巻頭言
誰がそう語ったのかは判らない——。
数多の国が肩を寄せ合う〈寄る辺の〉レヴェナント大陸。――魂が吹き溜まる終着地。未知の湖畔より滲み出た魂は盲目のうちに寄る辺へ足を踏み入れる。魂たちは、そうして再起の刻を待つ。
故に大陸を眺めれば赤子が膝を抱え蹲る姿に見えるのだそうだ。それは、産まれ出る刻を待つ赤子のそれに似る。
閑話休題。
人々、その魂の営みとは泡沫の夢のようで儚く、脆い。
では、肩を寄せあう国々とは、民族とは、儚く脆い泡沫の夢を踏み固め誇示する心象の金型なのだろう。そう思いを巡らせれば我らが大陸〈寄る辺の〉レヴェナントが孕む一切合切の不穏も不条理も、金型から溢れ出た細工菓子の粕なのだと腹落ちする。無論。溢れ出た粕こそが再起の刻を得るのだ。そう願いたいものだ。
物語は〈寄る辺の〉レヴェナント大陸中央に穿たれた湾、その西に位置するラントレッド王国で産声を挙げる。
大陸の均衡を担った二十五の神々。それを統べる〈名も無き神〉は、王国に御座を置き悠久の刻を安寧に過ごした。
しかし、とある赤月の夜。
多翼を背負う聖人が御座へ姿を顕すと〈名も無き神〉へこう云った。
「一文字の神よ。我らの〈正義の機構〉を成すため我が教典へあなたの秘技を書き記して欲しい」と。それは連日連夜続いた。〈名も無き神〉はこれに苦慮すると、二十四の神々を引き連れ、奈落へ姿を消してしまったという。これが、魔法の消失とラントレッド王国の壊滅の歴史——その口伝だ。
〈名も無き神〉の没落。
それから永い刻の後——王国はラントレッド新王国として復興すると、新たな神を迎え、こぞって古き神々の遺物を掘り起こした。
第三次旧都探索計画の〈言葉の写本〉の発掘は二十四の魔法音素を呼び戻し、それまで無用の長物であった、護符を代表とした魔女の遺物の力を引き出すことに成功。世界に魔法が還ったことを知らしめた。
人々はこの成果に湧き立った。
それから更に刻は流れ、第九十三次旧都探索計画が進行する今。
——神々の物語をなぞるよう、赤く輝く満月が夜空へ昇った。




