表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第一章 妹幼女の白パンはオムツでした
36/62

幕間 エルフの村の長と子と

 風向きの村の朝は早い。


 農業に従事するものを中心に、日の出の頃から家を出て働き始める。

 見回りを行うものは今日のルートを確認し、森の警備と天の影探し。

 小さな集落では子供も老人も別なく、皆がそれぞれの役割を果たす。



 この村に訪れた人間と二人のエルフが旅立ってから、すでに二週間以上が過ぎ。

 月が替わって一週間、今日は神託の日であった。

 神託用の衣を着こんだオーワンは、村はずれの小さな祠へと向かった。


「何が出るのだろうな」


 小さく呟く声を聞く者は居ない。

 それを分かっているからこそ、ため息をついた。


「我が勤めは、大精霊の意思を皆に届けるのみ、か……」


 先月までは付き添ってくれていたが、もうこの村に娘は居ないのだ。

 そんな事実を噛みしめ、村から見える森を、その上の月を一度見上げて。

 オーワンは祠の中に足を踏み入れた。



 祠、と言っても大したものではない。

 彼の身長では真っ直ぐに身体を横たえることもできない、正方形の狭い空間。

 高さだって、彼の身長では頭がぶつかってしまう。


 その狭い空間の中央に座し、目を閉じる。


「リーファディオル様よ」


 神託。

 大精霊との対話を行う、特別なスキルだ。

 大精霊の加護の特に強い者、大精霊自身に選ばれた者のみが有する、特殊能力。

 この村でリーファディオルと対話できるのは、オーワンしかいない。


「我らの道行きを示したまえ」




 リーファディオルの語った内容は、概ねオーワンの予想通りであった。

 毎月必ず語られていた天の影の場所に関する情報も、今月に限って言えばない。


「当然だな」


 もう、不要となるのだから。




 村人たちを集めたオーワンは、神託の内容を告げた。

 集まったエルフ達は、ある者は喜び、ある者はため息をつき、またある者は肩を落とした。

 それでも、異を唱える者は誰一人としていない。

 それは、約束されていた『終わり』なのだから。




「感慨深い、ですか?」


 夕食の場で、静かにテルスが問う。

 マーリィ達が旅立ってから、彼はオーワンと共に暮らしている。


「そうだな。

 もう百五十年近く暮らしているのだ、思う所は色々あるさ」


 百五十年。

 オーワン達、風向きの第一世代がこの地に村を作ってから、長い長い時間が過ぎた。


「旅を終えたのちから今日まで、この地で暮らしてきた。

 二人の妻に先立たれ、娘に旅立たれながらな」

「すみません、残ったのが私だけで」

「ははは、何を謝ることがある」


 オーワンは、ぐいと酒を呷ると


「息子と差し向かいで飲む酒も、良いものよ」

「ありがとうございます」


 頭を下げる息子に向け、瓶を差し出した。

 杯で受け、父と同じように呷る。緑の前髪を揺らし、ふうと一息ついた。


「お前の事だって、ずっとこの村に縛り付けて申し訳ないと思っている」

「私が自分で選んだ道です。

 二人の母にも、父と異母妹いもうとの世話を頼まれましたから」

「そうだな。

 あれらも、お前以上に心配性だったからな」


 オーワンの二人の妻は、いずれもエルフではなかった。

 彼女らにとって、百五十年もの時間は共に過ごせる長さではなかったのだ。


 それでも。

 寿命の違いを知った上で、彼女たちはオーワンと共にあることを選んだのだから。

 悲しむのは、彼女らの気持ちに失礼だ。そうオーワンは笑っていた。


 笑いながら、二人の妻が眠りについた後は、エルフの血を濃く引いた二人の子供と共に。

 英雄としての生活を辞退し、平和になった世界に背を向けて。

 平和がいつか崩れる日のために、隠居生活を続けた。


「百五十年、か……

 老いるわけだな、私も。もう昔のような無茶はできんよ」

「それでも長は、我らエルフの英雄であり、まごうことなき最強の一人かと」

「そろそろ追い越して欲しいものだがな」


 笑いながら言う父親に、息子は表情を変えずに酒を注いだ。


 オーワンは村人に、戦いの中で自分も気絶していたと告げた。

 だがテルスには、それは偽りだと分かっている。

 オーワンの実力ならば、たかだか蝕天の主程度に気絶させられるはずがないのだ。

 天の影二つ分の敵をまとめて一人で相手取ったとしても、片手間で危なげなく粉砕できるだろう。

 それくらい、オーワンの強さは桁違いなのだから。


「弓の腕以外で、勝てる気はしません。まだまだ修行が足りないかと」


 それでも、弓の腕だけならば、負けていないと。

 冷静でありつつも強気な息子の言葉に、父親はにやりと笑う。


「そうかもしれんが、あまり悠長なことも言ってられないからな。

 戻ったら、真面目に後進の育成に取り組むとするか」

「お手柔らかにお願いします」


 毎日ぼろぼろになり悲鳴を上げながら、それでも突っ込み続けた人間の青年を思い出し。

 テルスにしては珍しく、小さく苦笑してみせた。


「ツバサにした程度で」

「ツバサくんか……」


 息子の出した名前に、父親も似たような表情を浮かべる。

 一月前に姿を現した、異界の旅人。

 娘と孫を連れて旅立った、人間。


異母妹いもうとと姪を連れて行った彼を、恨んでいるか?」

「……娘と孫を連れて行かれた長ほどではないと思っております」

「はっはっは、その通りかもしれんな」


 思わぬ切り返しに笑い、杯の中身を干し。


「伝承であり、神託であり、運命であろうとも。

 納得したり喜べるものではない―――などと言うと、頭の固い年寄り連中にまた怒鳴られてしまうな」

「お察し致します」


 伝承も神託も、いずれもリーファディオルよりもたらされたもの。

 それに異を唱えるなど、森の民としてけしてあってはならない。

 大精霊は絶対であるのだから。


「こんなことばかり言っている私が帰ったら、年寄り連中の寿命がまた縮んでしまうな」


 楽しそうに言う父親に、眉をひそめると少し言葉を探し。


「それでも我らは、長が居たからこそ救われているのです。

 悠久の時間が少し縮む程度であれば、我慢いただいても良いかと」


 伝え聞くのみの過去の出来事に想いを馳せ。

 息子は父親を、小さく誇った。


「そうだな、文句や嫌味を言われたらテルスに任せるとしよう」

「力の及ぶ範囲で」



 その夜は男二人で、遅くまで飲み交わした。


 いつ以来だろう?

 初めてかもしれないな。

 そんなことを話しながら。


 娘が、異母妹が居ないことを少し寂しく思いながら。

 この村で過ごした日々との別れを、やはり寂しく思いながら―――




 神託から一週間。

 大精霊リーファディオルの力―――あるいは、異界の旅人ツバサの力で開かれた、門を通り。

 風向きの村で暮らしていたエルフ達全員が、村を去った。


 こうして、百五十年という小さな村の短い歴史に。

 静かに静かに、幕が下ろされたのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ