戦闘訓練 最終決戦5
ふっと、レスティアは目を覚ました。立ち上がろうとするとズキッ! と足腰に痛みが迸り、おもわず地面に座り込んでしまう。さきほどの衝撃で、身体にかなりのダメージを覆ったらしい。
「いててて……はっ、皆は!?」
首を振り回し、残りの三人――テスラ、シュライ、ケレスを探そうとするも。木々が邪魔して見つけることはできなかった。レスティアはすぐにみんなのパラメーラーを確認する。
――しかし、他の三人の体力はすでにゼロ。つまり――脱落だ。気絶する前に演唱した強化魔法が効を奏したのか、レスティアだけはここにいる。それでも体力ゲージはすでに残り一割を指す赤を示しており、ほぼ絶望的な状態であった。
ため息をつくと、レスティアは自分の太腿に右手を当て、呪文を唱える。
「《天使より参られよ天の祝福》」
途端に手元が淡く光だし、たちまち脚を包み込む。
光魔法【リフレイン】。いわゆる回復魔法の一種だ。
しばらくして、痛みが段々と弱まってくのを感じ、試しに動かしてみると特に異常はなかった。
ゲージも五割程度には増しなっている。
拉げ曲がった木の幹を伝い立ち上がる。……と、空中を飛び回ってる人影が視界に入った。
はっと仰ぎ見ると、そこには黒い髪にエメラルドに輝く瞳――クロネスが闇に満ちた魔術を放っているところであった。その表情はこの戦いを楽しんでいるのか、悦びに満ち溢れている。
(そうだ、私は、この戦いに勝って一位にならなきゃいけないんだ……なのに私は……)
レスティアは奥歯を噛み締め、自分の腕をぎゅっと強く握る。己の無能さに苛立ちを覚えたのだ。
さっきまでの自分の行動を思い返してみると、あまりの情けなさに呆れてしまう。もし、これをお父様に見られてしまったら――自分は、この、ロンデウス家を穢したことになるってしまうのだ。名誉あるロンデウス家を。
娘として、してはいけないことをしてしまった――と、罪悪感がレスティアに鉛のように流れ込む。
後悔が身体に重くのしかかってくる。
そして、こんな自分が許せなかった。恐怖に襲われ、咄嗟に動けなかった自分の弱さが。
今回の戦闘訓練での成績は自分の夢に近づくためでもあるが、なによりもロンデウス家の功績を見せつけるためでもあったのだ。貴族間での争いの中、その血を引き継ぐ娘として、少しでも他の貴族たちと差を付け有利にしなければならない。一歩でも先を越さなきゃならなかった。
それなのに自分は、こんな愚かな行為をしてしまった。弱者の動きを見せてしまった。知られてしまったら――お父様が悲しんでしまう。そうしたら、自分は――
怒りで震えていた身体が突然止まる。唇を噛むと、レスティアは前を見据え、ばっと駆け出した。
□ □ □ □
クロネスが頭上を取り、幾つもの攻撃を仕掛け弱点を探していると。突然目を灼くような無数の光が横合いから襲い掛かる。迫り来る光の弾に、クロネスは咄嗟に魔術を使い後ろへ避けると、【巨体神の六手】と少し離れた場所に着地した。
その無数の光は、【巨体神の六手】の堅い体に容赦なく衝突し、爆発する。
いつのまにか周囲からの攻撃も止んでいた。皆殺られてしまったのだろうか……と考えたが、クロネスにとってどうでもいい事だった。今はこの戦いに集中をしたい。だが、唐突の邪魔が入ってしまった……! その邪魔者をクロネスは睨みつけた。一体、誰がこんなことを……。
クロネスは攻撃が来た方向に目を滑らすと、月のように輝く豪奢な金髪に、透き通った空のような碧眼。レスティアがいたのだ。
クロネスは楽しみを取られた子供みたいに、叫ぶ。
「レスティア! 邪魔すんなよ!」
すると、その言葉が届いたのかレスティアは鋭い眼差しをクロネスへと送る。
「……クロネスさん……でしたね。私だって、負けられないんですよ。この戦いには。必ず勝利しなければいけないんですよ。ロンデウス家として、私はここにいるんです」
どこまでも冷たい声音がクロネスに降りかかる。
クロネスはガリッと歯噛みをすると怒りを露にした。
「俺だって、この戦いは勝たなきゃならねぇんだよ!
そして、”あの人"にお会いするだ……っ!!」
握りしめた拳が震えた。
クロネスの脳裏を過るは、惨禍に佇む一人の男。
顔こそ見た事ないが、その自分を守ってくれた後ろ姿にクロネスは憧れ、強くなればまた会うことが出来るという一心で、無我夢中に必死に努力をしてきた。
そして、ここまで成り上がってきたのだ。
それを、たかが「貴族の戒め」によって勝利を掴もうとするレスティアが許せなかった。
否、自分にとっては有り得なかった。
「貴男がどういう理由であろうが、私は譲れません。
"あの人”がなんだか言っていましたが……そんなちっぽけな理由でしないでください。私は、一位を取ります」
そうレスティアは堂々と宣言をする。静かな声音はこの戦況でさえもよく通っていた。
クロネスは”あの人"の事を侮辱されたような気がして、怒りの沸点が頂点まで上がりそうになった時、不意に後ろを誰か捕まれ、羽交い締めにされてしまう。
「おい! 誰だ!? 離せよ!」
クロネスは必死暴れるが、まるで岩にでも固定されたように固く、外せない。それどころかずるずると下がって行っている。
まだ俺にはやることが――
「落ち着けクロネス!」
耳元に低音の声が響き、鼓膜を揺らした。はっと思い見上げると、クロネスの瞳にドゴルの顔が映りこんだ。
その声を聞き、クロネスは本来の冷静さを取り戻す。
内部を焼く炎が急に冷えていく感覚がした。
戦闘していた時は、頭が冴え渡っていてどういう行動をすればいいのか、と考えなくともほぼ無意識的に反応していた。だが、それは「戦いに溺れていた」だけだった。ただ、自分の欲求を満たすために動いていたのだ。
戦闘では冷静さを失ってはいけない。
そのはずなのに、自分勝手な行動をしてしまっていた。
クロネスは自分のあらぬ失態に心の中で悪態をつきつつ、落ち着かせるためにふーと長く息を吐き出す。
「もう大丈夫だ、ドゴル」
そう言うと、ドゴルは「そうか」と解放してくれた。
クロネスは踵を返し、自分より背の高いトゴルの目を見つめる。
すると、その背後から二人の影が現れた。
クリスとキャロスだ。
「クロネス……体は平気?」
「勝手に一人で行動しないでよ!」
自分はメンバーでもある三人を心配させてしまったようだ。
申し訳なさが募り、クロネスは頭を下げ、
「ごめん! 俺が勝手な行動をとってしまって」
と謝罪をする。四人一組で協力する中で、一人でも欠けてしまうとバランスか崩れてしまうとわかっていたはずなのだ。戦闘においてそれは最悪な行為だ。お互いの協力が無いと、成立しない。
ドゴルはふっと短く息を吐くと、クロネスの肩をぽん、と叩く。
「いや、気にすんな。クロネス。おまえが生きていれば十分だ。実際に……強さで言うと、この中で一番だろうし。あとお前のおかげで生き残れたからな」
ドゴルは一瞬だけ目を後ろに遣ると、
「こいつらだけじゃ、心配だったし」
と、からかうような口調で言う。
「な、なっ、何を言うの! 僕だって頑張ったよ!
「そうだぞドゴル! ぼくも役に立ったじゃん」
「はいはい、わかったわかった」
そんな言葉のやりとりを見ていたクロネスはぷっと吹き出してしまう。
「は、はは、あははははははっ!!」
唐突の笑い声に三人は同時にクロネスの方に訝しげに目を向けた。
「いやさ、なんかどうでも良くなってきちゃって」
クロネスは目尻に浮かぶ涙を指で拭う。
たしかに自分はこの戦いどうしても勝利しなければならない。本来なら戦闘中に気を許してはいけないのだが、この時だけは、どうでもいいと、そう思ってしまったのだ。この感覚はクロネス自身もよくわかってはいない。
けれど、彼らとなら上手くやっていけそうだ……と、クロネスは感じるのであった。
読んでいただきてありがとうございます。
ほんとうに投稿は自分の気分と状況次第でかわってくるので、不定期です。(何度もすみません)
段々と白熱になってきましたねー
二人の葛藤と、勝たなきゃならない使命。それは、彼らの目標があってからこそ、進めるのです。
楽しみにしている方も多いと思いますが、戦闘訓練は多分次かその次で終わると思います。
そこ後も展開もてんこ盛りに控えてあるので、後もう少し。もう少しだけ、お待ちください。
(もしかしたら、三個目で戦闘訓練は終わるかもしれないので、いちおうご了承くださいm(_ _)m




