~人の御旗に集いしは~(5)~
「なんだよ……コイツ等もさっきのヤツの仲間か…?」
「いや、少し前に湿地から帰って来た連中かもしれない。掃溜から出てくるのを見た」
「って事はやっぱ『円環』じゃねーか。愚か者が」
『愚か者は人に非ず。愚か者は人に非ず。愚か者は人に非ず。』
一人が口走ればもう一人が、もう一人が口走れば━━。瞬く間に伝播した信仰は僕達の逃げ道を塞ぐ。
この後、転がる男の様に多勢に無勢となって死ぬかもしれない。その恐怖に最も怯えているのはパーシィだった。
「(……せめて彼女だけでもッ…!!)」
一歩がじわじわと僕達の領域を侵し始める。こうなってしまえばもう……規則や資格等どうでも良い。目の前に迫るのは、僕が人間が嫌いだという『理由』その物だ。
誰からも認められぬ正気を盾に迫害を娯楽とする、その精神性が嫌いだ。
優れていると思い込む傲慢さが嫌いだ。
快楽と愉悦の為ならば人を踏み台にしても構わない冷酷さが嫌いだ。
ナイフに手を掛け、アレに牙を剥かなければならない。一人分の糸口でも構わないと迫り来る人波の一人、その喉笛を睨み据える。
「はいはい、ソコまでソコまで。勝手に集会を開いて何やってんのさ」
……聞き覚えのある声で、波が止まる。一斉に皆、声へと振り向き、僕達から離れていく。隙間から次第に露になる姿。
僕とパーシィが出会ったあの日、彼女を虐げて愉しんでいた衛兵の一人だった。
「これはこれは、シヴァル国衛兵団の……確か…第三小隊所属のクローネ兵士官ではないですか」
「名前なんざどうでも良いんだよ。それよりもだな、アンタ等か?アレやったの」
呆気に取られながらも、周りから人は離れていく。直属の衛兵が現れたともあれば如何なる理由であっても、暴力行為を働ける訳がない。……が、安心は出来ない。あの衛兵も僕達に対して似たような事をしたのだから。
クローネという名前らしい衛兵は、十文字の白刃を血染めの塊に向けるが信徒はそれに対して首を振るっていた。
「いえいえ、アレはソコに転がっていた物ですよ」
「あぁそうかい━━。まぁ、そういう事にしておくからさっさと散りな。
コッチは一切話なんざ通されてねぇからよ、無許可として連行したって何も言われねぇんだからな」
……以外とも思ったし、妥当とも思った。疎らになり始める信徒達は『勝てる相手としか争わない』。きっとそれを元に糾弾すれば、きっと鼻に掛けてこのように宣うだろう。
『我々は獣ではない』と。
━━遠巻きから注がれる好奇の瞳の中心、クローネという名前らしい衛兵と僕達に近づく者は誰もおらず、衛兵は面倒そうな溜め息と共に槍を担ぎ直す。
「『何で助けた』って顔してんねぇ。前も言ったと思うけどさ、仕事なんだよ。これが」
「……秩序と平和の上に成り立つ平和とやらですか。それなのに死体には追及しないんですね」
「当然だろ? ワザワザ波風立てて下手に刺激すりゃ忽ち小競り合いが増えちまう。俺ァ別に慈善でこんな姿形してるワケじゃねーのよ。
叡知派なんて宣っちゃいるが、結局の所自分達の『やりたい放題』にそれなりの理由があるって証明したいだけさ。さぞ気楽だろうが、彼処まで下劣な御旗はお断りだね」
…軽くあしらわれてしまった気がするが、あの時の様に僕達に危害を加える様子はない。パーシィは僕の陰で怯えて居るものの、クローネは遠慮も無しに一歩を越えてくる。
「まぁ、コイツは縁ってヤツだ。あん時はただの犯罪者と冒険者、そして衛兵。
けどまぁ見事にしてやられちまって、巡り巡って……ってヤツだ。……ほれ」
「え━━━?」
パーシィに手渡されたのは一枚の封書。受け取った当人は良く分かっていない様子だったからか、彼は続けながら踵を街中へと返した。
「渡すモンだけは渡しておかねーとな。……その投斧の武器証明だ。抵抗権もあるなら、最低限身を守る事くらいは出来ンだろ」
「ぶっ…!?なっ……なんで……?」
彼女の唯一の弱点ともいえる、『武器証明』の無所持。許可なく武器を携帯する犯罪行為が強い束縛となっていたが、何故か無関係である衛兵は彼女にそれを渡した。
……第三者が取れる筈無いが、その答えはすぐに出る。
「……最後に言い忘れてたがよ。俺はシヴァル国衛兵団第三部隊所属の『クローネ・ナターシャ』だ。
遠い親戚を気紛れで助けんのも、悪くはねェってな」




