鼻先をくすぐる懐かしい香りが導く想い
この物語は
刻の檻刀シリーズ第二弾
偽りのsânge ー赤き薔薇が示すものー の外伝です。
吸血鬼だった頃のロワールの話になります。
全7話。お楽しみに。
俺は今、妹ミリアナの魂を持ったまま現代に転生している輝夜の家で居候という立場にいる。
あいつらのお陰で俺は永遠の苦しみから解き放たれた…。
「……………。なに?どうしたの?ロワール。」
俺の視線に気付き、声を掛けてくる。相変わらず勘のいいやつだ。
「いや?ちょっと思い出していてな。…。お前、たまには〝お兄様〟って呼んでみてくれないか。」
「は?馬鹿なこと言ってないで、どっか部屋探して来いっ!」
輝夜俺には容赦なく物を言う。
「ハハハッツ!」
俺は朝から大笑いをした。
最近はずっとこうだ。あの暗く冷たい月日が嘘だったかのように、俺は今、平穏に暮らせている。
「ほら、輝夜。そろそろ学校行くぞ!?」
アイツはちょっと気にくわん。俺を見て何やらライバル意識を持っているようだが、そもそも、俺は妹相手にそんな気はない。本当にヤキモチやきだな。
「こら、ロワール!お前も学校あんだろ?何呑気に読書してんだよ?」
おっと。そう言えば俺は17歳から歳が止まっていたんだった。
ここの世界ではどうやら高校2年という部類になるらしい。ま、この世界で生きるんだから仕方ないな。
俺は重い腰を上げて「学校」とやらに行く用意をする。
「制服着てるのに、まだ準備してなかったの?もう、ロワールってば、まだここの生活馴染めてないのかしら…。」
「そんなの、輝夜が心配することねぇ。」
「ん?それはヤキモチですか?」
「チッ、違わぁー!」
やれやれ、アイツら二人揃うとうるさくてかなわん。
こうして俺の朝はとてつもなくうるさいい日常の始まりだったーーー
***
学校に着くまで三人で並んで歩く。
何とも奇妙な組み合わせだ。
「ロワールって一つ下の学年になるのかと思っていたけど、早生まれだったの?」
「なんだ?その早生まれとは…。知らぬが、教師とやらが決めたことだ。」
「何だか特典付きみたいな対応ね。私達と同じクラスになるだなんて。」
そう言って輝夜はケラケラと笑った。満流はちょっとだけ膨れっ面だ。ま、アイツはいつだってそうだから俺は無視してるがな。
「輝夜さん!満流!ロワールさん!おはようございます!」
そう挨拶をしながらやってきたのは悠一だ。
「そなた、何故俺や輝夜には敬語なのだ?」
俺がそう突っ込んで聞いてやると輝夜も満流も目を丸くして驚いていた。
「ん?なんだ?お前たちのその反応は…。」
「え、いや…。そう言えばそうだったなって…。」
「は?今頃か?!」
俺は輝夜がかなり鈍感なんだということをこの時初めて知った。
満流も悠一も苦笑いしていたな。ハッ。
しかし授業とは退屈だな。
そう言えば家庭教師からこのような教えを遥かな昔に聞いたことがあるな。
俺は教室とやらの部屋の窓から外を見た。
どうやらこの高さは俺が産まれてからずっと暮らしていた〝あの城〟の俺の部屋にとても似ている。
遠くに山が見えて、違うのはここの世界では何だかせわしないということだ。
あぁ…、あのときの陽射しと今日の陽射しは、何だか似ているな…。
***
俺が人間だった最後の日────
ミリアナと共に母の部屋を訪れた、あのときの陽射しだ。
何も知らなかった俺はまだ幼く、両手いっぱいに花を抱えたミリアナを抱き上げて母の元に向かったあの日だ。
あぁ…、こんな日は優しい思い出を思いだすな、
ロワールは半分夢をみているような、そんな感覚になった。
鼻先を甘い香りがくすぐる…。
あぁ…、この香りも、何だか懐かしいな…。あれほ何時の話だ?
そうだ。あれは俺が吸血族になってすぐだ。
俺が産まれてから暮らしていた城は俺の暴走のせいで壊滅した。
俺は人々から逃れるために城を捨て、他国の貴族になりすましながら生き長らえてきた。




