敵は集まった
アールド=ガードナーの自慢は二つある。
もちろん二つどころではなく自慢できる点は無数にあるのだが、謙虚な己は二つだけに絞って人に語ることにしていた。
一つは、小さな頃から村で天才と呼ばれた槍の腕前。
そもそも武器を使わずとも同い年の子供に負けたことはないし、三つ年上のディガンにも果敢に立ち向かった。
十五の時には惜しまれつつもボーニア領の兵となり、毎日の職務を忠実にこなしてきた。
あれから十年、今では兵士長と呼ばれ、部下から慕われている。
長と名はついたが、今も戦場の第一線で活躍し、多大な戦火を挙げている。
まあこの間制圧した宿場については、無血開城であり、駅としての機能が必要となるため特に実入りはなかったのだが。
ボーニア様が戦争に勝利された暁には、きっと己にも功績に見合った立派な報酬があるのだろう。
なんせ自分は一番槍であるのだから、ひょっとしたらいきなり貴族になってしまうかもしれない。
夢が膨らみまくりだ。
◇
飛来する矢を、落ち着いて盾で受け。
接近した兵士から突き出された槍は、盾で軽くはらう。
避けるに難なき攻撃ではあったが、自分の役割は盾だ。下手にかわして後ろの二人を危険に晒すわけにはいかない。
二合、三合と突き出される槍を、まるで槍の練習であるかの如く危なげなく受けていく。
不思議なほどに体が軽く、敵の攻撃が良く見えて感じられ。
およそ、負けるとか窮地に陥る気がしなかった。
一人では埒があかないと思われたか、あるいは後ろの二人を狙うためか。敵がさらに近づいてくる。
転んでいたマーリィは、由梨に手を引かれようやく立ち上がり。怪我はないようで、どうするのかツバサを伺う。
(人間相手にでも効くのかな?)
一瞬悩むが、悩んだところで意味などない。
やってみるだけだ。それで駄目なら、次を考えればいい。
一度、突き出された槍を大きく押し返して距離を取り。
「あ、あの、ツバサ?」
近くにいたマーリィの後ろに素早く回り込むと、困惑するマーリィを無視して叫ぶ。。
「女にもてないブ男どもめ、かかってくるがいい!
ブサイクどもの相手など、オレ一人で十分だ!」
無数の兵士の見守る中、声高に宣言して。
連中からよく見えるように、両手の指を、マーリィのたっぷり膨らんだ胸に食い込ませた。
そう、指が食い込んだのだ。
夢と希望がいっぱいに詰まった、大きく膨らんだマーリィのおっぱい。
器用に皮鎧をずらして鷲掴む、指が埋もれて沈みこむ柔らかさ。
動かす手指にあわせていやらしく形を変え、どこまでも心と体を楽しませる。
頭と心から全てが消し飛び、魂の全てが手と指に集中した。
いやもう、このままここで―――
その瞬間、見える範囲全てから一斉に激しい怒気が、闘志が、殺意が立ち上った!
可視化されているかの如き強烈な怒りのオーラが、ツバサに迫る。
「きゃあああっ、えっち!」
「おにぃちゃんしけい!」
怒りのオーラがツバサに迫る、その前に。
二人のエルフの怒りが、不埒者に突き刺さったのであった―――
風向きの村を旅立った三人。
一人は、平和ボケした日本から来た、こっちの常識を知らない現代人。
一人は、村を出たことのない、意外とよく転ぶ箱入りエルフ。
そしてもう一人は、他の二人の半分程度しか身長のない、まだまだ小さな幼女。
およそ、旅に出るとは思えない組み合わせの旅人達の道のりは、予想通り難航を極めた。
まず、村を出るまでに半日。
村を出てから数刻もせずに由梨は眠り、ツバサが背負い。
由梨の手を離したら、今度はマーリィが転ぶころぶ。
石につまづき、木の根につまづき、枝に髪を取られて立ち往生し。
お前エルフか、と思わずツバサが突っ込んだ程であった。
仕方なく髪を下ろして束ねたら、今度は由梨が起き出してトイレと騒ぎ。
「おにいちゃんにみられながらするなんて、さいしょからぷれいがはげしいの」
いつもの戯言に、マーリィが怒り出してお説教タイム。
初日は、そんな感じで終わった。
きっとテルスなら、1時間もあれば村に戻れるぐらいの距離しか進めなかった。
そんな調子だったので、歩みは遅々として進まず。
途中、迷いの森がどうとか、無限ループがどうとか言い出したのも、仕方ないことであろう。
残りの食料の問題もあるし、森に詳しいはずのエルフがあの有り様であったのだから。
四日目の昼食時、ふらりと現れたスフィ。
どこから来たのかとか、何をしていたのかなど何も答えずに。
水晶玉を取り出し、いつもの調子で告げる。
「汝の運勢は小吉だな。
女難の相も出ておる。母と娘に振り回されることがありそうだ、注意するがよい」
「もう振り回されてるよ!」
基本、役に立たなかった。
そういうわけで、二日程度で出れると言われたのに、森を出るまで五日もかかったのだ。
その間、魔物にも2回遭遇している。
結果として衛士のスキルの扱いに慣れたのは、良かったのかどうか。
気が付いたら居なかったスフィはさておき、森を出た3人。
街道を目指し、とりあえず南西へ向かって歩くこと1時間程か。
由梨が疲れてうつらうつらし始めた頃、少し高い丘に上がったところでそれが目に入ったのだ。
街道らしき道を進む兵士の軍。ざっと見て、百では済まないであろう男たち。
歩兵の他、馬に引かれた大八車に大砲を積んだようなものもあり。
まさしく戦の準備ですと言った男たちと目が合ったのだった。
こちらが挨拶をするより早く、兵士たちの中で挙がる声。
歩兵の一部がツバサ達に向かって走って来るのを見て、咄嗟に逆方向へ走り出す三人。
しかしツバサが由梨を抱え上げようとした所でいつも通りマーリィが転び。
やむなく戦闘態勢を整え、冒頭の状況へ至るというわけだ。
「あんな美人に、殺す!」
「羨ま、妬ま、死ね、死ね!」
「全魔力注ぎ込んでもコロス!」
「リア充死ね!」
「殺す!」
「死ね!」
(この世界にも、リア充って言葉があるんだなぁ)
「わたしも、おにぃちゃん、しねっておもう」
「私もです、人前であんなこと、もう信じられません!」
「ひとまえじゃなければ、いいの?」
「駄目です!」
(集敵、人間相手にも完璧なんだなぁ)
敵から味方から、殺すと死ねの大合唱。
そんなものを受け、落ち込みそうな心が現実逃避する。
集敵。読んで字の如く、敵を集める衛士のスキルだ。
本来このスキルには二通りの経路があるのだが、そんなことは分からず。
ジョブを得もせず、伝え聞いた情報と的確な状況判断(という名の神経逆撫で)だけでこなしたツバサは、果たして天才なのだろうか。
その答えは、大精霊か男たちのみぞ知る、かもしれなかった。
ともあれ、ツバサの投げた小さな|怒り(嫉妬)の火種は、劫火となって軍を包み込み。
統率も連携も巻き添えも考えず、全軍が一斉にツバサ目掛けて動き出したのであった。
「とりあえず、逃げる!」
「変態です、もうお嫁にいけません!」
「おにぃちゃんに、せきにんとれとか、ゆるさないからね!」
踵を返して走り出す、三者三様の叫び。
ツバサに手を引かれ、赤い顔のまま走るマーリィ。
背負われたまま、後頭部の髪をむしる由梨。
そんな二人と軍団の怒りを浴びつつ、ひた走るツバサ。
「わたしたちの、ぼうけんは、まだはじまったばかりだ!」
「打ち切るんじゃねぇぇっ!」
二日の行程を、たっぷり五日かけて森を抜けた3.5人。
そんな彼らを待っていたのは、戦の準備を整えた歩兵の皆さんであった。
怒りの炎に燃える彼らと仲間から、果たしてツバサは逃げおおせるのか?
次回『アールド=ガードナーは戦った』
―――わたしたちのぼうけんは、まだはじまったばかりだ!
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第二章、開幕でございます。
お待ちくださった方はありがとうございます。
また、幕間2話をご覧下さった方々もありがとうございました。
一章より面白くなるよう、色々考えつつ頑張りたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。




