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1 サマリンダ・シティ

 そして世界は-。

この時代、銀河を構成する小さな恒星渦オリオン腕の一辺境星域であった太陽系を飛び出した人類は、広大な銀河系星域内の(わず)か3割、約340余の恒星系にその足跡と支配の版図(はんと)を拡大していた。

 人類はその大いなる生命の輪を星々の海に広げ行くとともに、繁栄の強き光は、漆黒の局所恒星間雲領域に新たな闘争と混沌の嵐を産み落とす。

 そう、広大な銀河系をしても、人類は自らが背負った宿命に弄ばれるがまま終わりなき攻防の果てに、愚かにも冷たい虚空へとその淡き命を果てしなく費やし続けていったのである。

 やがて、人類銀河文明の勃興に伴い幾度にも及ぶ星域間抗争を経た人類は、銀河系3分の1の到達領域における統治の姿を、七つの世界へと収斂(しゅうれん)させてゆく。


  この人類銀河文明の黎明期(れいめいき)にあって、数多(あまた)に存在した星域間国家の中でも一際(ひときわ)強大な勢力を誇っていた恒星間国家《ソル系連邦(システムズ)》、「アディリア連合星系(ユニオン)」、「外周星系連邦(フェデレーション・アウター)」の思惑は、人類銀河世界における包括的統合支配権の確立を巡り、その野望は止まる処を知らなかった。

 そして、人類銀河世界の覇権を競い勃発したこれら恒星間国家による3度に(わた)る衝突は、それぞれ「第一次、二次、第三次ウェルム戦役」と呼ばれ、約70標準星歴間にも及んだ最後の大規模な武力闘争を経た銀河人類世界は、先の3つの巨大恒星間国家と、その狭間で揺れ動く4つの星域間構成国家機構群によって、複雑なパワーバランスを形成し絶妙な均衡を保に至った。


 所謂(いわゆる)「七大世界」の誕生である。


 これら3つの巨大恒星間国家の他に、この「七大世界」を構成している多様な国家・領域統治機構等については、以下のような存在が確認されている。


 銀河系中心部スターティス・コリドール(銀河中央回廊)の広大な中立緩衝星域帯「ミドル・スターズ」に所在し、穏健な保守政治的中立を掲げ、(はん)銀河統合世界主義を唱える人類銀河文明調整機関「汎人類銀河世界統合機構(GUOO)」を(よう)した貿易資本体星系国家群【ラー・レラス共星群(コミューン)】。


 次に、旧人類世界の揺籃(ようらん)期にあった古代国家「地球連邦」を出奔(しゅっぽん)した、最後の恒星間移民船団がその発展の始祖と言われている新興国家【宰華帝国(サイカ・ヴリューガル)】。

 この一際異彩を放つ恒星系間帝国は、人類銀河世界の中でも最も新しい歴史を有し且つ最も古い強力な統制機構を保持した中央専制国家体制を執っていた。


 また、太古の人類外文明である「第Ⅶ(セブンス)文明」の残滓(ざんし)との劇的な接触を経て、その人類外文明が保有していた高等魔法(超越科学)文明を吸収融合させた「異質同位理論」によって()べられる情報統制複合体【中央構造同異帯(セントラルソサエティ)】。


 そして、今だ人類銀河世界文明と敵対し、(ある)いは、その接触を自ら拒絶し隠棲(いんせい)し続ける未知なる人類外文明を有する【列強宙属諸領界(オルターナティヴ)】を加えた4つの世界が存在していた。

隔して、絶妙なバランスの基に均衡した人類銀河世界は、(つか)の間の「大いなる安息の時代(ミレナリヲ)」を享受していたのである。


 ここ、ソル系連邦リティラトゥール星域第4惑星シルファードの低緯度地域にある【サマリンダ・シティ】には、ソル系連邦中央情報調査局=SIDの本部が設置されており、人類統治星域の動向を広くその監視下に治めていた。


 SDIの任務は、人類銀河世界に於けるソル系連邦の活動版図の拡大と防衛。

 そして、その存在を阻害し脅かすであろう全ての因子を発見する為、秘匿諜報活動を含んだあらゆる方策にて徹底したリサーチを行い、時としてソル系連邦最高執政機関「星域統制最高評議会」の勅命ちょくめいにより危険因子の完全排除・消滅に至らせる事を使命としていた。


 その本拠機能をつかさどるソル系連邦中央情報調査局SID本部は、白亜にそびえる四本の巨大な尖塔状オベリスク型複合構造物で構成されており、その独創的な外観から「サマリンダ・テトラヘッズ」と呼ばれている。


 明利メイリ・レイルズは今、その一つオベリスクタワー「テトラヘッズ・NWノースウェストタワー」の上層階、海辺に面する位置にある606分室の透過した外壁から、そっと下方に広がる海原を覗き込んでいた。

 はるか眼下に広がる【サマリンダ・シティ】の遠浅な海には、白い帆を掲げた小さな海洋ヨットの群れが穏やかな水面に白い航跡を残して漂っている。

 其処そこには何とも穏やかな一日があり、明利はしばしの間その優雅な光景をうらやましげに見つめ続ける。


 彼の前では、満面に笑みを湛えた如何にも中間管理職らしき風情ふぜいをした、穏やかで癒し系の中年男性によるスピーチが営々えいえいと続けられていた。



 「・・・いやいや、と云う訳で本日この優秀なる、ソル系連邦統合軍情報局=MIDの軍属であったレイルズ君が転籍され、この606分室に着任してくれた訳です。本当に先ずは皆さんおめでとう。本当にこれからの606分室所管の領域リサーチ能力が、皆さんのオペレーション遂行力が補完された訳で、本当に先ずは目出度めでたい。な、訳で、皆さん本当によろしく。以降、レイルズ君も頑張ってくれたまえよ、大いに期待しています。そんな訳で、本当に今後皆さん方の一層の業績遂行向上と頑張りを期待すると共に、益々のご活躍とご健勝を祈念していますよ」



 さも人の良さそうなハーヴィー・ビューロ・パコフスキー星域統制調査部長のフォロ・ビジョンは、そう言い残して消えると、その余韻を残す間もなくだだっ広い606分室の中はたちまにぎやかになった。



 「ふぅ。マッコード統括官、今日もまた一段と見事でしたね。パコフスキー部長の「本当に、な訳で」訓示シリーズは」


 「よろしいんじゃなくて、フェナリィ専任分析主監。「本当に、うれしい訳」なんだから」



 柔らかで、それでいてりんとした響きを含んだ声を聞いたアリュナールがクスッと微笑ほほえんだ。

 その声の主、この606分室を統率する星域調査部統括官ティアス・マッコード室長は、ゆっくりとアルのそばから離れると、優雅な振る舞いで統括官用デスクに座った。

 そして、スラリと美しく伸びた足を組み替えながら、片手でその神々(こうごう)しいまでに白銀色をした巻き髪をくゆらしつつ、明利メイリの転籍辞令受託承認を求めるヴィジテロップに自らの署名を加える。



 「転籍着任、暫定承認、いでーす」


 「マッコード統括官、意見具申です。何で彼の着任式しないんですか?」

 

 

 ティアスのデスクの前では、瑠璃色の瞳を輝かせた女性が勇ましくも仁王立ちして、勢い彼女に向かって不満そうに不服を申し立てて来た。

 そのボーイッシュで赤銅色にも似た紅いショートカットの髪は、筋肉質の引き締まった彼女の身体からだに相俟って、とても好く映えている。



 「こいつ遭難して?遅刻して?挙句の果てには、フェナリィ専任分析主監が迎えに行ったって言うじゃありませんか!!一体何様なの君は?ああん?」



 彼女はついでにとでも言わんばかりに、ティアのデスクのやや後方に立っていた明利に向かって、キッと睨むような眼差しを射かけてきた。

 彼女の眼には、あからさまに「フン。軍人上がりのガサツなド素人が」と半ばさげすむ様な意識が見て取れる気がする。

 明利は思った。



 (彼女は、やっぱり不満そう・・・)


 「レイルズ調査官、彼女は、伽罹那カリナ・ローゼンバルト専任調査官。で、当室の主席宙航師を担当している。航宙操艦の腕前は、ピカ一よ」


 「明利・レイルズです。宜しくお願いします」


 「フン・・・何者ンなんだぁ?」



 然も疑う様に瑠璃色の瞳を半開きにしたまま、明利の様子を窺う伽罹那に向かって、マッコード統括官はメンバーの紹介がてら、ちらりと明利に目配せしつつ彼女の問いに淡々と答える。



 「ローゼンバルト専任調査官。彼の場合は、単に配属赴任途上のイレギュラー、偶発的事故遭遇扱いとなっている。フェナリィ専任分析主監のお迎えは、異動赴任旅行時におけるイレギュラー対処を履行したものだ。なので、人事管理規程第13条21項の別記附録第6表に補足記載された《その他、上記各項これら非常時に類する対応云々うんぬん》による室長所掌職務代行権限の執行範囲内に於ける正当処置のもの。・・・で、彼は新任の明利メイリ・レイルズ調査官だ。それ以上の何者でもないぞ」 



 ローゼンバルト専任調査官は、それでも白々しそうに明利に向けて、疑念の籠った視線を送っている。

 彼女の刺すような視線を受け、アウェー感一杯に浸りながらも明利は思った。

 先程のマッコード統括官が発した言葉にも有ったが、転籍だからなのか今更ながら《新任》扱いの身分だそうだ。



 (MIDとは縄張りも違うし、手法も処理スキームに至るまで違って当然だ。判っちゃいるが、こっちの方がやや不満だ。さて、とは言っても・・・切り替える必要があるのはこっちの方か・・・)


 「でぇー?君ぃ新任訓練何時行くのゥー?」

 

 「ちょ、ちょっと。んんっ、もう!!二人とも、近いのは駄目ですよ!近いのは!」


 「居住区何処なのゥー?彼女いるのゥー?」



 伽罹那に続いてはXX双生体クローンなのだろうか、瓜二つの身体特性を持つ女性二人が、明利の横に居たアルを半ば無理やり押し退けて、息もぴったり質問をハモらせながら同じようなモーションステップで近づいて来る。


 「ほほう、なかなかいいのゥー」


 「こりゃ、面白そうだよのゥー」


 (へぇ、繊細なティスト・ドールの様な妖しくも美しい人達だなぁ)



 明利がそう惹き付けられている間もなく、二人は彼の懐へと一気に間合いを詰める。

 清々しいまでの香りを振り撒き、肩元まで伸ばした金色の髪をサラりとなびかせながら、それとは対照的に神秘的で静かに翡翠色ひすいに光る四つの瞳が、好奇心一杯のキラキラを輝かせ彼の眼前へと更に擦寄すりよった。



 「はい、向かって右、テミア・ランドゥール専任調査官。で、当室の作戦担当主監をしている。同左、ラミア・ランドゥール専任分析官。で、作戦担当補佐役だ。ナチュラルの双生体で、量子力学的共時性現象シンクロニシティを巧みに操った相対撃滅戦の腕前はピカ一。でぇ、二人セット時の呼び名は面倒なので、一括して《双生神アシュヴィン》と称している」


「「宜しくどうぞゥー」」



 綺麗にハモった二人の声を聴いたマッコード統括官の声は、何故だか次第にやや投げやりっぽく、面倒くさそうに答え始めたのが見て取れた。



 「双星神アシュヴィン、彼の新任訓練は特例免除措置よ。人財開発規程第126条並び転籍及び中途採用時能力開発訓練手続第11条11項による所謂いわゆる《同種同業態他企業体からの引き抜き》(リクルート)の適用対象だ」



 彼女は声を次第にイラつかせながら、双生神のり出すであろう余計な質問攻めの口火を見事に先制する。



 「彼の住処すみかは、サマリンダ市街ハイ・ガルフ・フロアの徴用コンパートメントを専用官舎として当面の間、借上かりあげ供与だ・・・彼女だと?フン!知るか!また変なちょっかい出すなよ、以下不問。以上」



 当然威圧の籠められた彼女の声にも臆する事無く、双星神は一気に明利の眼前に迫って来た。

 四つのキラキラ眼に、微に入り細に入り殊更慎重に品定めをされながら、ついでに付け加えて明利は思った。

 


 (どっちがどっちだか??見分けがつかず全くもって不満だぞ??それにしても・・・近い近い近ーい、ちょっと顔、近いぞっと)


 「よ・宜しく、お・願い・・・します。ハハハハ」


 「「ふぅん・そうなのかもゥー」」

 


 ヒクツいた笑顔を見せて戸惑う明利に対し、臆面もなく彼の顔面すれすれまで接近した双星神は、そうハモらせた途端、スッと踵を翻すと皮肉っぽい微笑みを残して彼の前から交互に退いて行った。



 「やるゥー、特例判定でハイ・ガルフのコンパメ住むんだぞゥー。ミディ=クラスって事は、幹部候補な訳?ねえねえラミア専任分析官、私MIDって暗くって嫌だわよゥー。そんでもって破壊屋こわしやさん多いって聞くし~特別待遇の適用反対~」


 「解かるゥー、テミア専任調査官、MIDってガサツで見境ない奴いっぱいいるよゥー。私も嫌なのよねー。でも、稀にイケ男も居るってさ。うふ、うふ、私暗めのマッチョは好きかもゥー。でも、そんでもっても、特別待遇の適用反対~」


 「「絶対反対~!!」」



 最後の主張部は、双星神アシュヴィンによる見事な二重唱となっていた。



 「室長。自分も反対です!やはり、正式に着任式を執り行うよう具申いたします!」



 双生神アシュヴィン口頭こうとう戦術に輪をかけて、再び伽罹那がティアスに追いすがる。



 「ええいやかましいわ!!用は済んだので、これにて全員解散だ!解~散ー!解散!」



 冷たく放ったマッコード統括官の一括は、忽ち周囲をえさせると、エスカレートする明利の着任式論争等に終止符を打った。



 「ごめんなさいね。レイルズ調査官。皆一頻り興味を感じている様だわ?」



 彼の不満を見て取ったのか、すまなさそうにアルが小声で囁く。



 「いえ、構いませんよ。逆に興味を持っていただき感謝します」


 「そう、それは良かったな。さて、これで貴職は当606分室への暫定制式任用配属決定となった訳だ、ようこそ歓迎するわ。レイルズ調査官!!」


 

 マッコード統括官は、その吸い込まれそうな藍色の瞳でしっかりと明利を見据えながら、一際優雅な仕草で彼の前に手を差し伸べ握手を求めた。



 「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 

 握り返した明利のてのひらを伝って、柔らかで、白く透き通るような彼女の手からは、強い意志を帯びた確かな力が伝わってくる。



 「これ以外のメンバーも紹介したいのだけど、諸事情あってね。後ほど機会を設けさせるので了知置きを。なお、レイルズ調査官は当面、フェナリィ専任分析主監を補佐するように。彼女は当室の各種管制情報系担当で、私の次席副室長心得こころえでもあるわ。と、言っても逆に君は、彼女にお世話してもらうんだけどね」



 「ラジャーでーす。再び宜しく。レイルズ調査官」



 アルが彼に向かってニッコリと微笑みかけると、たちまち明利は軽快で明るい音楽にでも包まれたかのような清々(すがすが)しい気分にひたっていた。


 とは言え、他にも姿がないメンバーが存在して居たとは意外だった。


 確かにMIDデータプールの最新インナーリサーチ・フォルダーによれば、606分室の構成メンバーは、マッコード室長他5名であるとはっきり記録されている。

 それ以外のメンバー等は一切記録に無く、今のところ自分の他に出向でもしている上位役職者がいるのだろうか、と彼はいぶかしむ。



 「それから、君の事はアーノルド・クラファードSID局長から直接聞いてているぞ。彼、以外と心配そうにしてたわよ?」



 小声で悪戯いたずらっぽく笑いながらも、マッコード統括官の瞳には相手を詳細に解析すような研ぎ澄まされた輝きを宿していた。

 

 明利は彼の全てを見透かされている様に、まるで全身完全生体スキャニングにでも曝されているかの様な異様な気分を覚える。



 「・・・はぁ。アーノルド叔父おじさん、いえ、クラファード局長とは父方3代前の遠い血縁関係で、単なる遠戚なだけですから。ただそれだけです」


 (レイルズの家系が、ここでも重くし掛かるのか)


 明利の心には、持って行き場の無い瀬無せなさがつのり、此処ここでも父の影響の強さを再び思い知らされる。

 すると、それまで大人しく聞き耳を立てていた双生神アシュヴィンが、ここぞとばかりに囃子はやし始めた。



 「エー?局長の遠戚なのゥー。だぁ・かぁ・らぁー、テミア専任調査官。やっぱりこいつゥー特別待遇適用族なんだぁよゥー。つまんないのゥー」


 「一体何時からSIDも縁故えんこコネ至上主義なったのかのゥー、ラミア専任分析官。やっだよゥー、こいつゥー《特別待遇適用調査官》と呼んじゃおゥー」



 暇を持て余していた伽罹那が、その言葉に即応しニヤケた顔を上げて双星神アシュヴィンに鋭い突っ込みを開始する。



 「そう言うあんた等双星神も、見事に親コネ遣ったんじゃないのかぃ?ソル系連邦最高評議会議員連盟代表で、おまけに太圏航路統制管理諮問委員会ランドゥール機構委員長閣下の全面的七光ってか?あーあ親の顔が見てみたいねぇ、あっ、この前の政府広報に映ってたっけかぁ?だっはははは、すまない。見てたか、すまないねぇ、ダーっハハハハハ」

 

 「にゃ~にぃおゥー。伽罹那ぁ!!イてまうぞゥー」


 「何たる侮辱ぶじょくゥー。その物言い直ちに撤回しろゥー」


 「でないと、政り事にかかわっちゃうぞゥー。今は無きレテューサ皇国ぶわんずゎあぃ!」


 「そうだぁヘイトるぞゥー。打倒ローゼンバルト家独裁軍事帝国主義者めぇい」


 「おのれぃ、ポンコツ双星神めが!!」


 「いいから、いいから」


 「「「さぁ、かかってこい」」」



 最後の明確な宣戦布告は、軽やかな双星神のソプラノと伽罹那の重底音領域から唸り揚げるアルトも加わって、見事な美しき三重唱が奏でられていた。



 「・・・さてと、レイルズ専任調査官。後は好きにしてもらっていいわ、MIDと違って、此処はとぉってもぉ自由よぉ。私は、そうねぇ、ちょっと、そうそう・・・人事部へ行って来なくちゃね。フェナリィ専任分析主監、これから彼のお世話を宜しくお願いよ」



 マッコード統括官はそう言うと、呆然と立ちすくむ明利を残して軽く掌をひらひらと振りながら一人颯爽さっそうと部屋を出て行く。


 ティアスの後ろ姿を見送りながら、苦笑いを浮かべうなずき返すアルの様子からは、マッコード統括官がしばらくの間、此処に帰るつもりが無いらしい事を容易に想像できた。

 そして今、訳の解からない不条理且つ不毛なる「親の七光論争」の戦闘開始を告げるゴングが威勢よく鳴り響くと、それが明利・レイルズの新着任を奏でるファンファーレとなって後々まで語り伝えられる事となるのだろう。



 「自己紹介は・・・ふぅ。もう要らないよなぁ」



 明利は溜息をつく間もなく、勢い双星神と伽罹那の舌禍に巻き込まれてゆく。

 それは、ソル系連邦中央情報調査局=SID星域統制部調査第6課606分室、別名コールネーム特殊諜報活動分室【スペシャリティ・コマンドSC☆606】の片鱗を、ホンの少しばかり垣間見せた一瞬でもあった。


 さあ、ここからこの物語の幕が上がる。

 人と未来の星々が奏でる蒼茫そうぼうたる叙事詩を、これから語り始めるとしよう。

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