのロンデウス家に遅れをとるとはな……それ自体がもう甚だしいのだが……まさかの、ロンデウス家と食事までするとは。お前は私の顔に泥にでも塗るつもりなのか?」


 ドンッと肩に降り掛かかる重苦しい圧力。

 自分は、それに対応する術を持ち合わせていない。

 なにより、父を怒らせたら何をされるか分からない。

 ケレスは唾を飲み込むと、口を開いた。


「申し訳ございません、お父様。実は、彼女の弱点となるものを探しておりました」


 ──これが、ケレスがレスティアと一緒にいる最大の理由だった。


「ほう、弱点か。それで、見つかったのか?」


「いえ。まだ何も。ですが、その弱点さえ見つかれば、私は彼女──いえ、レスティアを確実に落とせます」


 ──そう、全てはこのカロン家のため。ロンデウス家を貶め、政治権を握り街を支配下に置くことが目的だ。


「ふん、そうか。ならいい。 だが、心配はするな。もう手は打ってある」


「え……」


 その父の言葉に一瞬驚き、思わず声を漏らしてしまう。さっと口を閉じると父の表情をうかがった。

 終始真顔で、感情こそ分からなかったものの、黒色の瞳の奥には妖しい光が宿っている。


 嫌な汗が首筋をなぞる。


 ……新たな暗雲が、今にも立ち込めようとしていた。

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